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魔法の訓練と、息抜きin地下牢

「…って事があったのよ。私宮廷魔術師団で上手くやっていけるかなぁ。」

「さてね、お前さんの努力次第じゃねぇか?……というかな、何でお前さんここに来てるんだ?」

ゴツゴツした壁。薄暗く湿った空気。

王城の地下牢である。


最近の私は、専らイグニスさんと一緒に防御魔法の訓練である。

魔法は難しい。

攻撃魔法を習得しようとして、基本の火と水と風を出しただけで危うく事故を起こす所だった。それなら防御魔法なら安全か、と言えばそうも行かず。なにせ基本の火や水や風、それに土や光、氷などの魔法は攻撃とか防御とか関係なく使えねばならないのだ。そこからの応用で攻撃や防御などの魔法を紡ぐらしい。毎日毎日、いかに魔力を小出しにして『丁度よい』加減の火や風や水を作り出すかを練習し、その後に防御魔法の基礎を実地と理論で教えてもらう。

今日はやっと風の防壁を作ることに成功した。…そこまで辿り着くための犠牲は、抉れた地面、折れた植木、庁舎の窓ガラス、イグニスさんの生気と魔力という大変申し訳無い結果なのだが…。

そして出来た風の防壁も、イグニスさんのものとは少し違っていて。

イグニスさんの風の防壁は、魔法や物理的な攻撃が風に弾き飛ばされるようになっている。一方、私の防壁は、触れれば切れる、かまいたちのような風だった。一応、人が試す前にこぶし大の石を投げ付けて見たのだが、防壁に触れた瞬間スパッと真っ二つに切れてしまった。とても強力だが、一歩間違えれば味方が切り刻まれるという諸刃の剣である。イグニスさんは「なぜこんな処刑道具のようなものが出来たんだ…」と首をひねっていた。いや、本当に人で試さなくて良かった。いくらセレナというヒーラーがいるとはいえ、昼間からスプラッターなんて見たくない。

異世界召喚された人間はチート能力で皆がビックリの魔法を使いこなすんじゃなかったのか、と言いたくなるほど、私の魔法のセンスは酷いものだった。乞われて異世界召喚されたのはユナだけだったので、チート成分はみんなあっちに行ってしまったようだ。魔力は強力で膨大でレアらしいれど、使いこなせなくては意味が無い。私の一流魔法使いへの道はまだまだ遠い。

そしてこの講習は、イグニスさんの魔力が尽きた所で終了となるため、定時よりだいぶ早く終わってしまう。大体昼頃には、イグニスさんはもはや立ち上がる気力も無いほど消耗仕切って、宮廷魔術師団の仲間に回収されて行く。毎日毎日、本当に申し訳無い。せめて回復ポーションが作れればいいのに、私には作れない。

後片付けをし、体力作りのため柔軟と走り込みをし、庁舎に戻ったら備蓄用の攻撃特化ポーションを作り、定時少し前に上がりとなる。

その後、ご飯の時間までの間、私は大体ここ……王城の地下牢に来ている。ランサーは呆れたような顔をしながら、何だかんだ私の話に付き合ってくれている。


「なんか落ち着くのよね、やっぱりこっちに召喚されて初めて夜を越したのがここだし。」

「ハァ、そうかい。」

「あ、あと!初めて話してくれたのもランサーだもん。ランサーと話すと落ち着くのかも。話しやすいし。」

「そーかい。そりゃいいがね。」

ランサーは一旦言葉を切ると、椅子に寝そべるようにしていた姿勢から座り直し、前かがみになってこちらの顔を正面から覗き込んだ。

「嫁入り前の女が、こんな所で男と二人切りってのは褒められたもんじゃねえぜ?」

整った色っぽい顔がぐっと近づく。少し掠れた甘い声で低く囁かれるが…。完全に相手を間違えている。私に“男”を出されましても…。大体、“女”とて見てないくせに何をやっているのか。と、いうより、からかっているな、これは。ちょっと笑っているし。全く失礼なヤツだ。

「嫁入り前って言われてもねぇ…。どうせ結婚出来ないし。」

ここでアワアワしたら可愛げもあるのだろうが、ロクな恋愛をして来なかったので、冗談でも口説くそぶりをして来る男には警戒感しか無いのだ。見た目からして百戦錬磨っぽいランサーからおちょくられている感が漂う。

