表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/13

魔神降臨

 日は暮れて夜。祭りはいまも続いていた。


「……悪いことをしてしまったな」


 業平は日花を置いて行ってしまったことを悔いていた。すっかりはぐれてしまい、何時間か姿を探している。


「お、おい、伊佐緒……」


「……ん?」


 その名で呼ぶものに、良い奴はいない。振り返ると、ボロボロの布切れに身を包んだ、かつての同僚がすがるような眼で業平を見ていた。


「なんだ」


「か、金をくれないか、頼む」


 かつて自分を散々痛めつけておいて、奴隷に身を落とせば金の無心。その腐った根性に、業平は心底腹が立った。


「知るか」


 相手の腹を蹴りあげて、その場をさろうとしたその時、


「……社長……!」


「……あ?」


 社長? こいつらが口にする社長といえば一人しかいない。元東城製薬社長、二条康……。

 奴隷の視線の先を探ると、たしかにそれは居た。なぜか物々しい漆黒の外衣に身を包んで。


「なにやってんだ、あいつ」


「愚民どもよ、聞け!」


 人の発したものとは思えない、おどろおどろしく、膨大な声量。あれが二条康なのか?

 人々は声のしたほうを仰ぎ見る。



「これより魔神バーダ様が復活する! 貴様らは怯え、ふためき、血肉となって大地へと帰るのだ! ははははははははははは!」


「何いってるんだ、あいつ……」


 奴隷に身を落としたことで、頭をおかしくしたのかと思った業平だったが、次の瞬間、



 バキバキバキバキバキッ!!!


 巨木が折れる様な音と共に、漆黒の魔力が二条康の身を包み、その身体を変形させていく。巨大な、鎧のような、二本角の鬼のような、怪物の姿に。


「うわああああああ!」


 人々の悲鳴。どよめき。"二条だったもの"を中心に、逃れるように方々へと走って行く。


「……いったいなんだ、あいつ……!」


 ディアボロスを手にかけ、怪物を睨む業平。


「我は魔神バーダ。この世を混沌へといざない、すべてを破滅させるもの」


「大層な名乗りだな……」


 正直言って、業平はこのとき、魔神のことをそれほど脅威ととらえていなかった。何せドラゴンを倒したのだ、魔神の一人や二人ぐらい……。



 しかし、





 ブォンッッッ!!




 魔神が、携えた巨刀で空を切る。すると、とてつもない威力の衝撃波が発生し、軌道上の建物をすべてなぎ倒す。




「マジかよ……」



 思わず絶句する業平。しかし、自分を英雄と呼んでくれた街を、見捨てるわけにはいかない。




「はははははは! 逃げろ逃げろ! 愚かな人の子たちよ!」



 魔神は建物から降りると、つぎつぎと先の衝撃波を発生させ、街を破壊していく。



「待て、やめろ!!」


 魔神の目の前まで駆け寄り、訴える業平。


「……ほう、貴様か……全耐性(オールディフェンダー)の、転生者」


「これ以上は許さん……」


「ならば止めてみろ」


「言われなくてもっ……!」


 懐に入り、魔神に斬りかかる業平。


 ギィンッ!!!


「なっ……!?」


 しかしディアボロスは、たやすく弾かれてしまう。あのドラゴンのセプタインさえ屠った、魔剣ディアボロスが。



 ギィンッ!! ギィンッ!! ギィンッ!! ギィンッ!! ギィンッ!!



 何度も攻撃を繰り返す業平。しかし、魔神の剣さばきは業平の遥か上を行き、一撃すら許さない。


「はっはっは、その程度か……?」


 嘲笑を浴びせながら、魔神は業平を一蹴り。路面の上を無様に転がる。


「くっ……!」


 歯を食いしばり、くやしさを露わにする。幸い今の蹴りは全耐性(オールディフェンダー)によって痛くはない。だがあの衝撃波の攻撃。あれをまともに食らえば……。



 弧を描くように回り込み、距離を詰める業平。あの衝撃波の狙いを定めさせないようにするためである。



「……遅い」


 目の前に黒い巨大な身体が飛び込んでくる。魔神バーダが一瞬で距離を詰めてきたのだ、幸い身体は反応して、巨刀による斬撃は防ぐ。


「ぐっ……!」


 だが、手首が折れそうなほどの強烈な痛み。全耐性(オールディフェンダー)があってもこの衝撃とは。


 後ずさり、よろめきながら魔神バーダと対峙する業平。打つ手がない。その時、



 ズシャアアアアアアアアアアンッ!!



 巨大な雷が魔神を撃つ。



「……ルメアさん……?」



 雷の魔法。ここまで強大なものを使えるのは、一人しか思いつかない。姿を探すと、家屋の上に、とんがり帽子の魔女が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