↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

この少年はルカ・ハニエルだ


(夢が覚めない……)


 朝、起きてメアリはベッドの上で唸った。目が覚めても依然いぜん幼いままだ。


 夢の中で寝て、夢の中で朝目が覚めるとか意味が分からないし、お腹はすくし、ご飯もおいしい。


(もしかして今こそが現実で、青年のルカと過ごした日々が夢だったのだろうか)


 記憶の中の人生をなぞるように日々を過ごし、二度目の人生といっても差し支えないほどの既視きし感に気が狂いそうだ。


 あのお茶会から何事もなくもう一年近くになる。


 ルカとはあれから会っていないし、出会うはずもない。

 

「メアリ様、支度しましょうね」


 侍女のサラがメアリの髪を結う。


 今日のメアリの服装は街歩きに適したシンプルな綿素材のワンピースだ。


 あいの植物染めは独特の味を出しており、手織りの温かみがある。


 髪型はみ込みの入ったハーフアップにして結び目に白いレースのスカーフをリボンにして結んでいる。


 手に持つバスケットは街にも持っていける洗練された型で、中にはハンカチとボトルに入ったハーブティーに、軽食の卵サンドが包んだものが入っている。


 今日は父方の祖母の家に遊びに行くのだ。


 ジェーン子爵家の家紋のついた馬車に乗り込み、揺れに身を任せながら、外の景色を眺め思いをせる。


 街の入り組んだ通りに差し掛かると、メアリは祖母の好きな洋菓子店の看板を見つけ御者に声を掛けた。


 手土産にそこの人気商品のバタークッキーを買っていこうと思いついたのだ。


 洋菓子店の通りは車の通りが多く、路傍ろぼうに止めることができなかったため、少し離れたところにある専用の駐車施設に馬車を止め、メアリは侍女と馬車を降りた。


 店内はバターと砂糖の焦げるいい香りがして、身動きができないほどの人で溢れている。


 店内で長い列にもまれていると、窓の外の空の雲行きが怪しくなっていく。


 次第に厚くなった雨雲はぽつぽつと細い雨を降らせる。


 購入したクッキーの紙袋を持った侍女とメアリは、店の木の扉を出て外の雨に傘をさした。


 雨の匂いとクッキーの甘い香りが混ざり、メアリの脳裏に過去の情景が鮮やかに浮かび上がった。



 ――雨に濡れた金髪に鋭い碧の瞳、ほっておいてくれと突き出された腕――



 ぴたりと歩いていたメアリの足が止まる。横を歩いていた侍女が不思議そうにメアリの顔をのぞき込んだ。


「あ……」


 (そうだ。すっかり忘れていた。この先の通りを黒猫が横切って……)



 にゃー



 赤いリボンを首に巻いた可愛らしい黒猫が目の前を横切って細い路地に入っていく。


「メアリ様?」


 メアリが黒猫の後を追って駆けていくのに驚いて侍女があわてて後を追いかける。



 ――細い路地の先、立ち並ぶ住宅の細い階段の下――



 路地裏の階段下、そこに小さく膝を抱え、顔をせた金髪の少年の姿を見てメアリは息をとめた。





 (そうだったのか。全然気が付かなかった!)





 目の前でうずくまっているこの少年は、ルカ・ハニエルだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。