表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/47

魔法の練習をします。

「じゃあ、前置きはいいから、ちゃっちゃと始めようね。レイは、超攻撃的ポーションが作れたから、多分攻撃魔法が得意なんじゃないかな?攻撃魔法からやってみようか。」

魔法の実技指導一日目。

先生は、昨日の基本講座とポーション作りと同じく、カムリだった。コミニュケーションが苦手な私にとって、ベストな人選だろう。この人事を決めたガリュー副団長は、やはり人をよく見ている。

「じゃあ、まずは簡単な火の魔法をやってみよう。」

攻撃魔法で火の魔法なんて、何て魔法使いらしい!私は若干興奮していた。

「まずは、体を巡る魔力を意識して。魔力を掌に集めるんだ。そしてそこに日を灯すイメージで僕はやっているよ。」

カムリが右手を胸の辺りに広げ、掌を上に向ける。

「ファイア!」

呪文と同時に、カムリの掌の上に直径10センチ程の火の玉が出現する。

「こんな感じだよ。」

カムリはニコッと笑ってみせる。

こちらの世界に来てから今まで、魔法に接したことはあったが、洗礼をされたり、ポーション作ったりカーテン開けたり……というよく分からないものだったから、この魔法らしい魔法に私は感動していた。これ、私にも出来るのだろうか。

「レイもやってみて」というカムリの言葉に従い、私も炎を出すことにした。

身体を巡る魔力を集める。そこに火をつける。そんなイメージだとカムリは言っていた。

私は自分の体内の魔力をイメージする。団長の洗礼で溢れた、あの黒いモヤ。あれを私は纏っている。それが身体を巡っているんだ。巡る魔力を掌に集めると想像する。これが燃料だ。そしてそれに火をつける!

「点火!」


ゴォっという大音量と共に、暴力的な熱が掌から立ち昇った。大きさは5メートルくらいあるだろうか。

炎、成功だ。私にも出来た!

でもさ……これ熱くない?

何か思ってたのと違う。デカイ。勢いが激しい。

こんなの掌から出してて、私大丈夫?てか、少し髪とか服とか焦げてる!大丈夫じゃなくない?自分で出した炎で焼死とか、冗談でも嫌だぞ?!

「うわ、火柱?!ちょ、何コレ?一回消そう!」

カムリが慌てて叫ぶ。

やっぱり大丈夫じゃなかった!

「どう消すの?!」

消したいのは山々だ、というかこっちの命が危ないから消さねばならない。けど、消し方なんて知らない。水か?酸素を無くすのか?どうやってやればいいんだ?

「掌に集めた魔力を散らして!火を消すのをイメージして!」

半ばパニックの私だが、やらなきゃ死ぬ。掌の魔力が雲散霧消して燃料が無くなるのを必死にイメージする。

すると、火柱はシュルル…としぼみ、やがて消えた。

「…いやー、びっくりしたー。まさかあんな巨大な火柱上がるとは…。」

私もですよ…。

てか、魔法の炎って、出した本人も焼くんですね…。少し焦げた前髪から変な臭いがしている。乙女的には前髪が焦げるなんて一大事だが、もう命が助かっただけでいいやと思えてきた。

「…レイは、炎の魔法が得意なのかな?」

少し疲れた笑顔でカムリが言う。なんかゴメン。でも、私も驚いた。

「おい、何だ今のは?!火事か?!」

宮廷魔術師団の庁舎から慌てた形相で何人か走ってきた。マズい、今の炎が見られたか。……いや、無理もないか。5メートルの火柱が上がれば騒ぎにもなるだろう。

「あ、すみません!新人教育中です!ちょっとコントロール失敗しちゃって……」

カムリが申し訳無い、という表情で謝ってくれる。私も慌てて頭を下げた。

様子を見に来た方々は「気をつけろよ」と言い残し、庁舎へ帰って行った。

「炎は目立つし危ないから、風系の魔法にしようか。まずは風を起こしてみよう。さっきと同じように、自分の体内を巡る魔力を掌に集めて、そこから小さな空気の渦を作るイメージで僕はやっているよ。」

