事情聴取 7
「このことは、内密にしておこう。ただでさえ、別の世界から無理矢理連れて来てしまったのだ。君に余計な負担は掛けたくない。」
言いながらガリュー副団長が眉間にシワを寄せる。本当に後悔しているような顔をしている。
聖女召喚に巻き込まれて、その結果、まさにそのせいで、今私は面倒なことになっている。よもや、聖女の力を盗んだ罪人としてしょっ引かれる可能性が出てくるとは。勝手に元の世界から拉致しておいて、ずいぶんな話だ。
ガリュー副団長は、ちゃんとそのことを負い目に感じていてくれたのだ。
その気持ちだけだも嬉しくなる。
「まー、バレたらバレたで僕も黙っていないけどねえ。いい加減、魔術師を侮り過ぎだよね。この国の礎は魔術師が作ったっていうのに。忘れたのかな?」
一方、ゼスト団長は相変わらずの綺麗な笑顔で、でも目は笑っていないあの笑顔である。
これは相当怒っている?のだろうか。
今回のことだけではなく、積もり積もったものがあるのだろう。主に魔術師の扱いについて、魔術師のトップとして。
「大体、こんなレアな魔力持ちを有罪にして拘束なんて、勿体なさすぎるよ。まだまだやってみたいことたくさんあるのに。」
「兄上!」
……相変わらず物騒なことを言っているが、興味を持ってくれているうちが花と思うことにした。関心があるうちは、放り出したりせず、味方でいてくれるだろうから。
「ところで、このことを知っているのはここにいる4人だけか?」
「…そう…ですね。……あっ!」
ガリュー副団長の問いに、特に何も考えずに答えようとし、一つだけ引っかかることを思い出した。
「どうしたの?」
セレナが私の顔を覗き込む。
「ランサーは知っているかも。」
「ランサー様?」
何故、忘れていたのか。
そういえば、ランサーには相談と称してたくさんのことを話してしまっている。私の魔力の話だって沢山してしまった。
「直接、聖女の力の一部があるって話したわけじゃないけど……浄化と回復の力があるってことと、今回の討伐の感想は話してあるから…。」
セレナに返す。セレナには、ランサーに会いに行っていることは伝えてあった。
やってしまったかも。……とチラリと思う。
こんな面倒なことになるとは思ってもみなかったので、今回の核心に触れるようなことは話していなくても、それなりに推測できるかもしれない。
「へえ、ランサー、ねえ。」
ゼスト団長が興味を惹かれたように答える。
少し微笑んでいる。何だかちょっと楽しそうだ。
「そういえば、君を宮廷魔術師団へ連れてきたのはランサーだったな。今でも交流が?」
ガリュー副団長が私の方に向き直って問う。
「はい、ランサー…さんには魔法のことやこっちの世界のことを教えてもらったりしてます。話しやすい人なので、つい甘えてしまって…。」
ランサーと呼び捨てにしそうになりながらも、別に隠すこともないだろうと正直に経緯を話す。ランサーという名一つで分かるだろうか、とも思ったが、元々宮廷魔術師団にいたと言っていたので、通じたようだ。
「へえ、ランサーがね。……その、ローブもランサーだね?」
「はい。」
それどころかゼスト団長にはローブの入手先までもわかったらしい。そういえばお下がりと言っていたから、このローブに見覚えがあるのかもしれない。
「ふーむ。」
予想に違わず、ゼスト団長はしげしげとローブを見つめ、畳んだ状態のものを手にとって広げたりしている。
「全く、よくできている。相変わらずの正確性と緻密性だな。」
ガリュー副団長も横から見てため息混じりに評する。
「ランサーなら、僅かな情報から真実にたどり着くのも不可能ではあるまい。知識と勘の鋭い奴だ。」
イグニスさんが評する。
その言葉に、やっぱりか、と嫌な汗が背中を伝う。
ランサーを巻き込んでしまう。
あんなに権力争いや陰謀に振り回されて、全力でそれを避けていたのに。
なぜ、余計なことをべらべらと話してしまったのだろうと後悔が襲って来る。
「ならば、ランサーにも内密にするよう話をつけねばなるまい。問題は、ランサーは今は魔術師団の者ではないというところだ。上長の命令というわけにはいかない。奴はそうそう滅多なことを言わない人間だとは思うが…。」
「んー、それに関しては、僕に任せて。いい方法を思いついたんだ。」
ガリュー副団長の言葉を受け、ゼスト団長がニッコリと微笑む。その美しい笑顔は、どう見ても腹黒いような、何か企んでいるような雰囲気で。
私はランサーが巻き込まれるのだと確信した。




