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街でお買い物の続き。

「お城の外に出るの、初めて。」

折角いい男の横にいるのに、ゲンナリしてしまった気分を上向きにすべく、話し掛ける。忘れよう、自分の見た目のアレさ加減は。

「そうだったか?」

「召喚されて、すぐ地下牢行きになって、その後すぐ宮廷魔術師団に行って、で、今に至るって感じだもの。」

言葉でまとめてみると、我ながらなかなか波瀾万丈ではないか?それでも逞しく働いているのだから、いっそ健気さを感じて貰っても構わないと思うのだが。

「…そーかい。」

ランサーはいつも通りの気のない返事だ。もう少し同情とか憐れみとか無いものか。全く扱いがぞんざいなんだから。

「私って健気じゃない?」

仕方ないので自分で言ってやった。

ランサーは「自分で言うかね……」と呆れ顔だ。何だか腹が立つ。

通用門を出て、街に繋がる橋に差し掛かると、ランサーは、

「ほれ」

と私の肩に何かを掛けてきた。ちょっと驚いて見てみると、それはストールだった。

「寒くないよ?」

と私が言うと、はぁ〜と脱力したようにため息をついた。これはまた失礼なことを言われるのではないか。

「馬鹿、防寒用じゃねぇよ。ストールはお洒落にも使うだろ。これは、お前のその目立つ変な服を隠すためのもんだよ。」

よく見ると、薄手で光沢のある、フワリと広がる綺麗なストールだ。裾にレースが付いていて、肩から羽織り、前をブローチで留めると可愛らしいポンチョのようになる。これなら、こっちの世界でも違和感ないだろうか。『変な服』というのはカチンとくるが。

「ありがとう。」

腹の立つ言い方をするけれど、行動は私への気遣いが溢れている。全く素直じゃないんだから。

「別にお前のためじゃねぇよ。」

ランサーはフイとそっぽを向きながら憎まれ口を叩いた。

じゃあ誰のためなんですかね?本当に素直じゃない。こんな王都の女は全員抱きましたみたいなフェロモン駄々漏れな顔をしておいて、案外若いのかもしれない。

「でも、ありがとうね。」

素直じゃなくても、憎まれ口を叩いても、ランサーが私のためにしてくれたことに変わりはない。へへ、と照れ笑いをしてしまう。こういう時に、綺麗な笑顔が作れればいいのだが、そんな芸当私には出来ない。精々、目を見てお礼を言うくらいが精一杯だ。

それで気持ちが伝わってくれたら、と思ったのだが……。

ランサーは私の顔からバッと勢い良く顔を背けると、無言でズカズカと歩き出した。

「ちょっと待って!」

ランサーの長い脚でズカズカ歩かれると、私の脚だと歩幅が合わない。置いて行かれては死活問題だ。慌てて小走りでついて行くが、さっきまでの気遣いは何処へやら、ランサーは歩みを緩める気配がない。

……そんなに私の笑い方は変だったのか?連れだと思われたくないほど?確かに綺麗には笑えてなかったと思うけど、顔を背けて無言で早歩きってさぁ……結構傷付くんですが!これは帰ったらセレナと笑顔の特訓だ。


「ほれ、着いたぞ。」

「…ありがとね!」

…息が上がる。あれから、結局ランサーは歩みのスピードを緩めることなく、私もまた何だか対抗意識が湧いてきてしまって、同じくらいの早足で歩いてきてしまった。毎日走り込みやっていて良かった。一月前の私なら着いて行けなかったかもしれない。

軽く息を切らしながら、お店を正面から見上げる。可愛らしい店構えだ。正直、ランサーとイメージが合わない。もしやあれか、女性へのプレゼント選んだり、女性をデートで連れて来たりしたのか。モテそうだもんな、この男前。

「ここは、俺の知り合いの店なんだ。乳母子って分かるか?」

へえ、乳母までいたのか。こりゃ、ランサーはいよいよ良いところのボンボンだな。乳母の娘さんが開いているお店ってことなのか。とりあえず、女の子を口説くにあたって利用していたお店、というわけではなさそうだ。

