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ダンジョンと魔女


 ───冒険者って言っても色んな仕事があって、国中を転々とするランドワーカーや、街の近辺やダンジョンを調査するサーチャーなど、色々あるんで、業平さんがやりたいと思ってる仕事をやってくださいっす!


 と、ファルンには教わった。業平が選んだのはサーチャー。異世界に来たばかりの身に、国中を転々とするランドワーカーは荷が重いように感じたのである。本格的に世界を回る冒険は、この世界を理解してからでも遅くはない。




 そんなわけで、業平は街の北方にあるダンジョンに来ていた。しかし問題がひとつ。


「ついてこないでいいって言ったのに」


「そういうわけにはいきません……」


 日花がついてきていたのである。


「危ないぞ」


 冒険には危険が伴う。全耐性(オールディフェンダー)の試験がてら、あまり凶悪な魔物のいないダンジョンを紹介しいてもらった業平だったが、何のスキルもない日花がついてくるのは心配だった。

 お供をしてもらうなどと言っても、日花には街中での買い物の手伝いや、住居の管理などをしてもらうつもりで、冒険にまでついてきてほしいとは思っていなかったのである。しかし現実には、荷物持ちだけでもさせてほしいと言ってきかない。


 日花は業平の観察するかぎり、生真面目すぎるきらいがあった。命じられても居ないのに夜遅くまでに残業し、仕事をやり遂げる姿は社内で評価が高く、出世も期待され、加えて人格者……しかし、その融通の利かなさが玉に瑕と評した社員は多いのだ。


「大丈夫です、私はあなたに救われたのですから。この慧可断臂、決して変わりません」


「救ったっていうのは大げさだと思うけど……」


 別にそこまで大層な事をした覚えはない。ただあのまま奴隷となるには少し可哀そうだと思っただけで。業平のことを悪く扱わなかったことを少し感謝しているだけで。あと少し胸が大きいと思っただけで。


「……業平さん、危ないっ!」


 ぼーっとそんなことを考えていた業平の意識を、日花の叫びが覚ました。しかし時すでに遅く、猪のような魔物はすでに業平の懐に入っており、その体当たりが直撃。……が。


「……え」


 とてつもない衝撃であるはずにも関わらず、業平の身体は微動だにしなかった。字のごとく痛くも痒くもない攻撃に、何よりも驚いたのは業平である。


「これが……全耐性(オールディフェンダー)……」


「な、業平さんっ」


「あっ……おう!」


 日花の呼びかけに、またも目を覚まされる。慌てて業平が目の前の敵に剣をふるうと、その刃は眉間に直撃し、猪の魔物は断末魔をあげた。


「今のって……」


「そうだな、これが俺のスキル……みたいだ」


 改めて自らのスキルの性能を実感する業平。この全耐性(オールディフェンダー)さえあれば、もう少し先に進めるだろう。




 階層を進む間、苦戦らしい苦戦はなにひとつなかった。なにしろ全耐性(オールディフェンダー)が、あらゆる攻撃をよせつけないのである。

 魔物をしとめるのに難渋したものの、それは卵の殻を剥くのと同じで、必ず成功が約束されている苦労なのだから、大した労力ではない。


 魔物が必死に攻撃している間、自分は余裕しゃくしゃくで切りかかるのは、少し気分がよかった。





 しかし、ついに恐れていた事態が訪れる。





 中層の辺りまで来た業平と日花は、魔物の群れに囲まれていた。

 業平は何匹来ようと蚊の群れに襲われるようなものだが、日花はそうはいかない。


「……いざとなったら俺を盾にしろ」


「そ、そういうわけには……きゃっ」


 スライムの吐き出した酸が、日花のスーツを溶かす。どうやら皮膚までは届かなかったようだが、このままでは危うい。





「……このっ!」


 慌てて駆けだした業平はスライムを両断し、日花を振り返る。日花は服が溶けて露わになった胸を隠しつつ、心配そうに業平をまなざしていた。


「自分の心配を───おいっ!」


「えっ……あぁっ!?」


 とびかかったゴブリンの振り下ろすこん棒が、日花の頭を打つ。くらり、倒れ込む日花に業平は走り寄って支え、傍で構えていたゴブリンに蹴りを見舞って追い払った。

 しかし、別の魔物の放った火球が直撃し、軽いやけどを負ってしまう。


「くっ……全耐性にも限界があるのか……」


 自分は大丈夫。しかし日花が……。いったいどのようにこの窮地を脱するか、思案していたその時。



「サンダークラッシュ」


 天井から稲妻がいくつにも分かたれて落ち、辺りの魔物を一撃で仕留める。


「大丈夫? ものっそい強く頭を打ってたけど」


 階層の出口には、大きなとんがり帽子をかぶった、魔女が杖を持って立っていた。

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