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ランサー・プレイヤード

エルグランド王国の中でも、一目置かれる名門、プレイヤード侯爵家。

侯爵という貴族最高位の爵位、長い歴史、豊かで繁栄を極める領地。財力、名誉共に他の追随を許さない名門中の名門。

それ以外にプレイヤード侯爵家は『魔術のプレイヤード』と言われる程、優れた魔術師の輩出で有名であった。


そんなプレイヤード侯爵家に、今から25年前、嫡男が誕生する。

父譲りの深い海のような色の、美しい髪と瞳を持った可愛らしい男の子。


名前は、ランサー・プレイヤード。


ランサーは幼い頃から明晰な頭脳と優れた魔力を持っているのがありありと見て取れる子どもだった。将来を期待され、本人もその能力の高さ故、さして苦にもせず周囲の期待に応えることが出来た。

特に群を抜いていたのが、魔力の制御能力。

豊富な魔力を、適切に、正確に、精密に出力し、変化させ、作用させ、これ以上ないほど効果的に魔法を繰り出す。

その才能は、優秀過ぎて何度も家庭教師を変えねばならなかった程。

見た目はドールのように美しく、しかしながら中身は才能の塊のような末恐ろしい子どもだった。


そんな才能をもて余すような子どもは大体ろくな人間に育たないことも多いのだが、ランサーは道を踏み外す事なく育った。

その修正力として大きな存在が、彼の叔母と従兄弟であった。


彼の父親・現侯爵家当主の妹、ソアラ。ランサーの叔母である。

ソアラは落ち着いた銀色の髪と、アメジストのような紫色の瞳をした、非常に美しい女性だった。しかし天使か女神か、という程の美貌でありながら、その気性は芯の強い、肝の座った、女傑と言うに相応しい人柄だった。

そして『魔術のプレイヤード』の異名の例に漏れず、ソアラも優秀な魔術師であり、その名を知らぬ者はいない程であった。

それもそのはず、彼女の魔法は、極めて珍しい『毒』特化のもの。

非常にレアな毒魔法の使い手でありながら、加えてソアラは薬師としても優秀だった。

毒は、使いようによっては薬にもなる。

毒と薬は紙一重、という理論で多くの薬品を創り出す、頭脳と魔力、薬師と魔術師のハイブリッド。

己の能力を、人を害するためではなく、人を助けるために使う。

極めて有能でしかも志高く美しいこの女性を誰が射止めるのか?と当時の社交界などでも話題になっていたが、彼女に釣り合う男性はそういない。

最終的に、というか必然的に、ソアラは王太子の元に正妃として輿入れをすることになった。

そして程無く王太子との間に第一王子が産まれる。

名前はラクティス。

母譲りのアンティークシルバーの髪と、アメジストの瞳を持つ、天使のような美貌の子。

ランサーの従兄弟にあたる。

ランサーにとって叔母と従兄弟ではあるが、正妃と第一王子ではそうそう会えるものでは無い。特に親しくもなく存在は知っているという程度。


そんな関係が変化したのが、ランサー10才の時。

王城の後宮で事件が勃発する。

王太子が即位し王となり、第一子のラクティスが王太子となるだろうと予想されていた。ラクティスもまた、プレイヤード家の血を濃く引く者。並外れた魔力と魔法のセンスを持ち、ソアラが母なだけあって優秀で支配者としての才覚の片鱗を覗かせる子どもであったからだ。

だが、王は後継者を決めあぐねていた。

その原因は第二妃と第二王子の存在。

この第二妃は、王が自ら求婚し、城に招いた愛妃であり、その息子も王によく似た面差しである。

完璧過ぎて引け目すら感じる正妃と、正妃によく似た第一王子に対し、己で選んだ愛する妃と自分に瓜二つな第二王子。第一王子と正妃なら、王太子にならずともうまく生きていける。でも、第二王子は?この第二王子はこの先うまく生きていけるのか?第二王子が即位出来なかった場合、愛妃はどうなる?

