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事情聴取 2

「ここからは、みんなにも聞いていこうかな。」

そう言ってゼスト団長は椅子から立ち上がった。否応なく、ゼスト団長に視線が集まる。


「ソリオ湖畔にスライムが大量に湧いたというのは?」

「そのままです。あの、討伐され尽くしたはずの場所に何百匹もワラワラといました。」

セレナが答える。

「おかしいね。特に被害報告も無かったよね。ということはさ、極々短期間で湧いたってことだよね。」

「はい。何か異変の前触れかと判断し、撤退を進言しましたが…。」

セレナが言葉を濁す。

「あー、あの王子じゃね。」

せっかくセレナが気を遣って濁した核心をサラリと言葉に出す。兄上!とガリュー副団長が窘める。

「あはは。仕方ないさ、ホントのことだもの。」

全く悪びれもせず、ゼスト団長は笑ってみせる。

「王子はどうでもいいとしてさ。スライムだけじゃなく、スカルペンデュラが大量に群れを成したというのは本当?」

サラリと軌道修正をするあたり、本当に悪いとは露ほども思っていないらしい。

「はい。間違いありません。」

今度はイグニスさんが答える。

「それもおかしいよね。スカルペンデュラは群れを作らない。」

ゼスト団長は眉間に軽くシワを寄せ、片眉を少し上げて不可思議、という表情をしている。そういえばセレナも同じようなことを言っていた。

「スカルペンデュラが意志を持つように、レイに群がったというのは?」

「それについては推測の域を出ないのですが…。スカルペンデュラは皆、レイとセレナのいる結界を集団で攻撃していました。」

イグニスさんが自信無さげに答える。

「そんな事ある?スカルペンデュラは所詮虫だ。知性の無い魔物だよ?本能しか無いはずなのに。」

「だが事実だ。あのイグニスの結界が破れたのだ。スカルペンデュラ一匹の力でイグニスの結界を破るなど、到底無理なのは分かるだろう、兄上。」

言葉に詰まるイグニスさんに、ガリュー副団長が助け舟を出す。

「そうだけどねぇ…。スカルペンデュラが操られていた可能性は?」

「それこそ知性が無いのだから、操りようがない。」

「脳に働きかけるんじゃなくて、身体だけを物を操作するみたいに操った可能性は?」

「あの大きさと量だぞ、兄上。正確な数は今調べているが、100近くはいた。アレを全て操作するのは……兄上ならできるやもしれんが、他は誰一人出来る者などいない。」

「操作系の魔法が使われた形跡は無し?」

「詳しくは調べてみないと分からぬが、俺が現地にいて感知出来なかった。イグニスも、セレナも。

……兄上、あの現場にいた俺が責任を持って言う。スカルペンデュラは、確実に、明らかにレイに向かって群がっていた。間違いない。」

懐疑的な言葉を並べるゼスト団長に、ガリュー副団長がバサバサと切り捨てるように答えていく。この2人、弟がお兄ちゃん大好き過ぎて異を唱えるなど出来なそう、と勝手に思っていたけど、こと魔法や魔物に関してはこういう討論もできるんだ……と何だか場違いなことを考えてしまった。

魔物や魔法の知識が無さすぎて、聞く話聞く話全部知らないことだらけだ。分からない話をされると現実逃避したくなるものである…。


「実際に見たほうが早い。今回の討伐も記録映像が残っている。今朝方、記録管理課に無理を言って写しを作ってもらった。」

ガリュー副団長はそう言ってジャラリと机の上に何かを置いた。

手のひらサイズよりも一回り小さい黒い石にチェーンが付いている、一見アクセサリーかキーホルダーのような物が置かれていた。

「もう用意できたの?お前は優秀だねえ。」

ゼスト団長の表情がパアッと明るくなる。

「なんの、兄上。」

ガリュー副団長は嬉しそうな顔をしながら、机の上のその黒い石に手を添える。

すると、黒い石からぼんやりと光が出、その光は一筋の線となり、白い壁に向かう。同時に部屋の明かりの明度が下がり、壁に向かった光がはっきりと見えるようになる。

壁には何かが投影されていた。が、少し見ただけで分かった。これは昨日の討伐の様子だ。

定点カメラの映像のようだ、と思った。アングルが切り替わることなく、魔術師たちが見えるよう離れた場所一点からの映像だった。ガリュー副団長が(おそらく)操作して、アップにしたり早送りしたり、一時停止をしたりして説明を加えていく。