カムリは仕切り直しと言わんばかりに明るく笑い、今度は両腕を横に広げ、手を大きく開いた。

「ウインド!」

カムリの呪文と共に、その体の周辺にピュオっと風が巻き起こる。旋風のような範囲の狭い風だが、自然の風ではないのはひと目で分かる。これならさっきの炎と違って失敗しても目に付き辛そうだ。大体、さっきは炎が出るかどうか不安で思いっきり力を込めてしまったんだ。今度はちょうど良い魔力量というものを心掛けよう。

体を巡る魔力を手のひらに集中…。

そして空気の渦をつくる!

「そい!」


グォォ!という地響きのような音と共に、風が巻き起こる。やった、風も成功だ!

でもさ…何かカムリのとちがう…。空気の渦がとぐろを巻いて上空に登って行く。渦の幅も広いし、勢いが強くて地面を削りながら巻き上げている。あれだ、テレビで見た外国の竜巻みたいな感じだ。

…これ、やばくない?

というか、カムリが風で飛ばされて浮いてる?!どうしよう!

「うわわわ!グラビティ!」

カムリが焦った声で呪文を唱えると、宙に浮いた体はそれ以上上昇せずに空中で止まった。

「止めて止めて!」

「止め方は炎と一緒でいい?!」

「そう!早く!」

デジャヴかな?というやり取りをし、風はおさまった。

「…はぁ〜……庁舎が吹っ飛ぶかと思ったよ…。」

「何か、ゴメン…。」

「おい、今度は何があった?!」

再び、庁舎から人が駆け付けてくる。竜巻が発生したのだから当然だが、原因を製造した者としては肩身が狭い。

「あー…すみません、新人教育中で…コントロール失敗です…。」

「またかよ。」

なんかもう本当にすみません…。

「…水魔法やってみようか…。」

「ハイ…。」

「魔力を掌に集めて、空中の水分を凝縮するイメージで僕はやっているよ。」

「ウォーター!」

カムリの呪文と同時に、その掌から水が宙に出現する。昔テレビで見た、無重力状態の水の玉のようだ。

今度こそは大丈夫!そう自分に言い聞かせながら魔力を掌に集める。水をイメージする。

水、大いなる生命の源。海とか川とか…。

「ザッパーン!」


ドォッ!と低い音が鳴り、周囲が青に満たされる。私の体を取り巻くように大量の水が渦を巻き、出現する。

…量、多いな…。

25メートルプール一杯分くらいあるでしょコレ。

それが渦を巻いて私を取り囲む。

何だかモーセの十戒みたいな…。

そしてカムリは波に飲まれていた。

「あああ!もう!止めて!」

「さっきから何なんだ、お前ら!」

カムリの叫びと、またしても庁舎から駆け付けて来た人達の怒号が木霊する。

「あかんやん…」

私は自分の魔法のセンスの無さに遠い目をしながら呟いた。


「うーん、魔力の量も質も強さも素晴らしいと思うんだけど…。」

濡れネズミになったカムリが、眉間にシワを寄せながら、風魔法と炎魔法を組み合わせて体を乾かす。ふわふわの髪がすっかりぺしゃんこだ。

「初歩の初歩でこれだとなぁ…。普通、最初は微弱な魔法しか使えなくて、訓練を積んで強い魔法をこなせるようになるんだけど…レイは逆みたいだね。この極端に強い魔法をどう弱く…っていうか、ちょうどよく収めるかだよね。」

やはり私のアレはイレギュラーなのか。

…そりゃそうだ。相手が国家に雇われる魔法使いたるカムリだからこそ無事だったのだ。生身の人間が、あの規模の火柱や竜巻や水の渦に遭遇して無事なわけがない。製造した私が言うのもなんだが、自分が喰らう側なら怪我じゃ済まなかっただろう。

