ToDoリストが作れない問題もある
寮の部屋に戻って来た。
部屋は既に暗い。規則正しい寝息が聞こえる。セレナはもう眠っているようだ。
起こさないように、音をたてないように気をつけながら入浴をする。
浴室の鏡を見ると、首筋に赤い痣と、胸の下あたりに指の跡が残っているのに気が付く。キスマークとぎゅうぎゅうに抱きしめられた跡だ。
思わず顔に血が上る。
それと同時に、あの時流されずに拒否して良かったと思う。
どうやらランサーの中では、恋心と性欲は完全に別物という認識らしい。これでうっかり体をつなげていたら、完全に性欲処理用の女になっていただろう。
ランサー相手にそれは嫌だ。
私がなりたいのは、恋人であって処理相手ではない。
それでも、体に残った跡を見ると、ドキドキしてしまう。好きな人に抱かれたい、体を繋げたいなんて思うのは普通のことだから。
ただ、この首筋の跡はどうにか消さないとまずい。明日は討伐の調書を作成すると言っていた。ガリュー副団長やイグニスさんと顔を合わせるだろう。何もなかったけど、見られたら気まずいなんてもんじゃない。
「回復…出来るかな。」
私のステータスには、回復の項目があった。セレナの魔法を真似してみれば、できるだろうか。
あの、暖かい魔力。
誰かを癒やす、優しい魔法。
暖かいということは、血液の流れを活発にしている?体温を上げて、代謝を極限まで引き上げている?フィジカルで足りないところは魔力で補う?
首筋に手を当て、セレナのようにまずは症状を確認する。
「解析。」
うっ血したところ……血が滞った場所を注意深く探る。流れる魔力が、僅かに滞る箇所があるのがわかった。
「ここか。」
この、滞りを解し、溶かす。魔力がきれいに流れるように。
「融解。」
その瞬間、炎のような灼熱を首筋に感じる。
滞りがたちどころに消滅し、ドッと何かの流れ(多分魔力だろう)が暴力的に巡るのを感じる。
セレナの魔法とは全然違う。こんなの癒やしじゃない。
慌てて首筋から手を離し、魔法を解除する。
私の魔法は爆発的で暴力的だが、まさか癒やしの魔法までこんなに強烈だとは思っていなかった。
跡は……消えているけれど。
消えて良かった、と思うと同時に、少し勿体ない気もする。ランサーと恋人同士になるのはなかなか長い道のりになりそうなのに、ここで跡を消してしまうと次はいつになるやら…。
……次、あるのだろうか?
悶々とした気分のまま入浴を済ませ、ベッドに滑り込む。
暗い天井を見つめながら、ランサーの過去の告白に思いを馳せる。
色々と衝撃だったし、恐ろしくもあった。
ランサーが高位貴族の嫡男というのは、以前買い物に出向いたお店の店主・乳母子のミラさんから聞いて知っていた。そして今は家を出て、戻る気が無いということも。
でも、その理由がかなり衝撃だった。
会ったこともない元王妃ソアラという女性への敗北感。
ラクティスさんの考えや立場への疑問。
あの王子の傍若無人ぷり。
簡単に人一人の命を消したり人生を変えてしまう権力の怖さ。
ランサーの現状。
このままでいいのかな?
知ってしまった以上、私はこのままでいいのだろうか。
ランサーは私に何かをしてほしいから告白をしてくれたわけじゃない。私は何も頼まれていない。何かをするのは、ただのお節介だろうし、私ごときが行動を起こしても劇的な変化など無いかもしれない。
けれど私には、このままがいいなんて思えない。
そして、何か動かないと現状は変えられない。
でも、何をしよう?
私に、何ができるのだろう……
何をすれば、ランサーもラクティスさんも幸せになれるのだろう。
鬱々悶々と考えていたが。
討伐による果てしない疲れがあり、いつの間にか私は眠りに落ちていた。