「なるほどそっちか。」

「そっち…って何だ?」

おっと、思わず口に出ていたらしい。この際下手に誤魔化さず正直に言ってしまえ。

「女の子を喜ばすために使ってたお店とか…」

「馬鹿野郎。」

「女遊びで知った店とかじゃなくて安心したよ。」

「お前、人を何だと思ってんだ。」

ランサーはガックリといった風情で肩を落とした。そんなガッカリしなくても。悪い意味で言ったんじゃないんだから。

「だってランサーはモテるでしょ?。顔はカッコいいし、背は凄く高いし、筋肉ガッチリ付いてスタイル抜群だし。」

「……おう、そうかい……。」

「話しやすいし、何だかんだ優しいし。私の人生で会った男の人の中で、見た目も中身も最高だもん、モテるでしょ?」

「……。」

ランサーが黙ってしまった。顔を覗こうと下から見上げると、フイっと顔を逸らされてしまう。

「……照れてる?」

「うるせえ。」

耳が赤い。褒め倒した自覚はあるけれど、こんな反応するなんて。可愛いとこあるじゃないか。


「ほれ、着てみな。」

誤魔化すように、ランサーがこちらに服をバサ、と渡す。ここはオーダーメイドも出来るけど、既製服も取り扱うお店らしく、すぐに着たい私には助かる。そしてこっちの世界の常識が分からない私にとって、服を選んでくれるのはとても有り難い。スカートの丈はどの位が常識的なのか?とか、露出ってどの程度までなら下品じゃないの?とか、女性でもパンツスタイルはOKなのかな?とか…。その辺が分からない。街を歩いて見た感じだとミニスカとかパンツスタイルの女子はいなかったな、程度しか分からないのだ。それに討伐の服装なんてさらに分からない。

「ふふ、こちらへどうぞ。」

20代前半くらいだろうか、若い女性が試着室に案内してくれる。蜂蜜のような金髪の、可愛らしい人だ。なんとなく、微笑ましいものを見る顔でランサーと私のやり取りを見ている気がする。多分だけど、この人がここの店長でランサーの乳母子じゃないかな?

「着たら声掛けろよ。」

ランサーが少しぶっきらぼうに言う。が、照れ隠しなのは分かっている。

試着室のドアを閉め、渡された服を広げて見ると、ランサーの選んだ服は、予想外の物だった。

白い、縁にレースがあしらわれたゆったりめのシャツに、胸の下から腰骨の上辺りまでを覆う変形ベストのような胴着、スカートはAラインで裾に刺繍が入っている。革製の編み上げブーツはヒールが低めで歩きやすそう。ヨーロッパの民族衣装のような可愛らしい服だ。可愛らしいけれど、動きやすいし、ウエストラインを強調するベストが大人っぽくて、ぶりぶりのデザインじゃないのが嬉しい。これなら私でも着られる。着てみるとサイズもピッタリだ。鏡の前で、クルリと回ってみる。可愛い。でも、それなりに似合っている…と思う。嬉しい。

が……。

『可愛い服』にテンションが上がって喜んでしまったが、はたと気がついてしまった。これで、湖周辺へ討伐に…?行けるわけないよね?

試着室のドアを開け、ランサーに声を掛ける。ランサーは、

「似合っているじゃねえか。」

とニッと笑ってみせた。

その笑顔についついつられてヘラ、と笑いそうになるが、慌てて気を取り直す。

「これ、可愛いけど、討伐には向かなくない?」

私は恐る恐る聞いてみた。折角ランサーが選んでくれたのに、ケチを付けていると思われては嫌だ。

「馬鹿、普段着だよ。討伐の格好なんて街で出来ねえだろ?あ、着て帰るぜ。」

「え、」

ランサーが店員のお姉さんにこのまま着て帰ることを勝手に告げるので、少し慌ててしまう。

「お前のあの格好は目立つんだよ。黙って着ておけ。」

だとしても。

「お金…!」

「こういう時は、男に払わせるのがマナーだぞ。後でちゃんと貰うから。」

そうなの?

