出会いの朝8
そして、俺たちは三週間という時を稼ぎ、ようやく王都に着いた。
王都に着くと俺たちを出迎えたのは一人の身なりの良い紳士だった。
初めて見る顔だった。俺よりもかなり年上のようだが、その無駄のない体つきや所作からしてかなりの手練れであることがわかった。
男はハイドと名乗り、シェラの使いで出迎えにきたと言った。
それから俺たちを貴族や豪商が館を構える地区に案内され、ある一軒の屋敷に連れて行かれた。
その屋敷は周囲の屋敷よりもひときわ広い庭があった。
よく手入れが行き届いていて、俺たちが行った時も二人の庭師が草木の手入れをしていた。
門を抜け、玄関に近づくと屋敷の執事やメイドが俺たちを出迎えてくれた。
屋敷の中に案内されると、ハイドと名乗った男が、「今日からここを自分の家だと思って暮らしてください」と言ってきた。
そのこと自体には俺たちは驚きはしなかった。
それから、すぐにシェラが姿を見せ、俺とガイアはシェラに呼ばれて別の部屋に移動した。
その間、奴はハイドが屋敷のあちこちを案内してまわっていたようだ。
シェラが言うには、国王と宰相は奴の出方を見極めようと考えているが、軍の将軍の中には隙をみて奴を謀殺することを進言する者もいて、いまだ奴に対する対応が決まらないとのことだ。
これで俺たちが時間を稼いだ意味が無駄になってしまった。
この屋敷に案内したのも、奴にのんびり優雅に生活させ、その間に何らかの対応を決めようとしているに過ぎない。
まったくバカげている。
相手は魔王だ。そんな人間と接するような方法が通用する相手ではない。
今この瞬間にも、この王都で暴れ回るかもしれないというのに。
俺は部屋にあった椅子に腰掛け深いため息をついた。
そして、しばらくすると、屋敷のどこからか人の騒ぐ声が聞こえてきた。
俺は部屋を飛び出し声のする方に駆けた。
すると玄関ホールで奴とハイドが言い争っていた。
俺はハイドに何を騒いでいるのか尋ねると奴が屋敷の外へ出ようとしているとのことだった。
奴に表に出たい理由を聞くと街に行きたいと答えた。
もう、ここまできたら覚悟を決めるしかない。
この国でコイツを止めることのできる人間は俺とガイア、それとシェラぐらいだ。
止めるといっても、多少の時間稼ぎぐらいしかできないだろうが。
それでも人々が逃げるぐらいの時間は稼いでやる自信はある。
今からコイツのそばに張り付いて、王都で暴れまわらないように見張ってやる。
コイツが何かしたいと言い出したら、こっちの言うことなんて聞かないことは、三週間の旅の中で嫌と言うほど、わかっていた。
俺はハイドに責任を持って奴を見張ると告げ、屋敷を出た。
街へ行く道すがら、奴はキョロキョロと見るもの全てに興味を示し、俺たちにアレ何だ、何をする物だと質問攻めにしてきた。
俺は答えるのに面倒臭くなって、ガリアに相手をさせることにした。
すると旅の道中と同じように奴とガリアは楽しげに話し、それにいつの間にかシェラも会話の中に混ざっていた。
実に俺だけがあかの他人のようで居心地の悪い時間だった。
ほどなく俺たちが人々で賑わう街の商店街に着くと奴は急に駆け出した。
俺たちは一瞬のことに驚いたが、すぐに後を追った。
そして駆け出した奴は一軒の店の前で立ち止まった。
どうやら、雑貨などを扱う店のようだ。
店先に水を入れる手桶やタワシなどが並べてあった。
奴は、並べてある板のようなものを手に取り、まじまじと見つめていると、奥からこの店の主人らしき女が現れ、
「その洗濯板は五百ギリーだよ」
と声をかけてきた。
奴は隣にいたガリアにコレは何に使う物かと尋ねていた。
汚れた服などをコレで綺麗にすると教えてやると、途端に興味を失ったように洗濯板をその場に落として別の店に走っていった。
そんなことを何度か繰り返すうちに奴はこう言った。
「古道具屋は、どこにあるのか」と。
商店街の人に近くにある古道具屋の場所を聞いて、その店に行くと奴は置いてある品物には目もくれずに店の主人の顔を見るなり、店の外に飛び出して、また別の古道具屋を探しに行ってしまった。
それから古道具屋を三軒めぐり歩いてから奴は疲れたように広場の噴水の淵に腰掛けるとしばらく考え込んでいた。
そして、不意に立ち上がると俺たちにこう言ってきた。
「古道具屋をやりたい」と。




