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聖女の本音と聖女の魔法

「嫌よ!」

あなたの番、と言われたユナは、開口一番に言い放った。

また甘えてワガママ言うつもりかよ、と思ったけれど、いつものワガママを言う時の様子とは違う。声が震えている。

「無理に決まってるでしょ?!今まで一度も出来なかったのに、何でよりによって今なの!」

泣きそうな歪んだ顔で、ユナが叫ぶ。


こんな必死なこの子の顔を見たのはいつぶりだろうか?

泣くときはいつも、効果的なタイミングで、庇護欲をそそるような泣顔を見せていたのに。

今のユナの顔はそんな計算や演技はすっかり抜け落ちて、ただ感情のまま叫んでいるように見える。

それだけ、追い詰められていたということだろうか。

聖女として召喚され、膨大な魔力を持ちながら、何の魔法も奇跡も起こせない自分。

そう考えると、胸の辺りがギュッと苦しく重くなる。


「アンタはいいよね、あんな魔法が使えて!」

ユナの怒り、というか追い詰められた感情は、私に矛先が向かって来た。

そうか、魔法は具現化していなくとも、ユナには聖女の莫大な魔力がある。だからユナには分かるんだ。スカルペンデュラを地面ごとすり潰すという滅茶苦茶な魔法、アレは私がやったということが。

「なんでいつもアンタばっかり!アンタばっかり恵まれているのよ!涼しい顔で何でも出来て!出来ない人間のことなんて分からないくせに!」


そんなの、そんなの知らない。

私が恵まれている、なんて。

何でも出来る、なんて。

そしてそれを、ユナがどう思っていたかなんて。

いや、知ろうとしてこなかった。

ユナは、妹は、愛らしい見た目で甘え上手で、誰からも愛されて、『出来ない』ということですら武器にできる子だった。そんなこの子が妬ましくて、羨ましくて。

まさかこの子が私を同じように妬んだり羨んだりしているなんて。考えたことも無かった。


「ユナ。」

聖女の輿に近づく。

騎士団が「無礼者!」と取り押さえようとして来るが、ガリュー副団長が指をススッと動かすと騎士たちの足が止まる。どうやら魔法で足止めをしてくれたようだ。

「大丈夫、姉が妹に話をするだけです。危害なんて加えません。」

騎士にも、自分にも言い聞かせ、輿に歩み寄る。


「ユナ。」

もう一度名前を呼び、手に触れる。ビクリと手だけでなく、ユナの全身が震える。

「私が出来るのは、努力したからよ。何でも出来るなんて……そんなわけないでしょ、出来るように必死だったんだよ。」

だって、私には『出来ない』は禁句だった。私が助けを求めても、誰も助けてくれない。愛されていたユナとは違う。


「あんたは聖女サマなんだよ。出来ないとか通用するわけないじゃん?やるしかないんだよ。」

でも、今はユナだってそう。

自分を無条件で愛して許して手を貸す人ばかりの、向こうの世界とは違う。

特に、ユナは聖女として大々的にお迎えされた。逃げられないのだ。

逃げたら、この世界に居場所は無い。

このままだと、本当に聖女として失格の烙印を押されてしまう。

それに、この子の性格的に、今は優しい同情の言葉は掛けるべきではない。甘やかすと駄目になる。発破をかけて、前に進めなければ。

「私に出来ることがあるなら協力するし……それに、」

チラリと周りを見、王子が近くにいないのを確認して、ユナの耳元に口を寄せ、声を落として告げる。

「どうせ騎士団と王子は魔力少ないから、浄化出来たかどうかなんて分かんないわよ。やるだけやんなよ。」

私の言葉に、ユナは大きな目を見開き、口を中途半端に開けた無防備な表情をした。驚いたようだ。そして、ちっとも可愛くない歪んだ表情でフハッと吹き出した。

「アンタもそんな適当なこと言うのね。」

「魔法が難しいのは嫌ってほど知ってるもの。」

私がそう言うと、ユナは全く庇護欲をそそられないふてぶてしい表情で周囲を見た。


「仕方ないわね。やればいいんでしょ。」

ユナはふう、と溜め息を一つつくと、輿から足を踏み出し、外に出た。

私と手を繋いだまま、背中を伸ばし、目を閉じる。


ユナが呪文を唱えはじめる。

と同時に、あたりがチカチカと輝き始めた。

そして、不思議なことに、私の中の何かが呼応するように、私の体からも魔力が流れ始めた。協力するとは言ったけど、本当に魔力が流出するとは思わなくて驚いたが、それよりも。


美しい。


美しい光の粒子が、辺り一面に広がる。

光は白い粒子の中に、様々な色が混ざって……まるでオーロラのようだ。

美しく、清らかな光の空気が、見渡す限り続く。

キラキラと眩い光は、先程までの禍々しい魔物の瘴気に満ちた空間に浸透するように広がってゆく。

やがて、光が収まる頃には、瘴気は一切感じられない、清浄な空間がそこにはあった。


浄化、完了だ。


「……出来た…。」

ユナが呆然としたように呟く。

「出来たわ!出来た!」

無邪気に喜ぶユナを見て、騎士達は呆けたように見惚れている。

聖女の奇跡を目の当たりにし、その美しさに心を奪われ、そして美しき奇跡の主は無邪気に笑う。心臓を掴まれてもおかしくはない。

私はそっとユナと騎士たちから離れた。

浄化が成功し、騎士団はますます聖女に忠誠を誓うだろう。聖女の立場もこれで安泰だ。

私も、討伐は成功し、怪我もなく五体満足で帰れるし、経験も少し積めた。

良いことばかりなのに、胸のもやつきが晴れない。


美しかった。ユナの魔法は。

清らかで、光輝く奇跡的な美しさ。

その奇跡の主は美しき聖女として名を馳せるのだろう。


私とは違う。

私の、黒い淀んだような闇の魔力とは、違う。巨大な虫をすり潰すような凶暴な魔法とは違う。


あちらは清らかで美しい。

こちらは淀んで暴力的。


たかだか、美しいかそうでないか、なのだけれど、魔法までもがこうも違うと考えてしまう。

やはり私とユナは全く違うのだ。



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