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聖女との対峙

サラサラの黒髪。潤んだ大きなタレ目がちの目。白い肌。華奢な小柄な体躯。甘えたような声。


妹、ユナだ。


「聖女様!」

騎士団が一斉に振り返り、膝をつく。

ユナは、それらを気にも止めずこちらへ歩いて来る。

金糸の刺繍で飾られた、レースのふんだんについた純白のローブ。材質はシルクだろうか、光沢があり美しいドレープを作っている。

首や手首、耳、髪にも大きな宝石が付いた装飾品。これといって力を感じない所をみると、魔石ではなく宝石だろう。

手入れされた髪、肌、指先。

大層ご丁重にもてなされているようだ。そしてそれを疑問にも思っていないようだ。

生まれてこの方、誰からもチヤホヤされて当然という環境で育ったのだ、この待遇も当然と思っているのだろう。騎士が全員地べたに跪いていても目もくれない。


この子の、こういう所が苦手だ。


「なんて顔しているの、お姉ちゃん?」

ユナが、笑いをこらえられない、と言わんばかりに吹き出しながら言う。苦手意識が顔に出ていたらしい。元から隠す気も無いけれど。

「元気だったぁ?良かったわ、生きていたのね、お姉ちゃん。もしかしたら野垂れ死にでもしたのかもと心配してたのぉ。」

うふふ、と可愛い笑顔でユナが言う。可愛い顔とは真反対の毒のある言葉だ。

「ご期待に添えずごめんなさいね。生憎、お仕事も見付かったし、当分野垂れ死ぬ予定は無いかな。」

私もニッコリと微笑みながら言葉を返す。この子の、嫌味なんだけど、嫌味じゃなく親切心だと言い逃れが出来なくもない、そんな言葉のチョイスが本当に腹が立つ。確実に嫌味なのだ。でも、違うとユナが訴えればそれは違うという事になる。嫌味だと受け取った側が悪い事になる。今までその繰り返しだった。でも。

「聖女様が野垂れ死になんて言葉、使っていいの?いくら私に死んでほしいとはいえ、あからさまな嫌味だよね。アンタさ、そういうの、もうやめなよ。」

でも、この場には、ユナの魅了が効かない人間がいる。私の味方はゼロではない。

元の世界でも、ユナはちょくちょく私に嫌がらせや嫌味を浴びせてきたので、その度お説教をしたのだが、その後怒涛の勢いで周囲に非難されたものだ。

でも、今なら。まともな判断能力がある人間がいる今なら。この流れ、どう考えたって突っかかって来たのは向こうだ。姉がおイタをした妹を窘める、それは普通のことじゃないか。

だが、騎士団はこれを普通の姉妹の会話だとは思わなかったようだ。地面に跪きながらも、ザワザワと動揺が広がる。

「お姉ちゃん……とは…?まさか……」

「姉上がいらしたのか?」

「あの魔術師が聖女様の姉上…?」

まず、私が聖女の姉であるということを今知ったということ。やっぱりアイツ、私のことを姉だと伝えていなかったんだな。

「本当に姉妹なのか…?」

「それにしては……」

そして、この殺伐とした雰囲気。到底離れ離れの姉妹の再会の空気ではない。騎士団に動揺が走る。

だが、意外な事に、いきりたってこちらを責めてくると思われた騎士団たちは、地面に跪いたままだ。元の世界では、私とユナが対立すると、恐ろしい勢いで私が責められたのに。

もしかすると、騎士団たちはユナの魅了を掛けられていないのだろうか。

確かに、この大人数に魅了をかけるとなると、相当な労力だろう。

それにユナは恐らく自分に跪く騎士団を見下している。さっきからの態度を見ると明らかだ。自分は唯一の聖女、特別な存在だから、お前たち兵士、騎士、魔導師とは違うと言わんばかりの振る舞い。地面に跪き控える騎士団の者たちに見向きもしない。あの性格では、見下している相手に魅了はかけないだろう。

それで、先程私が挨拶した時も、騎士団は大人しく引き下がったのか。ユナの魅了は、ユナを魅力的にみせるだけでなく、私を価値のないつまらないものに見せる効果があるというから。


