冒険者ギルド
「……あの」
しばらく会話もなく異世界の住人についていった二人。最初に口を開いたのは日田だった。
「……なんだ」
「なぜ私を……?」
日田は東城製薬の中で唯一業平に愚劣に当たることはなかった。業平はそのことが気に入るとは行かないまでも、情状酌量の余地はあると思ったのである。あと胸がでかかった。
しかし正直にそれを言うのははばかられ、適当な理由を思いついて、
「……お前は従順そうだからな」
「……そうですか……」
……少し口が悪かったと反省する業平だったが、自らの優位性を保持するために謝ることはなかった。
「……ここがギルドの総合案内所です。どうぞ、業平様のお好きなギルドに」
「……わかった、案内ありがとう」
「業平様だ!!」
「業平様! ぜひ我が商人ギルドに!」
「いやいや! 全耐性は我々傭兵ギルドにこそふさわしい!」
業平が案内所に入ると、待ち構えていたようにわっと建物の中が湧きたち、百はあろうかの群衆に包囲された。もみくちゃにされる業平だったが、ひとつ咳払いをして皆を静かにさせる。
「……その、冒険者ギルドってあるか」
業平は元の世界ではひとりでRPGを一日中やり込むゲーム中毒者だった。そのために、"冒険者"の肩書にはひどく惹かれている。静まり返った人々の反応を見て、やっぱり無いか……と思う業平だったが、
「は、はいっ……こちらっす!」
後ろのほうで、短髪の少女が声をあげた。業平より一回り年下に見える、ボーイッシュな女の子。あと日田ほどではないものの胸が大きい。
「じゃあ冒険者ギルドに入れてくれ」
「そんな……」
「業平様……」
業平の選択に、群衆はひどく落胆したが、本人の判断なら仕方ないと徐々に離れていく。
やがて落ち着いて会話できる状態になると、短髪の少女はぴょんと業平の前に近づいて、
「あ、えっと、自分ファルンって言うっす! 冒険者ギルドの、受付をやらせてもらってるっす!」
「業平だ。えーっと……どうすればいい?」
「では、こちらにお名前を……!」
全耐性を前にして、ファルンのひどい緊張が見て取れた。しかし自らの仕事を懸命に果たそうとしている。
業平は羊皮紙と羽ペンを受け取り───未知の言語がびっしり書き記されていたが、名前は空欄に書けばいいと当たりをつけて───自らの名前を漢字で記述した。
「これでいいか? こっちの言葉だけど……」
「はい! 大丈夫っす! これでイサオナリヒラ、と読むんですね、了解! それじゃ業平さんは、これから冒険者ギルドの一員っす!」
「ああ、よろしく頼むよ」
かくして、業平の冒険者としての異世界ライフが始まる。