……そうなのかもしれない。モテる子は、よく『デートで○○を買ってもらった』なんて話していたっけ。ユナも、貢物かってくらい物を貰っていたな。男性と買い物に出掛けたら、実際のお金のやり取りはともかく、支払いの場では男性にお願いするのが『可愛い女の子』なのかも知れない。

そういえば、今までの恋人たちに買ってもらった物って無かったなぁ……欲しい物すら伝えたことも無かった。そういう所が可愛くないのだろうな。

……などと、遠い目をしていると、バサバサと服が何着も運ばれて来る。

「ほれ、追加な。これも会計一緒で。」

ランサーがこともなげに服を積み上げる。

「ちょっと待って!これ全部買うの?」

「あたりめーだろ、着替えだろ?何着か無きゃ意味ねぇだろうが。」

グッと言葉に詰まる。そうなんだけど、何だか罪悪感がある。支払いは後でランサーにお金渡すけれど。

「服とか、自分を飾るものにお金掛けたこと無かったから……」

両親は、私がお洒落に興味を持つと叱責してきた。どうせ醜いのに、ユナのように可愛くないのに、なぜ無駄遣いをするのか、と。それが幼少期から続くと、大人になって親の言葉が絶対じゃなくなっても、染み付いて離れなくなってしまう。それが魅了の魔法によるものだと分かっても、はいそうですかとすぐに前向きにはなれない。セレナのように、お洒落したい、可愛くなりたいと言える強さは、私にはまだ無かった。

「……そーかい。」

私の表情から何かを感じたのか、ランサーはそう言うと頭を撫でてきた。いつも通りの温かい、大きな手だ。

安心する。思わず目を閉じ、その温かさにすり寄ってしまう。

「まー、侯爵家の御子息がこんな日の高いうちから街なかでイチャイチャと!やるならお屋敷に帰ってからにしてあそばせ!」

蜂蜜色の金髪のお嬢さんが笑いながら言う。本気じゃなくて、多分ランサーをからかっているのだろう。

……というか、侯爵家の御子息…?

ヤバい、ガチの上流階級だ。ランサー、そんなお家の子だったの…。

「イチャイチャなんざしてねえよ。大体、俺は勘当された身分だ。屋敷なんて何年も出入りしてねえの知ってんだろ。」

「ま、そういうことにしておいて差し上げますわ、坊っちゃん。」

ウフフ、と金髪のお嬢さんがニマニマする。

「ったく、お前もコイツも人を何だと思ってんだ。」

「坊っちゃん。」

「いいとこのボンボン。」

ランサーの嘆息に私とお嬢さんが同時に答える。

「……気が合いますね。」

「本当に。」

このお嬢さんとはお友達になれるかもしれない。

「ああ、もう、下着も選ぶんだろ?!さっさと選べよ!」

「ランサーも一緒に…」

「馬鹿野郎!」

特に深く考えずに言った言葉に、ランサーが慌てて噛み付く。

「あらぁ、お二人は、やはりそういう関係で、もうそこまで進んでいると……」

お嬢さんが異様にテカテカとした瞳でこちらを見てくる。『そういう関係』……ああ、恋人同士のことか。そうか、下着を一緒に選ぼうとしたからか。違うんですよ、と否定しようとすると、ランサーがいち早く答える。

「違う!ほらな、こういう馬鹿な勘違いをされるから、一緒に選ぶとか軽々しく言っちゃなんねえんだよ!」

否定が早い。馬鹿な勘違いって。ヒドイ言われようだ。

仕方ないので一人で下着を選んでいると、さっきのお嬢さんが一緒に選んでくれた。ミラさん、というらしい。やはりランサーの乳母の娘さんで、ランサーとは姉弟のように育ったという。可愛らしいのに話しやすくて姉御気質だ。

「ランサーって、凄いお坊ちゃんなんですね。何でお屋敷に帰ってないんですか?」

「んー、それは、私から言わない方がいいかな?本人に聞いてみて。貴方なら、きっと話してくれるわ。」

その言い方が、軽い調子で言っているけど何だかとても真剣という感じがしていたので、それ以上は聞くべきではないと判断した。確かに、他人のことを本人に断りなくベラベラ喋るのはどうかと思う。気になる……とは思うけど。後で、直接聞いてみよう。

