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帰還して、そして

湖の畔は、輝かんばかりの清らかな空気に満ち、瘴気は微塵も感じられない。

さらにはその場にいた負傷者は完治するという現象まで起こしていた。

なんたる奇跡。

聖女の浄化は大成功、討伐はこれ以上ない成果を上げた。


ガリュー副団長は、

「聖女が何故このタイミングで術を顕現できたのか……兄上と検討せねばならんな。それに、レイの魔力と魔法も想定外だった……これも今後のプランを変更せねば……」

とブツブツ言っていた。なんかすみません。

因みにユナと言い合った時に気になっていた、王子の所在だが、スカルペンデュラとの戦闘で負傷して、戦線離脱していたらしい。

王子が負傷と聞いて、すわ責任問題かと焦ったが、治療を担当したセレナ曰く、「レイの打撲と骨折の方が重症よ」と言い切っていたので、それ程でも無いらしい。


その後は、騎士団と王子・聖女の一団と、魔術師団(と言ってもガリュー副団長とイグニスさんとセレナと私の四人だけだが)とに分かれて帰路に着くことになった。騎士団の方は馬車と馬らしいが、王城までなんと2日近くかかるらしい。魔術師団側で本当に良かった、とかなりものぐさなことを考えてしまった。


往きと同じように転移の魔法陣で帰還して、一瞬で王城の宮廷魔術師団庁舎の正門前に到着した。

これから報告書の作成か?と思っていたが、討伐参加の四人は直帰となった。報告とか、道具の片付けなどの業務は明日以降で、とにかく体を休め、魔力を回復し身体のメンテナンスをするのが今日の重要な仕事なのだそうだ。

回復魔法を掛けてもらったので、あまり疲れはないし、魔力量もそんなに減ってないと思うのだけど。

「ステータス開示。」

気になったので、ステータスを確認してみる。


月野レイ(魔術師/Lv5)

属性/闇

HP/100

MP/*****

POW/85

DEX/85

攻撃/Lv6

防御/Lv4

操作/Lv1

回避/Lv3

錬成/Lv1

変化/Lv1

回復/Lv3

浄化/Lv3




「レベルが上がってる!」

職名も異世界人から魔術師になっている!

それに、ステータスも上がりまくっている!身体機能の上がり具合も凄い。

……そういや、巨大ムカデをたくさんまとめて潰したんだった。攻撃、防御、回避はフルに使ったから、レベルが上がっているのか。

「凄いわ、一気にレベルもステータスも上がったわね。闇の魔力はステータス上がり辛いって聞いていたのに。」

セレナも褒めてくれる。そういえばカムリの魔力の講習でそんなことを習った気がする。

気になるのは、浄化と回復。元々私の闇の魔力には属性的に無いはずのスキルなのに、何故か有ることになっていて、しかもレベルが上がっている。

もしかして、浄化レベルが上がったのは、ユナの浄化の時に、一緒に魔力を放出したからか?あの時、私の中からも魔力が持って行かれた感じがあった。そのせいだろうか。


…そんなことが出来るのだろうか。確かにユナに触れてはいたけれど。

姉妹だから?同じ世界から一緒に召喚されたから?

そもそも、闇の魔力には存在し得ない浄化能力がどうしてあるの?とか。

……あともう少しで何か閃きそうなんだけど。

でも、考えてもよく分からない。魔法の知識が少なすぎるな、私。

……気は進まないけど、ゼスト団長に教えを請おうか。本当に気は進まないけど。


「では、また明朝。皆、今日はしっかり休むように。明日は丸一日通常業務と訓練は休み、報告と今後の対応策を考える。特にレイ。君は今後の育成方針を大きく変える可能性がある。聖女のことについても、兄上に報告する。」

