何のために三十分以上放置するつもり
「なあ、メアリ」
ある日園芸部の部活でマリーゴールドの手入れを行っているときにふいにレオに声を掛けられた。
ふと以前の記憶が蘇る。なんだか前もこのセリフをきいた。
たしか学園の敷地の端、高台になったところの記念樹のところで三十分近く待たされた挙句、なぜか本人はばっくれて、唐突に現れたルカが告白してきたのだ。
あのときはレオがキューピットとして、仲を取り持ってくれたのかと思っていたが、そもそもなぜレオは特に交流のないルカとの仲を取り持ってくれたのだろう。どちらかというとジョー・マーカスがルカの一番の親友だろう。
「今日、高台の木の下でまっててくんね?」
夕日に照らされてレオは真っ赤だ。
なんだかいつもレオは赤い顔をしている気がする。
部活の先輩もレオの真っ赤なほっぺがリンゴみたいで可愛いと騒いでいた。
メアリの心は目の前の夕日に伸びる影のように闇が押し寄せていた。
レオは何のために自分のことをこれから三十分以上放置するつもりなのだろう。
「どうして?」
ふいに心の声が口をついた。レオのオレンジの瞳は動揺に揺れ、右手で口元を覆う。
「……それは」
長い長い沈黙の後、意を決したように目を瞑り、レオが口を開くと、遮るように一つの影が割って入った。
ルカ・ハニエル、だ。
メアリの鼓動が速くなる。息の仕方を忘れたように息が詰まる。この息苦しさは恐怖からくるものだろうか。
ルカはその仄昏い目で二人を見据えると仮面を張り付けた笑顔で顔を傾けた。
その仕草はメアリが以前可愛いと思っていたそれだった。
今ならわかる。彼は意図的にあざとくやっているのだ。
「ギルベルトくん、水飲みにいったまま帰ってこないって部活の方で心配されてたよ」
穏やかに笑顔で告げる彼は親切で思いやりのある雰囲気を漂わせている。
「すまん! ありがと、ちょっと行ってくるわ!」
レオは急いで駆けて行った。夕日に照らされた庭園で、立ち尽くすメアリと、一向に帰ろうとしないルカが取り残された。
メアリは無言で佇むルカを遠慮がちに見上げる。
ルカは表情を失った貌でどこか遠くを見ているような目でユリアを見ている。
焦点の合わない瞳はユリアの顔を透過して後ろの校舎の壁でも見てるんじゃないかと思うくらいだ。
ルカはルカで何かに堪えているかのような虚ろな様子でいる。
一方、メアリはその沈黙の間で自分の気持ちに折り合いをつけていた。
「……私、あなたのことが」