表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

すれ違い



 どこかの地下。薄暗い神殿のような空間に、一人の青年が立っていた。商人ギルドの長、マーロンである。


 そしてその見据える先には、燭台の灯された祭壇と、漆黒の魔力が渦巻く炎のような存在がましましている。


「マーロン。復活の時は近い。生贄をもっと捧げよ」


 この世のものとは思えぬ、ドス黒い声。


「はい。現在転生者を含め、十人ほどの用意があります。しかし……」


「なんだ、申してみよ」


「傭兵ギルドの連中といざこざがありまして、このままではあなたの復活の妨げになるかと……」


「わかった……、セプタインを差し向ける。貴様は儀式の準備を急げ。」


「はっ……仰せの通りに……」






 業平がルメアの隠れ家に戻ると、三人は夕食の支度をしていた。幼子のピアまで手伝いをしている姿は甲斐甲斐しい。


「戻ってきた、目論見通りみたいだ。商人ギルドと傭兵ギルドの間でいさかいが起きている」


 ルメアにまずは報告。


「あら、それはよかったわ? 傭兵ギルドの人たちは血の気が多いものねえ」


「……血が流れるかもしれないぞ」


「ふふ、そうかもしれないわね」


「……あんたの狙いはなんなんだ」


 流血沙汰も厭わないルメアの姿勢に、若干の不信を覚える業平。


「まだ内緒。いずれ教えるわ。お金のほうはちゃんと渡すから、安心してね」


「……」


 しかしルメアには助けてもらった恩がある。悪人だとしても単なる悪人だとは考えたくない。


「ルメア姉、お腹すいた~」


「あらあら、くいしんぼさんね。それじゃ夕飯にしましょうか」


 猪肉の薬草包み焼き。ジビエ系の食事は業平も日花も初めての経験だったが、なかなかの美味だった。


「……ピアは家へ帰さなくて大丈夫なのか」


「……お家、帰りたくない」


「……」


「この子、女の子でしょう? 傭兵ギルドは男の人しか入れないから、両親から関心が薄くて、ほったらかし気味なの」


 そこを漬け込んで利用しているってわけか。と、業平は言いかけたが、黙っていた。




「眠い……」


 食事を終えた時にピアが目をこする。


「あらあら……じゃあ私、この子を寝かしつけてくるから、あとはお熱い二人で談笑でもしててね」


「あっ、いえ! 業平さんと私はそのような関係では……」


 手をぶんぶん振って否定する日花。ほんのり顔が赤い。


「そんなんじゃない……」


「ふふっ、冗談よ。それじゃあおやすみなさい」




 ぱちぱちと焚火のうなる前で、業平と日花の二人は膝を抱えてぼうっと過ごしていた。


「……」


「……」


 しばらく沈黙が続く。


「……業平さん……私が入社したての頃、覚えてますか」


「……ん? いや……」


「……そうですよね……」


 思い返すも、業平にはこれと思える関わりなどなかった気がする。何かしてしまったのだろうか。


「……」


「……」


 会話が続かない。もともと口下手の業平と、基本的にあまり他人とコミュニケーションを取らない日花。こうなるのもむべからぬもの。


「……寝ようか」


「……そうしましょう」


 火を消して立ち上がる二人。


「……覚えてて、欲しかったな……」


 日花がぽつりとつぶやいた言葉を、業平が聞くことはなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