愛は人を狂わすと言うが、正にその状態。誰が見ても、王の器は第一王子ラクティスなのだから。


そうこうしている間に、第二妃側に動きがあった。

第二妃から王へ直々に、自分と第二王子は正妃から命を狙われている、と訴えがあったのだ。

第二妃側は証拠として、第二王子と妃を狙った暗殺者だという男を捕らえ、正妃の依頼だと証言させた。

普通なら、この暗殺者とやらの言っている事に信憑性があるのか、少なくとも証言の裏付けくらいはする。しかし、王は愛に狂っていた。そして、いつまでも決まらない後継者問題に、臣下から苦言を呈され、追い詰められていた。

これ幸いと、喜んで自ら罠に掛かってしまったのだ。

正妃は身分剥奪の上死罪、第一王子も身分剥奪の上国外追放としようとしたが、流石に臣下のほぼ全員から猛反発を食らう。当たり前である。調査もせず、裁判も開かず、死罪だ国外追放だ身分剥奪だのいかに国王であろうとやってはいけない。因みに、この沙汰に反発しなかったのは第二妃の実家だけである。

法律上、殺人教唆では死刑にはならない上、証拠は証人だけ、その発言も信憑性は今ひとつ低い。そもそも、正妃が罪を得たとしても、第一王子には何の関係もない。

正妃と第一王子はお咎めなしとなる。

が、この一部始終に呆れたのが正妃ソアラだ。彼女は自ら謹慎を買って出て、第一王子と共に王城を出、実家であるプレイヤード家に戻って来た。

ランサー11才、ラクティス7才の時である。


そうしてランサーとソアラ王妃とラクティス第一王子はプレイヤード家で共に暮らすことになった。

初めて出会った日のことを、ランサーは今でも覚えている。

王妃と第一王子の里帰りの割には、従者も荷物も極端に少なく、護衛も最小限。簡素な馬車から降り立った、その姿。


一目惚れ、というものであった。

美しく伸びた背筋。滑らかなアンティークシルバーの髪。シミもシワもない白い肌。薔薇の蕾のようなみずみずしい唇。

そして何よりも、意志の強さを表すように輝くアメジストの瞳。

美しい。

雷に打たれたような衝撃だった。

この人は女神か、とランサー少年は思った。

ところがこの女神、見た目に反して頗る強い。魔法も巧み、武術の覚えがあり、何よりメンタルが強靭である。そこらの令嬢のようなか弱さなぞ持ち合わせていない。

その苛烈ともいえる性格も、少年の心を揺さぶり捉えて離さなかった。

叔母ということは知っていた。歳の差が親子ほど離れているということも知っていた。どう足掻いても結ばれない相手だということも。

だが、そんなことはどうでも良かった。ランサー少年の初恋は強い情景と尊敬で彩られた、とても純粋で、肉欲を伴わない清廉なものだったのだ。

ランサーは、ソアラに魔法や体術、学問の教えを請い、側にいる機会を増やした。そうすると、自然とラクティスとも共にいる時間が増える。二人は兄弟のように育った。


ラクティスはさすが第一王子と言うべきか、感情を表に出さない子どもであった。好き・嫌い、痛い、暑い、寒い、辛い、悲しい、嬉しい……とにかく分かりづらい。いつも完璧な美しい微笑みを湛えている。母であるソアラとは、容姿こそ写し取ったようにそっくりだが、性格は太陽と月のように大違い。ランサーはそれが気に食わなかった。

だから、と言っては何だが、よく構い、からかい、反応を引き出してはしてやったりと満足していた。そうする内に、ラクティスの方も慣れてきたのか、ランサーに憎まれ口を叩いたり、愛想の欠片もない仏頂面で対応するなど、笑顔の仮面が剥がれるようになってきた。

ソアラもそれを見て、嬉しそうに笑っていた。

幸せな時期だった。


だが、幸せな時期はそう長く続かない。

未だに王太子は決まらず、第二妃側は勢力を伸ばし、政治にも介入して来る始末。

ソアラやプレイヤード家としては、王太子の座にさほど執着してはいないのだが、国の為を思うと、そうそう王太子候補から外れるわけにもいかない。なにせラクティスは優秀だ。そもそも、王太子は個人が決められるものでもなければ辞退するものでもない。


