本当にごくたまにこの目が恐ろしいような気持ちになる
「はい、あーん」
蕩けそうな笑顔でフォークに突き刺した苺を目の前に座る婚約者の口元に運びながらルカ・ハニエルは可愛らしく見える角度で小首を傾けた。
ルカ・ハニエルの碧色の瞳は宝石のように光を反射し、彼の目の前のメアリ・ジェーンの顔を映している。
彼はその甘い顔立ちとふわふわの天使のような金髪から学園では王子様だとか天使様だとか言われて女生徒にとても人気なのだ。
口元まで運ばれた苺をぱくりと口に含んだメアリは目の前の婚約者の砂糖水のようにどろどろに甘い扱いにようやく慣れてきたところだ。
存在自体がふわふわの砂糖菓子のような彼が、メアリと学園で初めて出会ったときに氷のように冷たくあしらってきたなんて今ではとても考えられない。
そんな冷たい第一印象でさえ、彼の口から素直になれなかった裏返しだと打ち明けられるときゅんとしてしまったのだから恋とは恐ろしいものだ。
口に入れた苺を咀嚼するとふわりと甘酸っぱい春の味がする。
練乳なんて要らないくらいに甘い笑みでこちらを見つめてくるルカの瞳は覗き込むとその奥には深い海が感じられるくらいに底が見えない。
目の前のルカはメアリの様子を探るように強いまなざしで射貫いてくる。
部屋には女子受けしそうな甘い香炉の香りが漂い、ルカの気配りが隅々まで行き届いていることを感じさせる。
ごくたまに、とメアリはルカの瞳を見つめて心の中で独り言ちる。
本当にごくたまにこの目が恐ろしいような気持ちになることがある。
……そんなはずはないのに。