「……へえ、そういう事言っちゃうんだぁ。」

ユナが笑いながら言う。

笑ってはいるが、口元が歪んでいる。私の口答えに苛ついている顔だな。

「騎士団の皆さん、立っていいですよぉ。」

すると、ユナは可愛らしい声で今の今まで無視してきた騎士団に向かって声を掛けた。

ユナの言葉を受け、騎士団が立ち上がる。

ユナはその中に視線を彷徨わせ、一人に目を止めた。先程挨拶した、第一騎士団の団長だ。ユナが騎士団長に歩み寄る。

そしてそれまでの貼り付けたような笑顔から一転、眉尻を下げ、上目遣いで騎士団長の顔を見た。

あの顔と仕草には見覚えがある。あれは、ユナが落としたい人によくやる顔だ。

でも、いつもと違う。

ユナの上目遣いにしたその瞳から、キラリと小さな光が散り、騎士団長の方へと向かう。

その光が騎士団長の目に届きそうになった瞬間、


「なりません!聖女様!」

私の後ろにいたガリュー副師団長が空気を震わせ叫んだ。

「ヒッ!ガリュー…!あんたいたの!?」

「聖女様、あれほど“その魔法”は使ってはいけないと申し上げたではないですか!」

ガリュー副師団長の言葉に、私はハッとする。誰かを落とすための仕草。聖女が使ってはいけない魔法。

そうか、あれが魅了の魔法だったのか。洗礼を受けたことで私にも「魔法」として見る事が出来たのか。

一人、感慨深く納得している私とは対象的に、ユナは目に見えて慌て出した。そういえば、ガリュー副師団長はゼスト師団長と共に聖女の教育係だったな。

「あいつ、ゼストはいないわよね?!あいつがいないって言うからこんな所まで来たのよ!?」

「兄上はいらしておりません。だが、逐一詳細に貴方の言動は報告させてもらいます。物見遊山ではないということを肝に銘じていただきたい。」

さすがは教育係。『聖女様』に対しても言葉こそ丁寧だが、至って普通に接している。

「本っ当、あんた達二人とも……!」

だが、人から甘やかされるのが当然な人生を送ってきた人間に、「普通」の対応はどうにも堪えるのだろう、ユナの表情が怒りに歪む。


「ユナ、どうしたんだ?」

その時、タイミング良く…と言うべきか、ユナに声が掛けられる。

その声の主を見て、うわ、と声が出そうになった。

何か聞き覚えある声だなぁ、と思ったら、アイツだ。

「この人達がぁ……!」

「ゼスト、また貴様か!やはり宮廷魔術師団は参加させるべきではなかった…!」

ユナの嘘泣きに怒りも顕にする青年。青い瞳、金褐色の少し癖のある髪を美しくまとめ、少しタレ気味の目尻が優男風に見える、絵に描いたような「王子様」。

この国、エルグランド王国の第一王子、アルト王子だ。

だがその美しい顔も王子という最強ステータスも、私にはどうでも良い。奴は私にとって、勝手に召喚して勝手に地下牢にぶち込んだいけ好かない人間だ。

そして、ただでさえいけ好かないのに、その登場の仕方がこちらのカンに触る。聖女が、もとい、お気に入りの女の子が涙を見せたら、仕事で来ている人を邪魔者扱いですか。これが第一王子って、大丈夫かこの国。それだけユナの魅了が強力なのかな?と思ったけど、よく考えたらこの人魅了かかる間もなく私を地下牢にぶっ込んでたな。

いけ好かない王子は私の中でバカ王子に進化した。

しかし、ガリュー副師団長はバカ王子相手にも怯まない。

「王子。我々は、遊びではなく国家事業で来ているのです。力の上手く発揮出来ていない聖女の監視と研究の意味もあります。何よりこのままでは、聖女様の立場もよろしくない。ここは、我々にお任せいただくのが聖女様のためです。」

筋道を立て、感情的にならずに説明する。聖女のため、国のため、と言われてしまえば如何にバカ王子とはいえそうそう無碍に出来るものではない。

説得は出来なくとも納得を引き出す。

なかなか鮮やかな手腕である。この人、交渉やクレーム処理に慣れてるな。まあ、あの兄貴・ゼスト師団長と一緒に仕事していれば当然か。

案の定、バカ王子はお手本のようなぐぬぬ顔をし、「勝手にしろ!邪魔はするんじゃないぞ!」と聖女を引き連れて踵を返して行った。

あいつら、何しに出て来たんだ。


とはいえ、ガリュー副団長のおかげで、恐らく聖女との衝突はそうそう無いだろう。

ガリュー副団長を見上げて見ると、こちらに視線を下げ、フッと表情を緩めた。

……もしかして、牽制してくれた?

「我等も行くぞ」

ガリュー副団長が言い、湖の畔を前進する。

ユナの悪意に晒されない、と思っただけでも、気持ちが軽くなる。

集中しよう。

この先には見たこともない『魔物』がいるらしいのだから。



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