2年ほどプレイヤード家で平和な時期を過ごした後、ラクティスとソアラは王城に戻ることとなる。

表向きは謹慎が解けた、ということにしておいたが、実際は各方面から要望されてのことであった。

特に、第二妃が主となった後宮はよろしくない状況だったようで、第三妃からの嘆願によりソアラはまた後宮に戻る事となった。

この第三妃はプレイヤード家の傍流で、ソアラとは従姉妹同士である。幼い頃より交流があり、ソアラをお姉様と慕っていた。第三妃には王女が生まれていたが、第二妃からの精神的・物理的攻撃が酷く、おとなしい性格の第三妃と王女はすっかり憔悴してしまっていた。

そんな状況で妹分が助けを求めて来て、放っておけるソアラではなかった。

元々、いつかは解決しなくてはいけない王太子問題、後宮の問題、第二妃側勢力の政治介入。そういった問題から逃げ続けるようなタマではなかった。

王城に戻ったソアラは、正妃として辣腕を振るう。様々な問題は別の物のようでいて、実は根本は一つだからである。


王城に戻ったラクティスだが、側近としてランサーを指名してきた。

ランサーは疑問に思い、側近をつけるなんてらしくない、以前はいなかったのに、と言うと、

「母上と会いたいだろう?」

と不思議そうな顔で言われて赤面した。ランサー少年の思慕はラクティスには筒抜けだったらしい。


側近と第一王子とは言っても、まだ13歳と9歳の少年である。剣術や魔術の稽古の合間で一緒に無駄話をしたり、友人のような関係性だった。そして、そこには第三妃の王女も加わるようになり、ランサーとラクティスは小さなお姫様を可愛がった。王女が、「大きくなったらランサーのお嫁さんになる!」と言った時、兄であるラクティスは微妙な表情になったのがランサーにはすこぶる面白かった。

「光栄ですよ、お姫様。」

そう言って抱き上げると、

「お約束よ!」

ときゃらきゃら笑う。

優しい空間だった。


ランサーとラクティスが平穏に育っている間も、ソアラの戦いは続いていた。


3年後、ラクティスはようやく正式に王太子となる。


同時に、ランサーはラクティスの側近を外れることとなる。王太子ともなれば、極近い親戚の自分が側にいることに、不満を抱える者もいるだろう。特にプレイヤード家という力のある家の嫡男なら尚更。余計な詮索をされる前に離れることにした。

ラクティスは深く言わずとも事情を理解したが、王女は泣いて悲しんだ。

「お嫁さんにしてくれるって言ったのに!」

と言った小さなお姫様が可愛くて、

「少し会えなくなるだけですよ。大きくなったら、私のお嫁さんになってくれますか?」

と、プロポーズの真似事をすると、ようやく泣き止んだ。


それから程なく、ランサーは宮廷魔術師団に入団する。

魔術の才を伸ばしたいという純粋な目的と、宮廷魔術師なら王妃であるソアラとも会えるかもしれないという下心もあった。

魔術師団に入団したランサーはメキメキと実力を付けていった。

魔力の質と量も然ることながら、やはり特筆すべきはその正確さと的確さであった。恐るべき安定性で、緻密な魔力操作が必要な魔法をサラリとこなす。必要な所に必要なことを寸分違わず充てる。まるでこの道数十年の賢者のようだ、とは誰が言ったのだったか。


宮廷魔術師団での日々は、充実したものだった。

ラクティスやソアラとの以前のような密な交流は減ってしまったが、立場を利用して、お互い会うことはできた。少し物足りなさはあるものの、元気な姿を見られればそれでよしとした。


瞬く間に5年の月日が流れ、ランサーは宮廷魔術師団の中でも指折りの魔術師となっていた。また、領地管理も学び始め、父から経営を少しずつ譲渡しようか、という計画が出始めていた時。

またしても事件は起こった。


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