「何でだよ。」

「ほれ、私異世界の人間だし。それに見れば分かるでしょ?こっちの世界、男性ですら綺麗な人ばっかりじゃない!それなのに、元の世界ですらパッとしなかった私が、綺麗な人だらけのこっちの世界で結婚出来るわけがないって。」

周りはセレナ以外男性ばかりだが、男性でこれだけ美しいのだ、女性は推して知るべしだ。

「パッとしなかったのか?お前さんが?」

「そうでしょ?」

純粋に可愛いとはお世辞にも言えないキツめで愛嬌のある顔ではない上、コミニュケーションが不得意で愛想もない。見た目がアレなのに中身まで。どうすれば愛されガールとやらになれるのか分からずじまいだった。さらに隣には常に美少女の妹がいた。パットしないことこの上ない。

「…俺は女の顔の善し悪しにゃあんまり興味が無いんでね、よく分からんが…。アンタは目立つしパッとしないとは思わんぜ。」

「デカイし顔がキツイから目立つのよね。」

「そうじゃないんだが…。」

ランサーはモニョモニョと語尾を濁した。私に対してあまり遠慮がないと思っていたが、それなりに気を使ってくれているのか。

「全体的に“圧”って感じよね、尻もデカイし乳もデカイし。」

「…そーかい…。」

「そーだよ。乳はセレナのお墨付きだよ。揉んどく?」

両の胸を鷲掴みユサ、と揺らしてみせる。からかいにはからかいで返してやる。

「馬鹿かお前は。」

ランサーが眉間にシワを寄せる。そういえばランサーは元エリートだった。お貴族様や王族様と交友する身分だろう。こんなことする女は周りにいなかったか。そう思うと、ちょっとしてやったりと思ってしまう。私をからかったつもりだろうが、そうはいくか。

「冗談だよ。まあ、私のビジュアルの話は惨めになるから置いといて、」

「置いとくのかよ。」

「もし結婚とか、そこまで行かなくても、好きな人が出来たとして、どうせユナに盗られるしね。」

しみじみとこれである。私の人生の難関である。もはや恋愛する気にもならない。

「ああ、あの聖女か。」

ランサーは特に興味無さげに相槌を打つ。そういえば、ランサーも元宮廷魔術師だった。ユナの魅了が効かない人がここにもいた。

「そうそう、アイツなんか魅了ってのを使えるらしいんだわ。」

「おいおい、マジか…。…お前、それ他で言うなよ?」

私がなんの気無しに言った一言に、ランサーはギョッとして椅子に伸び切っていた姿勢をグッと前のめりにした。そして辺りを窺いながら声を落として言う。余程聖女様が魅了を乱発しているのはマズいことらしい。そう言えば、ゼスト師団長もガリュー副師団長も困惑していた。

「ランサーにしか言ってないよ?」

「…そうかい。」

私の言葉にランサーが微妙な顔をする。あれ、これってもしかして、国家機密的な物だった?そして私はそれをペラペラ喋る女だと思われてる?

「あ、私別に口は軽くないからね。ランサーにだけだからね?」

「っ…お前、言葉の選び方を考えろ!」

慌てて自己弁護するが、ランサーは目を剥いて叱りつけて来た。

ああ、言われてみれば、まるで愛の告白のようなセリフだ。

……でも、いつも余裕綽々で私の話を聞き流して、おちょくったりからかったりするランサーが、慌てているのは……なんだか可愛い。あんな経験豊富です的な顔をしておいて、告白モドキの言葉に驚くなんて。