スライムの大群、ガリュー副団長の美しい光の矢。スカルペンデュラの登場、スカルペンデュラの大群に逃げ惑う騎士団。イグニスさんの結界に群がるスカルペンデュラの群れ、割れる結界、そこから逃げ出す私の姿。追いかけるスカルペンデュラ。そして、風ですっ飛んで行き、画面からは私の姿が消える。映像は、私を追いかけたスカルペンデュラの群れが列を成して移動しているのを映していた。その60秒後くらいだろうか。地鳴りが響き、地面の一部が陥没した。


「これは凄いね。生で見たかったな!」

ゼスト団長は目をキラキラさせながら言う。

信じてくれたとかそういう問題ではなく、完全に興味津々の顔だ。

「っていうことは、だ。スカルペンデュラは本能でレイの所に群がったということになるね。知性が無くて本能しか無いんだもの。」

ゼスト団長が笑顔のまま、真剣な表情となる。口元は笑っているが、目が笑っていない。

「それで、レイは自分の闇の魔力が魔物を惹きつけるんじゃ?って考えたんだね。」

「はい。スカルペンデュラが集団行動するというのは前回までは無かったことだと聞いて、今回は何が違うのだろうかと考えた時、聖女と私がいるのだと思いました。聖女は除外するとして、私には何があるのかと考えた時、異世界の人間であるということと、強い闇の魔力を持っているということが浮かびました。ただのイメージですが、『闇』って魔物っぽいなと思って。」

「それで行動したってことかぁ。よくそれだけの根拠で動こうと思ったね。」

そう言われると、かなり賭けだった気がしてくる。根拠は薄い、確実性はない。他人のことなら「やめておけ」と言ったかもしれない。

けれど。

「あのままだと、イグニスさんの結界が保たずにスカルペンデュラのエサになるのが目に見えていたので。結界には穴が開いて、眼の前に牙が突き立てられていました。黙って死ぬなんて嫌なので、少しでも抵抗できないかと思いました。」

目の前に死が迫っていた。

何もしなければ、確実に死んでいた。セレナも巻き込んで。

たとえ自棄でも悪あがきでも、大人しくあんな虫に喰われて死ぬのは嫌だった。

いまでも、有り有りと思い出せる。スカルペンデュラのぬらぬらとした光沢、無数にある脚の動き、牙とそこから分泌される毒液の色や臭い。


「そうだね。きっと僕でもそうする。」

ゼスト団長はふわりと笑った。今日初めて団長の本当の笑顔を見た気がした。



次の質問だ、とゼスト団長は表情を引き締めて言った、

「聖女が浄化の魔法を使った時、レイ、君は何をしていた?」

「ユナと手を繋いでいました。…ユナが魔法を使った時、自分の身体からも力が持って行かれるのを感じました。」

私も、ゆっくりと正確に答える。

私の仮説。

ユナが聖女の力が使えない理由とは。

私の力が暴走してしまうのは。


「君、闇属性なのに回復と浄化が使えるんだって?」

「はい。ステータスに回復と浄化のレベルの項目があります。昨日回復を自分の痣に試してみたら、一応できました。」


聖女の力と闇の魔力。

発露しない魔法と暴走する魔法。

まるで対になるように私達姉妹の力は働いている。


そこには関連性があるのでは?




「色々とあったみたいだね。一つずつ、考えていこうか。」


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