凋落
業平、日花、ルメア、ピアの4人は町はずれの森の、小屋の建てられた小さな空き地に来ていた。
「ここは?」
「私の隠れ家? 暇なときはここで魔術の実験とか、錬金術の調合とかやってたりしてるの」
「ルメア姉! はやく魔法教えて~!」
「ふふ、はいはい。じゃあまず、体内のマナに意識を置いて……」
「ん……」
「マナは大気中にもあるけど、人間が操れるのは体内のマナだけなの、それに心で命令を下して、体外で作動させる。例えば、轟け、雷!」
ルメアの十八番であるサンダークラッシュが、空き地に放たれる。しかし大分小規模なもののため、業平たちや森の木に被害はない。
「体外に排出されたマナは、例外的に体内で得た命令を実行できる。これが魔法の仕組み、じゃ、やってみて。指の先に火を灯してみましょうか」
「ん! わかった! えっと……えいっ」
ピアの人差し指の先に、ポッと火が出現する、が
「あー、消えちゃった……」
「上手上手、火を維持するためには、維持する命令をしておかなきゃだめなのよ」
「ああそっか、なるほど!」
「……あの……」
その様子をずっと見ていた日花が、口を開く。
「ん? なあに?」
「私でも、魔法を扱うことはできるんでしょうか……」
「ええ、できるわ? 転生した人の中にもマナは入り込んでいるから、覚えたいの?」
「はい。このままではただ皆さんのお邪魔になってしまうだけなので……」
「ふふ、良い心がけね。それじゃあなたも練習しましょうか」
「はい、よろしくお願いします……!」
日花が魔術の訓練に加わる。自分も参加したほうがいいのかと考えていた業平に対してルメアは、
「業平ちゃん、あなたは街の様子を見に行ってきて! 商人ギルドと傭兵ギルドの関係がどうなっているのか確認してほしいの」
「……わかった、行ってくる」
即答。
街に突くと、広場がなんだか騒々しい。見るに、二つの集団が向かい合って言い争いをしている。恐らく商人ギルドと傭兵ギルドだろう。
「てめえら、ウチのピアをどこへやった!」
メンチを切る禿げ頭、彼が傭兵ギルドのフドウだろう。
「……うちは存じ上げません。何かの間違いでは?」
飄飄とした青年。大分若いが、彼が商人ギルドの長だろうか。
「しらばっくれるな! てめえらが拉致に加えて人身売買してることはとうに知れてんだ!」
「はっはっは、言いがかりはやめて頂きたい」
……ルメアの狙い通りか。ここからどういう展開になるんだろう? と業平は眺めていたが、
「お、おい、お前、立川業平だろう」
「……ん?」
話しかけてきたのは東城製薬社長……いや、元社長の二条康。偉そうにふんぞり返っていたスーツ姿はどこへやら、ぼろぼろの布切れに身を包み、肌もなんだか薄汚い。
「た、助けてくれ! 奴隷なんてもう嫌だ!」
土下座をして頼み込む二条。
「……あ?」
この二条康には業平は大変な恨みがあった。なにせこいつこそが、業平への嫌がらせの指導者だったのである。
「……失せろ」
顎を思い切り蹴り上げると、二条康は「げふっ」と呻いて、無様に気絶した。
「ちくしょう……俺は社長なんだぞ……業平め……」
次の日、二条康は床掃除をしながら、業平への悪態をついていた。
「おい、ゴミ! なにぶつぶつ言ってやがる!」
「げふっ!」
主人である商人バランが、二条の腹を蹴りあげる。奴隷として転生したものの扱いとしては、これがこの街の日常であった。
「けほっ……けほっ……」
「はやく掃除終わらせろ」
「はい……バラン様……」
(絶対、絶対許さない、業平も……この街の連中も……)