「えー…。じゃあ、ランサーは特別。」

「なお悪い。」

「ランサーしかいない。」

「悪化している。」

「ランサーじゃなきゃ嫌。」

「遊んでるだろ。」

ちょっと調子に乗ってしまった。

でも、打てば響くような軽いやり取りが楽しい。

「でもランサーが特別なの人は本当だし。」

「だから、さっきから男と二人切りの時にそういうこと言うやつがいるか!」

さっきの冗談っぽくからかった言い方じゃなく、だいぶ本気な言い方でランサーが言う。

「駄目なの?」

「………駄目じゃねぇがよ…。」

ランサーは本日何度目かのとても微妙な顔をする。

「あ、そっか。ランサーはいいとこの坊っちゃんなんだっけ?もしかして、婚約者がいたりするから駄目ってこと?」

「いねえよ。前は決められた婚約者がいたがな、ここに左遷された時に解消だ。」

「あ、もしかしてその婚約者が今でも忘れられないからとか…」

「ちげーよ、馬鹿。単純にお前の評判の傷になるだろ。」

「結婚もしないのに?令嬢でもないのに?」

「全く調子狂うわ…」

「だってランサーは初めて私とまともに話をしてくれた。私に進むべき道を示してくれた。特別な人だよ?」

相手が真剣になるなら、こちらだって真剣に話す。私はランサーを真っ直ぐ見ながら告げた。

「……は〜…。」

ランサーはくたびれたように溜息をつくと、しょうがないな、という顔で少し気の抜けた表情をした。これはどういう感情なんだ?とその顔をじっと見ていると、頭をその大きな手でワシワシと撫でられる。頭ナデナデなんて親にもされたことが無かった。

それが何だか嬉しくて、目を細めて頭を擦り付けてしまう。

「っ…お前!」

「撫でてくれないの?」

「っああもう!」

ワシワシガシガシと武骨な手が撫でるのを再開する。

「お前…馬鹿だなァ…。」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんですー。」

「可愛くねぇな。」

「その言葉は聞き飽きたからノーダメですー。」

他愛もないやり取りだ。頭を撫でられ、どうでも良いような話をする。傍から見ると、きっと謎な空間だろう。でも私にはとても心地よい。

「満足かい?」

「うん!また来るね。」

私は地下牢備え付けのベッドから立ち上がった。

「そーかい。ま、妙な噂立てられないように気を付けな。」

ランサーも律儀に椅子から立ち上がって、見送りに来てくれる。こういう所、本当に育ちが良いんだな、と思う。

「分かった。ランサーも話を聞いてよ?約束!」

私はサッと右手の小指を立てて差し出したが、ランサーは無反応である。そういえばここは日本じゃないんだった。指切りの知識が無くて当然だ。

「ああ、これ、私のいた国の約束のおまじない。」

私は両手でランサーの大きな手を取り、小指を絡め取った。

「おまっ!」

「こうやってね、小指と小指を絡めるの。ね、約束。」

ニッと笑ってランサーと指切りをする。これで約束は成立だ。

「…それ、誰彼構わずやるんじゃねえぞ。こっちの世界だと色々勘違いされるぜ。」

「そうなんだ。じゃ、こっちの世界の約束ってどうやるの?」

私の問にランサーは少し視線を反らした後、もう一度私を正面から見た。二人とも立っているので、ランサーと目を合わせようと思うとどうしても首が上を向く。

そしてランサーはその大きな両の掌で私の頬を包み、オデコに触れそうなほど唇を近付け、フッと息を吹きかけた。

「え?」

「こうして、相手に親愛と加護を付けるんだ。」

「へぇぇ…。ソーナンデスネ。」

言いたいことは山ほどあった。

こっちの方がよっぽど勘違いされない?

とか、

嫁入り前の娘とか言ってたくせにこれは有りなの?

とか、

加護を付けるって凄いね、どうやるの?

とか。

でも私は手を振ると振り返らずそそくさと地下牢を後にした。

だって顔があつい。きっと真赤になっている。心臓がバクバクする。

おちょくられるのが嫌で、からかわれてもからかい返してきたのに、最後の最後で完敗だ。たかだかおデコチュー未遂なのに、こんな真赤な顔を見せるわけにはいかない。大体、こっちの世界の指切りみたいなものじゃないか。それにこんな反応するなんて。

いや、これは、アレなんだ。

急に顔を近付けられたから、恥ずかしかったんだ。ビックリしたんだ。コミニュ障だからね、近い距離は慣れないんだ。

きっとそう。

だから、大丈夫。

今までと何も変わらない。


大丈夫大丈夫と言い聞かせながら地下牢を出たが、何故か顔の赤いのはなかなか治まらず…。

仕方がないので私は王城周辺をひたすら走り込み、それでも落ち着かず、庁舎で魔力が消耗してくるまでポーションを大量生産した。

そしてその行動は、次の朝、ガリュー副団長から「保管場所を溢れさせるまでポーションを作るんじゃない」と叱られることになる。


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