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団長、勧誘する

椅子に座り直し、かつての上司の顔を見上げる。相変わらず綺羅綺羅しい顔で、戻って来いと何の迷いもなく素直に言ってのける。この地下牢には不釣り合いなまぶしさだ。

「何回言われても同じだ。俺はあそこには戻らねえよ。」

湿った声が反響する。

己はこんなに暗い声だったか。


宮廷魔術師団に復帰の勧誘はそれこそ何度もあった。

だが、戻れない。

自分が宮廷魔術師団にいたせいで、あの人を助けられなかった。

戻れるわけがない。


「『何回も』なんて来てないだろう。僕は今回初めて来たはずだよ?」

しかし、師団長はのほほんとピントのずれたことを言う。

「何回も遣いを寄こしたろう!それこそうんざりするくらい!」

そう、しつこいくらい復帰の打診が来た。魔術師団で仲のよかった者から、面識のほぼないような者、果ては動物を使役したり、映像や音声だけ、なんてこともあった。

「うん、君の能力はとても魅力的だからね。何回もお誘いはかけたよ?」

ゼスト団長はニコニコと笑いながら語りかける。だが、この師団長の柔らかい雰囲気に気を許してはいけない。

「でも、来たのは『遣い』の者だったろう?」

スッと笑顔を引っ込め、口元だけ弧を描く。そんな不気味な顔でこちらを視線で捉える。


「僕が『直接』来たのは今回が初めてだね?」

そう言われて、思わずハッと息を呑む。

この、魔術以外興味のないマイペースな師団長が、わざわざ足を運んでいる。

遣いの者ではなく、本人が。

それは、一体何を意味するのか。


「ふふふ、当たりだろう。じゃあ、僕の勝ち。そういうことで魔術師団復帰決定だね。」

何か裏があるのか、重要な事案が発生したのか、と考えているとサラリと勝手なことを言い始めた。

「待て待て。復帰なんてしない。」

「どうしてだい?」

慌てて否定すると、さも不思議そうな顔で聞いてくる。

いけない。

この人のペースに巻き込まれている。

「俺があそこにいることで、助けられなかった人間がいる。のこのこ復帰なんかしたら、あの人にも、あの人の息子のラクティスにも顔向けができねえ。」

馬鹿正直に吐き出す。

この人に、嘘をついても仕方ない。きっと通じないからだ。

彼女を…ソアラを助けられなかったあの無念は、ゼスト師団長も知っている。あの時、魔術による捜査『透視』を提案したのはゼスト師団長本人だからだ。『透視』を無碍に却下された師団長は笑顔で怒り心頭だったのを覚えている。

「まー、キミの気持ちとか都合とか色々あると思うんだけど、そういう細かいことは今どうでもいいかなぁ。」

だが、その師団長の言葉で一気にじっとりとした感傷から引き戻される。その言い草に、ぶわりと腹の底から感情がこみ上げる。どういうことだ。この人は何を言っている。

「ああ、どうでもいいって言い方はよくないんだっけねえ?キミのお気持ちや感傷は大いに結構。若者は大いに悩んでおくれよ。ただ、今は後回しにしよう、ってこと。」

ゼスト師団長が全く悪びれるでもなく言う。そうだった。この人に、『悪気』なんてものは一切無いのだ。今の言葉とて、こちらの心を荒立てようと言ったのではなく、単に思ったことを口に出しただけ。

それが許される立場と能力の持ち主なのだ。

「そもそもね、ラクティスくんは顔向けとか考えてもいないよ。さっきキミの復帰を打診したら二つ返事で許可下ろしてたし。キミは身分上はもう宮廷魔術師団の一員にしてある。」

またしてもサラリととんでもないことを言い出した。身分がもう宮廷魔術師団に移っていると…?

ラクティス、あの野郎勝手に何をやっているんだ。

いや、そもそも、それならこの人は一体何をしにここに来たのだ?


「キミは自分が魔術師団にいたせいで彼女を助けられなかったって言うけどねえ、今度は、キミがこっちにいないと助からない人間がいるかもしれないんだ。」

俺の疑問を余所に、ゼスト師団長はまたふわふわと喋りだす。

「話が見えねえな。一体なんの話だ。助からないってなんだ。」

俺は、自分で言うのも烏滸がましいが、はっきり言ってこの国五指に入る魔術師だ。魔力量も豊富、何よりコントロールと正確性は誰にも負ける気がしない。

それでも、所詮はいち魔法使いだ。

俺が国営の魔術師団にいようがいまいが、戦争中でもないのに人の生き死に大きく関わるとは考え辛い。そのぐらいの謙虚さは忘れちゃいない。

その存在のみでも人の生き死にに影響を及ぼすのは、やはりゼスト師団長。それに聖女という存在。

ああ、それと、あいつもだな。あの狂っているとしか言いようのない量と強さの魔力が……


「なあ、その助からない人間っていうのは……」

嫌な予感がした。


「レイだよ。」

ニッコリと、でも笑っているようには到底見えない冷えた瞳で、我が上司は答えたのだった。



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