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一難去ってまたまた一難

肌がまだビリビリする。

音が遠いのは、耳がよく聞こえていないからか。

さっきの地鳴りのような爆音を無防備に聞いたせいだ。耳を塞いでいる余裕なんて無かったものな、早く治るといいな、など場違いなことを考える。


改めて見下ろすと、地面には大きな穴……というか、溝というか……規模的にはクレーターが出来上がっていて。直径百メートル以上は有るだろう。

……私の魔力って、こんなレベルなのね。手加減しなかったとはいえ、もはや天災じゃないか。やっぱりおいそれと使えたもんじゃない。

……でも、あのムカデは見えなくなった。


……成功、だろうか。

初めて使った、重力制御の魔法。見よう見まねだったけれど。

ムカデは見えなくなったから……ちゃんと潰せたということ?そうだよね?


成功だ!

助かったんだ!

風の魔法を解き、地面に下りる。

が、やはりというか、風の威力を徐々に弱めてゆっくり舞い降りるつもりが、うまくコントロールできずに、結構な勢いで地面にドサリと落ちる。

「イデッ!」

足首がメキッと言った……とても痛い。尻餅も着いてお尻の肉も骨も凄く痛い。思わずうずくまる。後で回復ポーションもらえないかな…戦闘で負った怪我じゃないから駄目だろうか?

というか、普通に歩けるのかな、これ。回復ポーションもらうまで、つまりはみんなのいる所まで歩けないといけないのに。

……マズイかもしれない。せっかくムカデ潰して最大の危機を脱したのに、こんな理由で立ち往生とか嫌すぎる。ここで魔物に襲われたらひとたまりもない。


「レイ!レーイ!返事をして!」

どうしよう、と焦っていたら、セレナの声が聞こえる。

「レイ!聞こえたら返事をしろ!」

ガリュー副団長の声も聞こえる。

まさかむこうから探しに来てくれるなんて。良かった、助かった。

「セレナー!ガリュー副団長ー!イグニスさーん!ここでーす!」 

大声で叫び返すが、森の中だ。私の姿が見えないし、私は私で座り込んだまま動けないし、探し辛いだろう。救難信号的な、光とか出せればいいのだけど……。

「あ、そうだ!『点火』!」

救難信号代わりに、火を出そう。

カムリから教わった火の魔法で火を出す。ドゥッと空気が揺れて高さ10メートル以上はある火柱が出現する。

……しっかし、暴力的なまでの威力だけど、今回に限っては良かった……この火柱なら、森の中でもよく見えるはずだ。

「レイ!」

目論見通り、茂みを掻き分けてセレナが私を見つけてくれた。

「セレナ!」

声をかけると、足をもつれさせ転びそうになりながら駆けつけてくれる。

「レイ!大丈夫?!怪我は無い?痛いところは?」

真っ先に私の心配をしてくれる。セレナだって、森の中を走ってあちこちに引っ掛けたらしい傷があるのに。

「平気!あのムカデは潰せたよ!さっき上から降りた時に足首とお尻打った。でも、それ以外は大丈夫!」

ムカデとの戦闘時は無事だ。一度顎に噛まれそうになったけど、ランサーがくれたローブの防御魔法のおかげで無傷だ。

……あんなエグい化け物の群れと戦って無傷なのに、まさかその後の着地失敗でケガをするとか……。カッコ悪すぎる……。嘘でも戦闘時に負傷ってことにするんだった。

「良かったぁ〜……。どうしてあんな無茶するのよ!」

グスグスと泣き始め、私にしがみつくセレナ。

確かに無茶だったかもしれない。何か他に方法があったのかもしれない。

でも、あの場であの状況で、私は考え得る限りのことをやった。私に取れる行動はあれしかなかったと思う。

動かずに、ガリュー副団長の助けを待つ?

ムカデ……スカルペンデュラの狙いが他に向くのを期待する?

イグニスさんが聖女様放っといて結界直しに来るのを待つ?

