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事情聴取 3 

「一つずつ考えていこう。」

ゼスト団長がゆっくりと椅子に座る。

「まずは、闇の魔力と魔物についてだ。」

ゼスト団長の猫のような瞳が私達の目を見つめる。

「闇の魔力が魔物を惹きつけるというのは聞いたことがありませんが…」

「そうだろうね。」

イグニスさんの言葉に、即答する。

あれ?私の予想は外れなのか…。

それなら、何故スカルペンデュラは私に群がったのだろう?私の逃げる後を大群で追いかけて来たのに。

不可思議に思っていると、ゼスト団長は疑問も吹っ飛ぶような驚くべきことを言い始めた。


「滅多に出ないけど、魔法攻撃をする知性のある魔物もいるでしょ?」

「はい。」

「えっ」

続けて出たゼスト団長の言葉に、思わず声が出るほど驚いたのだが、私以外の三人は当然とばかりに返事をしている。

知性がある……それは、もしかして、『感情がある』ということではないのか? そんな魔物がいるなんて。

胸のあたりがザワザワと落ち着かない。嫌な予感がする。


「そうか、君は知らないかぁ。」

ゼスト団長は、おやおやという表情をする。どうやら知性のある、魔法で攻撃をする魔物がいるというのは常識らしい。

「今回のスライムやスカルペンデュラは知性の無い、その身体だけで害をまき散らすタイプだ。体液で物を腐食させたり、大きく硬い体で物を壊したり毒液で人を死なせたりと。」

すかさずガリュー副団長が補足説明に入り、丁寧に教えてくれる。相変わらずいい上司である。


「だが、高位の魔物となると、人間並み、時には人間以上の知性や魔力があって、魔法を使える者もいる。ドラゴンだとか、フェンリルだとか。ヒト型の者もいる……と言われている。」


ガリュー副団長の言葉にゾッとする。

嫌な予感的中だ。

今回のスカルペンデュラは、害虫の見た目だったから、何も考えずにすり潰した。

でも、それが動物の姿だったら?

人間の姿だったら?

さらに意思疎通ができたら?

言葉を交わせたなら?

『殺さないで』と言われたなら?

私は、動けるのだろうか?

間違いのない判断を下せるのだろうか?


「そいつ等が使う魔法って、何だと思う?」

私の混乱をよそに、ガリュー副団長の説明を受けて、今度はゼスト団長が尋ねる。その形の良い細い顎に人差し指を当て、いたずらっぽく微笑みながら。なんというか、近所の綺麗なお姉さんにからかわれている気分だな、とか場違いにも考えてしまった。いや、男の人だけど。

「魔法が使える魔物なんてこの数十年現れていないからね。知っている人もそういないんだけどさ。」

ゼスト団長がグルリと私達を見回す。


「魔物は例外なく闇の魔力なんだ。」

薄く笑みを浮かべつつ、ゼスト団長は言う。

闇の魔力。

私と、同じ。

わたしと魔物は同じ魔力。

ドッと心臓が鳴る。

嫌な汗が背中を流れた。


「建国伝説では、魔王は強力な闇の魔力で魔物を惹き寄せたらしいよ。」

さらにゼスト団長は追い打ちを掛けてくる。

魔王と言ったか。

そんなものがいるのか。

魔法があって、王様がいて貴族がいて、異世界だけど文明レベルは現代日本と然程変わらない、私の常識がある程度は通ずる世界……と思っていたが、魔王なんてものがいるなら、話は変わってくる。

王がいるなら、少なくともかつては国があったのだろう。魔物の国だ。そんな恐ろしい場所があった、もしくはあるなんて。

改めて、ここは私の生まれて育った場所などではないのだ、と痛感する。

昨日の討伐でもあの巨大な魔物を見て、己の常識の脆さを知ってしまったというのに…。


「魔王……ですか。こっちの世界はそんなのがいるんですか?」

混乱のままに声が大きくなる。

「あはは、伝説だよ、伝説。魔王とか、現代を生きる人たちにはもうおとぎ話だよねぇ。建国伝説で、1000年前に大魔法使いと勇者によって倒されたって書かれているくらいのものかな。」

ゼスト団長はあっけらかんと笑って言う。

この国随一の天才魔術師にとっては、魔王の伝説も、魔物と同じ魔力を持つということも、別に悩むべきことでもなければ偏見もないらしい。

いっそ即物的とも言えそうなその態度に、却って救われた気持ちになった。…ゼスト団長は、絶対に意図してやっていないだろうけど。

「だからまあ、闇の魔力が魔物を惹きつけるっていうのは多分正解なんだろうねぇ。実例は初めてだけどね。」

うんうん、と頷きながら目の前の麗人は話しかけるというよりは大きな独り言のように語っている。

「だって、今までの闇の魔力の持ち主は弱かったからねぇ、惹きつけるほどの魔力の量も強さも無かったんだよ~、闇の魔力自体珍し過ぎて、実証実験もできなかったし。でも、君の魔力量と強さなら充分だ。色々と検証ができるねぇ。試したいことがたくさんあるんだ。」

「兄上!」

愉快極まるといった調子で、なんだか空恐ろしいことを言い出したゼスト団長を、ガリュー副団長が咎める。

「済まない、レイ。兄上はこと魔法の研究になるとこの調子なのだ。」

本当に済まなそうな顔で、ガリュー副団長が私に頭を下げる。頭を下げるというより、項垂れていると言う方が正しいかもしれない。

「いえ…。何もできない私が宮廷魔術師団にいられるのは、この魔力が貴重だからだとうかがってます。研究対象となるのもある程度なら理解できますし。」

そもそも、入団の経緯が、“レアな闇の魔力持ちだったから”だ。入団試験もなく、特例で、長官特権で潜り込ませてもらった身だ。一人前なんかじゃない。役に立つことがあるのかも怪しい。そんな身分なのだ。みんなが優しいから、つい忘れそうになる。

「…レイ、闇の魔力は希少ではあるが、属性として存在を認められたものだ。今までも闇の魔力持ちはいた。その者たちは、みんな普通の人間だ。君は闇の魔力を持った普通の人間だ。」

ガリュー副団長の言葉に、ジワッと涙腺が緩む。慰めや誤魔化しではい、真摯な言葉だ。真っ直ぐに私の目を見て言ってくれた。そこには一片の嘘も見当たらない。

「そ、気に病むことないよ。むしろ僕は実験ができて嬉しい。色々と頑張ろーね。」

「兄上!」

またしても、ゼスト団長のアレな発言にガリュー副団長が慌てて窘める。

せっかく感動していたのにコレだ。


「兄上!次の話に移るぞ!」

ガリュー副団長は強引に話を戻してきた。

「次の?ああ、うんうん。」

ほわほわとしていたゼスト団長が、スッと笑みを消した。


「2つ目は、なぜこのタイミングで聖女の力が発露したか、だ。」


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