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事情聴取4

「2つ目は、聖女の力が、何故このタイミングで発露したか、だ。」

ゼスト団長が、ワントーン落とした声で語りだす。トーンは落としているが、その分凄みがある。

相変わらず口元は微笑んでいるが目元は笑っていない、あの表情だ。この表情のゼスト団長は、視線だけで一人二人殺しそうなほど恐ろしい。本人に自覚はなさそうだが…。

「僕はね、聖女がサボり倒していると思っていたんだ。でも、弟は違うって言って聞かなくてねえ。」

一転、雰囲気を和らげ、隣に座ったガリュー副団長の顔を、首を傾げて覗き込む。『コテン』と擬音をつけたくなるような、可愛らしい仕草と表情だ。この底冷えするような威圧感をちょくちょく出すのさえ無ければ、素直に可愛らしいと思えるのだが…。

「…俺は、聖女は『やらない』のではなく、『やってもできない』のではと思ったのだ。実際、魔力はありえないほど豊富、レベルも魔術師の人生3回分くらいの高いレベルに到達している。呪文はしっかり覚えていて、唱え方も正しい。それなのに、魔法だけが発動しない。これは何か原因があるのだろうと。」

ガリュー副団長が理路整然と話す。

「うん、お前は賢いねえ。優しいねえ。僕はそんなこと考えもしなかったよ。」

「なんの、兄上。」

相変わらず、ガリュー副団長はお兄ちゃんに褒められて嬉しそうだ。ドヤ顔をして心もち頬を上気させているように見える。この人もこれさえなければ理想の上司で理想の男性なのだが…。

「何かが欠けているのか、うまく噛み合わずにいるのか、魔法として発動しないのではないか。そう考えたのだ。」

そういえば、そんな話を討伐前にセレナから聞いていた。

何故か発動しない聖女の魔法。

レベルは充分、魔力も計り知れず。詠唱も間違いなく行っているのに何の魔法も発動しない。

ユナの性格上、もてはやされて当然、自分は特別という考え方だ。そしてこの世界でチヤホヤされるには、聖女としての力を見せつけるのが一番だ。動機は不純極まりないが、ここで手を抜くとは考えにくい。

つまり『やらない』のではない、出来ないのだということ。


「それなのに、今回の討伐で発動した。それはそれは見事に。」

ゼスト団長はまた目元の欠片も笑っていないあの表情に戻る。

「つまり、欠けていた物が埋まったということだ。」

「今までと今回の討伐。何が違う?何の要素が加わった?それを解き明かせば、聖女の魔法は安定する。」

ガリュー副団長が私達を射るような鋭い視線で見つめる。

聖女の教育担当としては、ここが正念場なのだろう。


「聖女は…今は魔法は使えるのでしょうか?」

「あー、ダメダメ。僕もね、聖女の魔法が発動したって聞いて、転移魔法であの聖女を連れ戻したんだけどさぁ、まだ疲れて眠っているとかゴネで、今も部屋から出て来すらしてないよ。また時間をおいて行ってみるさ。」

転移魔法で連れ戻した……なんか、ご愁傷様……。


「今回の討伐での聖女様の違い、となると……まず環境でしょうか。本物の魔物を見るのは初めてだったでしょう。目の前で多くの人が傷付くのも、魔法で魔物が殺されていくのを見るのも初めてでしょう。訓練や授業ではありえないことです。」

イグニスさんが述べる。

「目の前で傷付く人々を見て、どうにか救いたいと覚醒した…。そうであるなら、それが一番美しいんだけどね…。」

ゼスト団長が頬に手を当て、嘯く。

「あの聖女、そんな性格かな?」

「いや、違いますね。」

私が即答する。これまでのこと…一緒に過ごした人生を考えると、あの子はそんな殊勝な心は持ち合わせていない。

あの時、『どうしてあんたばっかり!』とユナは叫んでいた。傷付いた騎士たちを目の前に出た言葉がそれだ。私の魔法でスカルペンデュラをすり潰し、脅威が去った……それを喜ぶでもなく、自分が魔法を発動出来ないのに私が強力な魔法を使えることに、狂わんばかりに叫び散らした。だいぶ追い詰められていた精神状態だったとはいえ、相変わらず我が儘で勝手な女だ。

あの時は多少同情もしたけれど、あとになって思い出せばやはり腹のたつ女である。

あの時のユナには、魔法の発動しない焦りはあっても、怪我をした仲間を救いたいという気持ちは無かった。

むしろ、周囲の人間を仲間と思っていたかも怪しい。

「同じ回復魔法の使い手としてどう思う?」

ゼスト団長は、今度はセレナに問いかける。

「聖女のあの魔法は、回復魔法だけではなく浄化魔法も併せていた、特別なものなので…それに、規模と言うか威力も桁違いでしたので…なんとも…。」

少し戸惑いがちにセレナが答える。なるほど、あのまばゆい光、あれは回復だけでなく浄化魔法でもあったのか。

『威力が桁違い』とセレナが言ったが、確かにユナのあの魔法は強烈だった。セレナの回復魔法は傷ついた人間1人を癒すものだったが、ユナのあの魔法は見渡す限り一面を癒し、加えて浄化までしていた。

「そっかぁー。」

ゼスト団長は残念そうな、気の抜けた声を出す。前のめりになっていた姿勢から、脱力したように背もたれに身を投げ出す。本当に残念そうだ。

が、そこからムクリとまた前傾姿勢になり、こちらに視線を向け、私に問うてきた。


「じゃあさ、“お姉ちゃん”としてはどう思う?」

「えと…。」

『お姉ちゃんとしては』とわざわざ入れたということは、魔法の知識云々ではない意見でも構わないということだろうか。

「ただの主観とか予想みたいなものなんですが…」

一度唇をグッと噛み、ゆっくり話し出す。

「正直、あの聖女は味方が傷ついていてもどうにかしてあげたいなんて思うような子ではありません。なので、心境の変化という線はないと思います。」

「君が言うならそうなんだろうねぇ。」

ゼスト団長がのんびりと返す。

「あと、普段は手を抜いていたというのも考えにくいです。彼女は特別扱いが何より好きなので、聖女の力を見せつけることはあっても隠すようなことはしません。」

思っていることを分かりやすくと心がけ、説明していく。

ここまでは、事実と今までの経験に基づく推測で、おそらく間違いがないし、根拠も明確。自信を持って言えることだ。

次からだ。

はっきり言って根拠は曖昧、経験値も低い魔法に関する推測。不安だが、言ってみなければ前にも後ろにも進まない。

「あと……魔法の理屈や常識はわかりませんが…姉妹で魔法の補完って出来るんでしょうか?」

「補完?」

ゼスト団長が『?』と頭の上にありそうな顔をする。

「はい。聖女の魔法が発動した時、私の体からも何かが抜けて行ったような感触がありました。しかも私には、通常闇魔法の使い手には備わらないと聞いていた回復と浄化の魔法があります。今回の討伐後、その回復と浄化のレベルが上っていました。」


「つまり?」

ゼスト団長が、鋭い目つきで続きを促す。


「聖女に欠けているものは、私が持っていた。…ということではないかと。」





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