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スキル判定



 業平が目覚めると、そこはまだ会社の屋上だった。


「あれ……?」


 先ほどの隕石は何だったのか、と辺りを見回す最中、あることに気が付く。


「ここは東京じゃないのか……?」


 赤い屋根のならぶ石造りの街並み。まるで中世ヨーロッパのような景色が、眼下に広がる。さらによく見ると、会社の周りには人だかりができて、なにやら騒いでいるようだ。


「いったい何が起こったんだ……」



 社屋の出入り口まで降りると、会社の人間たちと見知らぬ住人たちとの間でなにやら話し合っていた。


「貴方がたは、別の世界からこの世界に転移してきた、転生者と呼ばれるものたちなのです」


 耳を疑うような言葉。しかしそう考えると、色々な事のつじつまが合う。ほかの社員たちも、難渋しながらも納得した様子で、


「我々はこれからどうすればよいのでしょうか……」


 と先の事を尋ねた。


「ご安心を! 転生者様たちにはスキルという特殊な技能が備わっています。このスキルに基づいて転生者様たちには高い待遇を持って、いろいろな仕事に就いてもらいます」


 この言葉を聞くや、社員たちは活き活きして盛り上がり、


「すげえ! なんだか漫画みてえ!」


「がっぽり稼いで社屋よりでかい家を買ってやるぜ!」


 などと、皮算用をはじめる始末だった。


「ではスキル鑑定士の儂の前に並んでくだされ。すぐに終わりまする」



 しかし……。




「貴方はどうやら、スキル無しのようですじゃ……」


「え、スキル無し……?」


「スキル無しの転生者なんて、ゴミじゃねえか……」


 鑑定を受けた最初の一人は、なんとスキル無し。最初の活気はどこへやら、スキル無しの男は見事に落胆して、


「嘘だ……元の世界じゃばりばりの営業マンだった俺が……」


 そんな男の部下が、まるで上司を追い立てるように前へ出た。


「残念でしたね先輩。次は俺の番です」


「……貴方もスキル無しです」


「え……」


 先行きが暗くなる。最初の一人だけならまだしも、次の人間までスキル無しということは……。





「スキル無し」


「無し」


「無しじゃ……」


 切って捨てるように次々と玉砕をしていくリーマンたち。これにはたまらず声を上げ、


「うそだ! 何かの間違いだ!」


「そのじーさん、インチキじゃねえの!?」


 しかしスキル鑑定士の老人ははぁ、大息を吐く。


「スキルはその人間の生き方が反映される。空っぽの人生しか歩んでこなかったあんたらには、スキルがやどらんってことじゃよ」


「そんな……」


 愕然とする社員たち。そんな彼らの最後尾で待っていた業平の番がやってくる。無論業平も、スキル無しと思われたが……。





「……すごい、貴方は全耐性(オールディフェンダー)のスキルを持っていまする」


 物々しい老人の口ぶりに、住人たちの雰囲気が一変した。


「オールディフェンダー!?」


「じいさん、それってすげえのか!?」


「……何かよくわかりませんが、俺に本当にそんな力が……?」


 業平も困惑した様子で尋ねる。


「オールディフェンダーはあらゆるダメージに対する耐性を持つ力。儂も実物は見たことがない。どうやらものすごく苦労されたようですな。その苦労が報われたということじゃ」


「……」


「クズの立川にそんな力が……」


 見下してきた業平が、とてつもない力を持ったことに動揺を隠せない。そして、不安に駆られた一人が聞いた。


「あの、スキル無しの人間はこれからどうすれば……」


「スキル無しの人間は……奴隷としてこの街で生きることになる」


「奴隷!?」


「ふざけんな!」


「黙れ! スキル無しのお前たちに権利はない!」


 気が付くと、出入り口の前に半円状に兵隊が整列している。その兵隊たちが、こちらに刃を向けて威嚇。そんなものを見れば、今までさんざん尊大に振る舞ってきた者たちもすくみ上り、


「ひっ!」


「ゆ、許してくれ……そ、そうだ! もう一回、もう一回鑑定をしてくれ!」


「二度目は無いのじゃ。皆の者、連れて行け。……業平様は、どうぞこちらへ」


 嘆願を冷酷に切り捨て、住人達の長と思わしきものは業平を招いた。しかし業平は逡巡の後、次のように頼んだのだった。


「すみません、こちらで一人で過ごすのも不安なので、できれば一人、元の世界の住人からお供を頂ければ……」


 この言葉を聞くと、長ははたと気が付いたように手を叩き、


「おお! それはそれは……気が付きませんで……どうぞ。所詮こやつらは奴隷の身、業平様の好きなようにしてください」


 この言葉を聞くと、社員たちはわっと業平に詰め寄る。




「立川! 俺を連れて行ってくれ!」


「お前には上司としてよくしてやっただろ!」


「立川先輩! 俺、立川先輩のこと尊敬していました!」


 業平は今までさんざん自分を痛めつけてきた人間の掌返しに、激しく嫌悪を覚えた。


「……残念だが、連れていく人間は決めてある。日田、来てくれるか」


 業平の視線の先には、気の弱そうな、大人しい同僚がいた。


「……私、ですか……? そ、そのような懇到切至……!」


「では、その者と一緒に一度、ついてきて来てくだされ」


 日田日花(にちだにちか)。長い黒髪が腰まで下り、スーツのボタンを3つ開けねばならないほどの大きく張り出した胸が目を引く、業平の後輩の女性。


「おい! 待ってくれ!」


 当然この人選に、社員たちは納得しない様子で叫び、一人が地に頭をこすりつけると、まるで群体のように周りの人間も次々とそれに従った。


「待ってくれ立川!」


「頼む! 奴隷なんて嫌だ! 頼む……」


 この後に及んで醜く保身しか考えない東城製薬の人間たちに、業平はあきれ果て、


「関係ない」


 と吐き捨てて、日花の手を引いて、異世界の住人達の案内についていくのだった。

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