「はい。お疲れさまでした。」

ゼスト団長に報告か……。そりゃそうだよね、問題無いはずの討伐でイレギュラーが多発するし、そればかりか闇の魔力に関する新事実は発覚するし。聖女の魔法が発動したのも私が一緒の時だったし。なんらかの因果関係があるなら、解明しないとならない立場だものね。……苦手なんだよな、あの人……上司だから仕方ないけど。


「じゃあ、帰りましょう。んん、疲れたぁ〜。今日はご飯食べてお風呂入ったらすぐ寝るに限るわ。」

セレナが腕を上に伸ばして伸びをする。お嬢様のセレナがこんな砕けた仕草をするなんて珍しい。それだけ疲れているということだろう。

「……ごめん、先に帰ってもらっていい?私、寄りたい所があるの。」

そのまま、セレナと一緒に寮に帰ろうとしたけれど、……どうしても会いたくなってしまった。視線をセレナから少し外して言うと、セレナは少し不思議そうな顔をした後、ハッとした表情になり、ニマニマとし始めた。

「うん、いいわよ。でもね、討伐当日で疲労が溜まってるんだから、帰さないって言われてもちゃんと帰って来るのよ?あと、身体に負担になる行為は、今日は控えて?」

ニンマリとイイ笑顔でそんなことを言われる。

「いや、ローブとお守りのお礼を言いに行くのよ!スカルペンデュラの顎から一回守ってくれたし。大体、ランサーとはそんなんじゃないから!」

慌ててそういう関係じゃないと否定する。その言い方だと、恋人の元へ行くみたいじゃないか。友達ですらないのに。

「あら、私は誰に会いに行くなんて言ってないわ。」

「……。」

ウフフ、とセレナがいたずらっぽく笑う。

「会いたいんでしょ、理由はどうだっていいじゃない。」

セレナの言葉に、黙ってしまう。山程あった言い訳が、全て空っぽのような気がして、何も言えなくなった。

「うん……行ってくるね。先に休んでて。」

否定の言葉が見つからず、セレナに手を振る。セレナは笑顔で手を振り返し、両手を握り締めてガッツポーズを作った。頑張れ、ということだろうか。

「本当に違うのになぁ……」

応援してくれているっぽいセレナには悪いけど、ランサーの中の私は、友人ですら無い。この間の買い出しの時の一件……不用意に踏み込んでしまったことで、鬱陶しがられているかもしれない。

でも。


足が地下牢へと向う。

ランサーに会いたい。

死ぬかも、と思ったこと。ローブが無ければ実際死んでいたかもしれないこと。魔法で大量の魔物退治ができた事。聖女の魔法を目の当たりにして思ったこと。

全部話したい。

ランサーに話したい。

ランサーの顔を見て、沢山話して、暖かい大きな手で撫でてもらいたい。

死にかけたからか、好きだという気持ちがドクドクと湧き上がってくる。

友人ですらなかったとしても、迷惑をかけない距離感を心がければ、話してもいいよね?ローブとお守りのお礼を言いに来た、という口実で。


薄暗い地下牢。

会いたい、と急く気持ちと、邪険に扱われたらどうしようという気持ちがゴチャゴチャになっている。けど、歩く足は止まらない。

仄暗い空間に、大きな背が見えてくる。


「……ランサー。」

恐る恐る後ろから声を掛ける。大好きなランサー、凄く久しぶりに姿を見た気がする。

振り返ったランサーは、目を大きく開いて、驚いたような顔をしていた。

「レイ……!」

驚く、ということは……私が来るのを期待していなかったということ。鬱陶しいことをしてしまったかもしれない。嫌な顔をされる前に、要件を言ってしまおう。俯いて口を開く。

「ローブ、ありがとう。これが無かったら本当にヤバかったかもしれない。本当に助かっ……」


言葉の途中で、体に衝撃と圧迫感が走る。

視界が遮られる。

息が苦しい。


一瞬、何が起きたか分からなかったが、背中に回された太い腕と顔に押し付けられている厚い胸板で、ようやく理解した。

ランサーに抱き締められている。

息もつけないほど、強く。


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