全て現実的じゃ無かった。

何もしなければ死んでいた。私達を守っていた結界は破壊され、至近距離にはスカルペンデュラの群れ。待つ時間すら無かったのだ。

即座に行動したからこそ、今、私は生きている。

「心配かけてゴメン、セレナ。」

だから、『心配をかけたこと』は謝れても、『やったこと』は謝れない。この行動が間違いだったとは思えないから。

「セレナこそ大丈夫だった?あの後、結界は壊れたでしょう?」

それでも、セレナに心配をかけたのは心苦しい。逆の立場なら、同じように怒るかもしれない。木の葉や小さな枝や蜘蛛の巣が着いてしまったセレナの鳶色の髪を手櫛で梳く。こんなにも形振り構わず私を探しに走ってくれたんだ。

「……レイの読み通りだったわ。レイが結界抜けた瞬間からスカルペンデュラ達は私には見向きもしなかった。一匹残らずレイを追って行った。」

セレナの言葉は、私には想定内だった。

やはり、闇の魔力には魔物を惹きつける特性があるのだろう。スカルペンデュラだけじゃない。その前のスライムの大量発生も合点がいく。ガリュー副団長の反応からして、この事はどうやら前例の無い新発見のようだけれど、そもそも闇の魔力持ちは絶対数が極端に少ない。今まで知られていなかっただけかもしれない。

この事に関しては、後でガリュー副団長と、ゼスト団長にも報告しなくては。

「セレナ、ポーションってまだあるかな?着地に失敗して足と腰が痛い。」

報告云々の前に、まずは自力で動けないと。帰れなければ報告も何も無い。

「すぐに治してあげるから。」

セレナがハッとしたように私から離れる。

「スキャン。」

セレナが私の体に手をかざす。少し冷たい風のような何かが全身に巡る。

「ヒール。」

今度は、暖かい光が体を包む。セレナは回復師だ。これがセレナの回復魔法なのだろう。初めての回復魔法に少し緊張するが、優しくてふわふわで、これが治療だとは思えない心地良さである。

その光が消えたと同時に、痛みも消えた。

足を動かしてみる。痛みも違和感もなく自然に動く。少し遠かった音も、しっかり聞こえる。

「凄い!セレナ、これ凄いね!」

思わず語彙力が低下した。こんな天使のような技が使えるなんて。セレナまじ天使。


「レイ!」

「レイ!生きているな?」

セレナの治療を受けていると、ガリュー副団長とイグニスさんも合流する。

「レイ、先程のアレは何だ?!」

「あれは何だ?!いつあんな技を覚えた?!」

私の無事を確認した二人は、問いただしてきた。『先程のアレ』とは、スカルペンデュラを潰したことだろう。

「あ、イグニスさん、ガリュー副団長。覚えたっていうか、カムリの真似してみました。あの、重力の制御っていうんですか?それを思いっきり。」

「……。」

「……。」

イグニスさんとガリュー副団長が黙る。

「……君の行動には一言も二言も物申したいが……油断しきっていたのも、守りきれていなかったのも事実だ。」

ガリュー副団長が渋い顔で声を絞り出す。苦虫を噛み潰したような顔とはこんな顔を言うのだろう。恐らく責任を感じているのだろうが……。そもそも、この事態を引き起こしたのは私の魔力なのだから、私のせいなのではないか?と思う。そして誰も闇の魔力は魔物を惹きつけるなんて知らなかったのだから。


「何だ?何があった?」

「スカルペンデュラが全滅しているぞ!」

「なぜだ?!」

「さっきの地崩れに巻き込まれたのか?……それにしても見事に粉々だが…」

ガリュー副団長たちから遅れること数分、騎士団の方々がワイワイと騒ぎながらやって来た。

魔力の弱い騎士団の面々は、これが魔法によるものだとは分からないらしい。

……地崩れもムカデ潰しも私がやったのに。

これで騎士団を見返せると思っていたのだが。

手柄を持って行かれた感がして少し不満だ。

けれど。


「むしろ好都合だ。レイ、セレナ、イグニス。暫くは口外するなよ。」

「……あとで…戻ったら話を聞くからな。」

イグニスさんとガリュー副団長がその背に私を隠しながら言う。

あれ、何かマズいの?ムカデ潰して危機を脱した、つまりは「良いこと」とばかり思っていたけれど、私がしたことは問題があったということ?

もしかして……。不祥事とか責任問題とかになったりするのかな?


どうしよう……。

クビか?とか、路頭に迷ったら……とか思考が明後日の方向に飛び始めたところで、シャン、という鈴の音がした。

聖女サマの輿が到着した音だ。


「聖女様。魔物は屠りました。後は、あなたの浄化です。」


そうだ、魔物は潰したけれど、まだ終わってないんだ。

この討伐隊は、聖女の実績作りのためのもの。

聖女が浄化をしないと終われないのだ。


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