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あなたが恋をするその時は

知らなかったことがたくさんあった。


私の知っているランサーは、気だるげな美丈夫で、やさぐれているようで優しくて、聞き上手で話し上手な、中身も外見もイケメンだ。おおらかというか、余裕な態度を崩さない、どこか育ちの良さがにじみ出ているような、そんな人間だった。

そんなランサーが私を拒絶したのは一度だけ。

過去の話に触れた時だった。

それがまさか。

侯爵家という高位貴族の跡取りとして生を受け、しかも外見、魔法の才能、勉学、全てに秀で、それなのに叶わぬ恋をし、その初恋相手は凄惨極まる殺され方をする。そのショックでエリート人生を全て捨てて、今に至る…。

ランサーの半生は、思ったより複雑怪奇だった。


それに、ラクティスさん。えげつないほど美しい人だったので只者ではないと思ってはいたが、まさか元王太子だったとは。

しかも母が冤罪を着せられ、魔力を封じられているという。

それでふと思い当たる。

私が宮廷魔術師団に入団する際、ランサーの紹介でラクティスさんが面談に来てくれた。

その時、『私には魔力が感じられない』とラクティスさんは言っていた。私には魔力が無いのかと大焦りしたものだが、あれは「『(魔力を封じられている)私には』魔力を感知することができない」という意味だったのか。

思い返せば、色々と辻褄が合う。

どうしてラクティスさんは魔法が使えないのに魔法庁の長官なのか。

どうしてランサーはあれほどの技術を持ちながら地下牢の番人なのか。

どうして地下牢の番人と長官に接点があるのか。

なぜランサーは侯爵家に帰らないのか。

何故、王子があれほど勝手に振る舞うのか。

なぜ王の存在感が希薄なのか。

感じていた小さな違和感が、答え合わせのように埋められていく。

魔法のある、ファンタジーで平和な世界のような気がしていた。

でもそうじゃない。人がいればその分欲望も、悪意も殺意もある。


冤罪で大切な人を眼の前で処刑されるなんて。

身分を剥奪されるなんて。

あの美しい人に、この優しい人に、そんな過去があったなんて、知らなかった。


ランサーも、ラクティスさんも、大切な人を悲惨な状況で失っている。

どれだけ傷付いたのだろう。


ランサーが私に対して、

「こんな感情は知らない」

と漏らしたのも納得がいく。

大切なものを扱うように触れてくるくせに、踏み込ませないし踏み込まない。

だって唯一最愛は、初恋の人が持ち去ってしまった。初恋が悲劇で幕を閉じ、大きな心の傷と共に、彼女はランサーの中で永遠になってしまったのだろう。

恋=初恋の人。

そう形作られてしまったと見える。

「こんな感情は知らない」のも当然、私のことは恋愛感情としては認知できていないということだ。


…これは、進展が難しそうだ。 

普通に告白して、告白を返してもらって、お付き合いして、しばらくしたら体の関係も許して、なんてベーシックな道程は厳しそうだ。


「…話してくれて、ありがとう。」

とはいえ、こんな心を打ち明けるようなことをしてくれたのは、単純に嬉しい。

少なくとも、信頼はされているということだから。

「ランサーを知れて、嬉しい。」

これは本心だ。愛しい、好き、という気持ちはあるし、同じ気持ちを返して欲しいという思いはあるけれど。

「知らない感情は、ゆっくり知っていけばいいんじゃない?」

今は恋人でなくたっていい。

ランサーの頬を手のひらで包む。男の人なのに、すべすべだ。

「とことん付き合うわ。私はあなたのそばにいたい。」

ランサーの眉がへにょりと下がる。こんな表情をすると、やっぱり若いんだな、と感じる。同じベッドに並んで腰掛けているが、美しく筋肉がついた190センチ超えの巨体がしょぼくれているのは何だか可愛く見えて、思わず髪を両手でワシャワシャと撫で回してしまう。

ランサーは困ったような顔をしたが、抗議の声はあげない。

何だかたまらなくなり、思わず額にキスを落とす。

「…!」

ランサーは驚いたようだが、離れることはなかった。


今は、「好き」を返してくれなくてもいい。

いつかランサーが本気の恋愛をする時。

その相手は私がいい。

そのためにも、側にいよう。

たくさん話しをしよう。

一緒に笑おう。

心の傷が癒えたのなら、恋をする気にもなるかもしれない。

打算だと言うなら言えばいい。


「これだけはおぼえておいて。

私は、あなたが好き。

たとえ、あなたが私の事を同じように思えなくても。」

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