魔女と悪だくみ
助けてくれた魔女は、名をルメアと言った。かなり長身の女性で、業平と同じぐらいの高さまである。魔女じゃなくて戦士と言われても納得するぐらいの体格だ。胸はファルンと日花の中間ほど。しかし露出度が大きい。
ルメアは冒険者ギルドの魔法使いで、このダンジョンの見回りに来ていたらしい。先ほどのように窮地に陥っている冒険者を助けるのが主な仕事にしているそうだ。ルメアの勧めで業平はダンジョンを折り返し、街へ帰ることにした。
「スキルを試したかったのはわかるけど、あまり無茶をしちゃだめよ」
「……すみません」
気絶した日花をおぶりながら、ルメアに先導されて石の床を歩く業平。胸のせいでひどく背負いにくい。……と、日花も気が付いた様子で、
「ごめんなさい……私、邪魔でしたよね……ご寛恕ください……」
「そ……そんなことはない」
思わず肯定しそうになった業平だったが、そこまで冷酷ではない。実際危険を顧みず階層を進んでいった自分にも責任はある。
ダンジョンから出ると、日が暮れていた。街までの帰り道は森を挟み、夜に歩けば迷う事になると見て、三人はいったんその出口で夜を越すことになった。
ルメアは火の魔法で焚火を灯し、アリオは魔物の肉を割き、日花は薪をくべるなどして各々夕食の準備に取り掛かる。と、数分の無言ののち、ルメアが口を開く。
「ねぇ二人とも、私と組まない?」
「……組む?」
「えええ、そ、そんなっ! アリオさんはともかく、私は文弱の無能ですし……」
「大丈夫! "証人"は多い方がいいからね」
「証人……ですか……?」
「話を詳しく聞かせてもらわないと、どうとも言えない……」
「ふふっ、そうよね。かいつまんで言うと、商人ギルドが人身売買を行っているの」
「人身売買……」
「そんな、街の人はみんないいひとそうに見えるのに……」
「この国ではスキル無しの転生者の奴隷は認められても、国の住人の売買は認められていない……ましてやそれが、拉致を伴うものなんてね」
「そもそもなぜスキル無しの転生者にはあんなに風当たりが強いんでしょうか……」
「あ、その話? "転生"は基本的にこちらの世界が莫大な費用と労力をかけて発動しているのよ。具体的には魔石と呼ばれる魔力の結晶が大量に必要なの」
「スキル目当ての投資ってわけか」
「そう。だからスキル無しの人をひいちゃったときは、奴隷にでもして元を取るしかないの。ひどい話よね?」
「まあ、ざまあみろって思ってるが」
「……」
「話がそれたわね。商人ギルドは"転生"の儀式にも莫大な出資をしているから、街での発言力も高くて、きな臭いことをやっていても誰も口を出せない。だから反感を持っている人も多いのよ? 私みたいに」
「それで商人ギルドを……潰したい?」
「そうなの! ついでに有り金をありのことごと頂戴したいわね?」
「ついでがずいぶん大きいようですが……」
「もちろんお金は山分けよ。いかがかしら、お二人さん?」
「私はアリオさんに従います」
「……乗ってもいい、詳しく話を聞かせてくれ」
「ふふ、決まりね♪」
「でもルメアさんは、なぜそんなに商人ギルドを……?」
「金銭目的だけじゃない気がするな」
「……それはまた、別の話?」
三人が商人ギルドを破滅させる算段をしている間、夜は更けていった。