そしてついつい下着で女二人盛り上がり過ぎてランサーにしびれを切らされ、仕方なくミラさんのお店を後にした。

その後、作業服を主に取り扱う店に寄り、無事討伐用の服と靴を購入できた。

今日の目的は達成である。

かなりの荷物になるけれど、転送魔法というものがあるらしく、ランサーは大量の荷物を地下牢の番の自室に送っていた。何あれ便利。瞬間宅急便のようなものか?魔法が上達したら、絶対習得しよう。

後は帰るだけだな、案外早く済んだな、案内人がいてくれたからだな、などと考えていると、ランサーと目が合う。

「…楽しかったか?」

「うん。連れてきてくれてありがとう。」

素直に答える。仕事の一環ではあったけど、それを忘れるくらい楽しかった。ミラさんとも仲良くなれたし、男前なランサーの姿も見れた。

ランサー、見た目もやたら良いし、粗雑な言葉を使っていても、節々に育ちが良い所が見えるなー、と思っていたら、やはりいいとこの坊っちゃんだった。

「ランサーって侯爵家なんて凄い身分なんだね。」

だから何となく、特に意識していたわけでは無いけど、ポロリと口から出てしまった。

「俺は勘当された身だ。関係ねえよ。」

ランサーは少し眉間にシワを寄せて吐き捨てるように呟いた。あ、これ、触れちゃいけないやつかな?明らかに機嫌が悪そうだ。

「そうなんだ……。」

無難な方向に話を持っていこう、あわよくばこの話を終わりにしたい。これ以上踏み込みませんよ、雑談程度の意識ですよ、という態度を滲ませて相槌を打つ。が、どうやら時すでに遅しだったらしい。


「関係無えだろ、お前には。他人が余計なことに首を突っ込むんじゃねえ。」

『他人』という言葉に、グッと詰まってしまう。

そうか、私達は他人だったんだ。

仲良くなったと思っていたけれど、それは私の思い上がりだったらしい。あの加護付けも、特別な感情があったわけでは無く、やっぱり『そういうもの』だったんだ。

実は少し期待していた。加護を付けるといっても、あんなに愛しげに撫で回す必要は無いのでは、ランサーにとって、私は特別になれたのでは、などと。

でも違った。

よく考えてみれば、初めて会ってから一ヶ月くらいのものだ。たくさん話していたって、仲良くなりたいと思わなければ他人のままだ。ランサーは、私と親しくするつもりは無い、ということなのだろう。親身になってくれるし、物理的な距離が近いから、勘違いをしてしまった。


「……そう。そうね、他人だものね。申し訳ございませんでした。以後同じ事のないよう気を付けます。」

謝罪は会社員時代に嫌というほど経験した。気持ちいいものではないが、体がきれいに動く。

「……。」

ランサーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

……そんな顔しないでよ。そんなに私が嫌いなの…?

他人なのに、分をわきまえずに踏み込んだことは反省している。せめて、軽口を叩いたり、遠慮なく話せる相手で有りたい。

そう思うのはやはりいけないことなのだろうか。

胸が、重い。

思い上がって、勘違いでこんなに凹むなんて、我ながら馬鹿だと思う。


無言で道を歩く。道が分からないから、ランサーの後を着いて歩いているが、その大きな背中からは表情も感情も読み取れない。でも、きっと怒っているのだろう。親切にしてやったら勝手に勘違いして、挙げ句無遠慮に踏み込んできた他人だものね、私。

そんなことをぐるぐると考えていると、ランサーが立ち止まる。そこは広場になっていて、花壇や噴水があった。

「ちょっと用事がある。待ってろ。」

そう言ってランサーが広場から離れる。私は一人でベンチに腰掛けた。

街を一人で歩くのは危険だとか言いながら、今私は一人だ。

これは……怒らせてしまって、置き去りにされたパターンですかね?

「困ったね……どうやって帰ろう…。」

帰り道がよく分からない。お城を目指せばいいから大体の方向は分かるけれど、道や危険エリアとかも分からない。

ランサーにとって私は、『ただの他人』から『嫌いな人間』になってしまったのかな……。

そう思うと胸がギュッと痛くなる。

城下町の空は、茜色になって来ていた。



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