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事情聴取6

「それは、兄上の……宮廷魔術師団団長ゼストの目からみて、真実に相違ない……ということか?」

ガリュー副団長が、急に固い言い回しでゼスト団長に問いただした。

「そうだよ。まあ、実際に聖女と一緒に魔法を発動する実験をすれば、はっきりするよね。明日にでもやりたいねえ。」

ゼスト団長は、いつも通りあっけらかんと答える。

聖女と一緒に、という言葉に内心うへえと思っていると…


「これは…、このことが真実ならば、大事になるぞ、 兄上!」

ガリュー副団長が椅子から立ち上がったそのままの体勢で唸る。


何かが欠けていて、聖女の魔法が発動しない。その欠けたものを私が持っている。

そんな私の推測だが、この国一番の魔術師であるゼスト団長にお墨付きをもらった。

私の推測は、正解だったらしい。


だが、ガリュー副団長の表情はどう見ても『聖女の魔法の問題が解決しました!嬉しい!』という顔ではない。いつも周りをよく見てくれるカッコいい理想の上司のガリュー副団長なのに、その冷静さや余裕は見る影もない。どう見ても焦っていて、顔色も悪く見える。


私としては、『聖女の魔法が何故か発動しない』という未解決の問題があって、その解決の糸口になりそうな事実を知っていたから話した。

ただそれだけのつもりだった。

いや、あわよくばお世話になっているガリュー副団長の助けになれば…なんて思っていたけれど。

でもガリュー副団長はどう見ても喜んでいない。


「あの……何が『大事』なのでしょうか…?私が聖女の欠けたピースを持っているのは、姉妹ですし一緒に召喚されましたし、そこまで悪いことのようには思えないのですが……」

おずおずとガリュー副団長に聞いてみる。

焦っていてそれどころではなさそうな風情だが、今、この人に聞かないと何も分からないと思う。

ガリュー副団長は、ふー、と長い溜息をつき、目を閉じた。


「この事実そのものが悪いのではない。」

ガリュー副団長が落ち着いた声色で答える。どうやら、先程のため息で焦りを落ちつけたようだ。いつものガリュー副団長の話し方だ。

「この事実によって起こるであろうことが厄介なのだ。」

そう言うとガリュー副団長は言葉を止めた。顎に拳を当て、何やら思案しながら口を開いては閉じ、を繰り返している。次に言う言葉を選んでいるようだ。


「レイ、君は、聖女の力の一部を自分が持っていると言うが、……これが故意によるものではないと証明できるか?」


「え…?」


故意でないことを証明する……。それって、まるで……


「さらに言うなら、聖女の力を盗んだのではないと証明できるか?」



「盗む?!私がですか?そもそも、聖女の力って盗めるものなんですか?」


思わず、大声が出てしまった。

それほど、予想外の言葉だった。

私が、聖女の力を盗んだ、と。

正直、『そんなわけあるか!』案件である。

そんな発想すら無かった。

異世界召喚なんて天変地異のようなことに遭遇し、しかも私は巻き込まれで誰にも必要とされておらず、わけも分からぬままこの世界で生きていくことを余儀なくされ、慣れない魔法に四苦八苦し、それでも生きるために働き、仲間との信頼関係を築こうと必死だった。

聖女がどれだけ尊いかなんて知るわけもない。

その力が希少なものであろうと関係ない。

私は私のことで手一杯だ。


「魔法を…能力を盗む、というのは非常に複雑で高度な術の応用の応用ではあるが、できなくはない。……そういう術がある以上、疑いをかけられる可能性があるのだ。我らが魔術師であるゆえに。」

ガリュー副団長がため息混じりに低い声で言う。

憤懣やる方ない、というような怒ったような悲しむような表情だ。


「魔術を使える人は一握り。使えない人にとっては、恐ろしいものなのでしょうね。」

セレナがポツリと漏らす。


そういえば、と、討伐の時のことを思い出す。

騎士団と宮廷魔術師団の間には冷ややかな空気が流れていた。

王子と聖女の討伐部隊に、魔術師は一人も呼ばれはしなかった。

異議を申し立て、無理矢理こちらから付いていったようなものだった。


『魔法の国』なんて呑気に思っていた。

魔道具なんてものも普通にあるし、貴族間の婚姻でも魔力の強い者が優遇されるというし、聖女は地位が高いし、魔法は身近で、魔術師クラスになるとさすがに特別な存在……くらいに思っていた。

まさか、魔術を使える者に対して、そんな無理解で理不尽な視線が横行しているなんて、思ってもみなかった。


「無論、我らは君が聖女の力を盗むなどと…そんなことを思い付く人間ですらないのを知っている。」

ガリュー副団長は机の向かい側から身を乗り出し、私のことを正面から見ながら、真っ直ぐに言う。

「魔術師団は皆、分かっている。君の味方だ。」

ガリュー副団長の言葉に、混乱しながらもジンワリ心が暖かくなる。


「と、いうかねえ、そもそも力を盗むなんて、効率が悪すぎるんだよ。すごーく難しい術を覚えて応用して、さらに応用して……って。そんな事するなら、最初から使いたい魔法を覚えた方が早い。魔術師なら常識だろう。やる価値もないし、そんな難しい業を魔術師になりたてのレイにできるわけ無いよねえ。あっ、勿論、君の人格的に盗むなんてやらないだろうっていうのが一番だよ?」

ゼスト団長の、技術方面からの説明に少し安心する。宮廷魔術師団の団長というこの国トップの魔術師が、物理的に無理だと断言してくれた。…その後の取ってつけたようではあるが、私への配慮もありがたい。


「それなのに、魔法は万能で何でもできるって勘違いしている輩が、結構多いの。討伐の時の騎士団の態度を見たでしょう?特に努力もせずに生まれ持った力だけで魔術師になって、王宮でも大きな顔をしている……そんなふうに思っている人間も一定数いるわ。困ったことに偉い人の中にもね。」

セレナがポソポソと語る。

ただでさえ、婚約者と家族のせいで酷い噂や扱いを受けてきたセレナだ。それに加えて『魔術師だから』という理由での差別まで受けてきたということだろうか。


「もしこのことが知られたら……聖女の力の一部をレイが持っていることを、上層部が知ってしまったら……」

イグニスさんが、まさか、というような表情で口を噤む。


「……身柄を拘束されるやも知れん。最悪の場合、裁判にかけられる可能性もあるだろう。」


ガリュー副団長が沈んだ声で言う。



「レイがいなくなると聖女の力が発揮出来なくなるのですから、そんなことしないのでは…?」

セレナが抗議の声をあげる。

だが恐らくガリュー副団長の予測は当たっている。

聖女の力を安定させるためには、私がいないとならないのなら、私を拘束して隷属させるのが一番なのだ。

しかし、ただ捕まえて使役するのでは人道的な問題がある。

それならば罪を作り上げ、拘束してしまえば、好きに使える。

そういう発想になってもおかしくはない。


気まずい沈黙が部屋中に漂った。

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