「そうだ!」

カムリが閃いた!という顔でこちらを見る。今朝ぶりの明るい表情だ。

「結界の中で訓練するのがいいかも。野ざらしでやったら多分死人出るか建物が倒壊すると思うから…。防御系の魔法が得意な人に声掛けて来るよ。レイはここで待ってて。あ、くれぐれも一人で魔法使わないで!」

カムリは魔術師のローブの裾を翻しながら庁舎の方へ走って行った。


そうして数十分後…。

「はじめまして…か?俺はイグニス。結界師だ。防御系と封印系の魔法を得意としている。俺がしっかり壁を作るから、思う存分訓練するといい。」

イグニス、と名乗ったのは、身長が2メートルくらいはあろうかという、筋骨隆々たる男性だった。武士、とか戦士、と言われたほうがしっくり来るようなドッシリとした体型に、夕焼けのような瞳の色、赤毛の長髪を後ろで一つに纏めていて、精悍な顔立ちの、正に美丈夫というに相応しい。

「よろしくお願いします!」

結界師、なんて凄い肩書きなんだ。見た目からして頼れそうだ。

私の期待に満ちた顔を見て、イグニスさんは少し笑った。あ、笑うと優しげに見える。

「では、早速始めよう。」

イグニスさんは両手を胸の前に上げて、掌を上に向けて何やら呟き始めた。

と、その瞬間、キィンという耳鳴りのような音がしたと思うと、何かがイグニスさんの掌から広がって行くのを感じた。薄っすらとしか見えないが、その何かが広がり、ドーム状に広く広がる。

「これが結界だよ。イグニスさんは宮廷魔術師団の中でも一番の結界師なんだ。」

カムリが横から説明をしてくれる。

なるほど、これが結界か。詳しくは分からないが、このドームの中は静寂が広がり、風も匂いも感じない。完璧に別空間ということか。

別空間なら、火柱が上がろうが竜巻ができようが渦潮が出来ようが問題は無いだろう。しかも一番の結界師の結界だ。きっととても丈夫だろう。

私は初めての結界にわくわくしていた。

思う存分って言ってくれたから、コントロールを気にしつつも怖がらずにやってみよう。ぶっちゃけ昨日今日魔力に目覚めた身分で、コントロールなんて出来るわけがないだろうよ、とは思っていたのだ。コントロールを身につけるためにも、失敗を気にせずどんどんやってみよう。

そこから私はとにかく魔法を繰り出した。コントロールを念頭に置きながらも、コツを掴むため、とにかく数をこなすことにしたのだ。さっきとは違い、結界師という防御のプロがいる。多少失敗したり、威力が強すぎたりしたって構うものか。習うより慣れろだ。

早く魔法を使いこなせるようになって、しっかり役に立つようになって、お仕事をしなくちゃ。私のこれからの人生がかかっているのだ。


そうして、どれくらい時間が経ったのだろう。ふと気が付けば陽はとうに傾き、辺りは薄暗くなっていた。連続で繰り出していた魔法を一旦止め、腕時計を見やる。こんな時間か、と驚いているとカムリが後ろからガバッとしがみついて来た。

「レイ、レイ!今日はここまでにしようね!」

カムリが焦った顔で私の腕を掴む。

「そうだね。夢中になってたわ。イグニスさん、ありがとうございました!」

パッとイグニスさんを振り返ると、グッタリと憔悴した表情のイグニスさんと、それを支える宮廷魔術師団の方々数名、足元に転がる無数のポーションの空の瓶が目に入って来た。


…ん?

イマイチ状況が掴めない。どうしたのだろう。

「おい、カムリ。」

「ハイ、イグニスさん…。」

イグニスさんは、カムリを手招きし、他の宮廷魔術師団の方々と何やら話し始めた。

「闇の魔力…」

「こんなの聞いていない」

「異世界の人はイレギュラーと団長が…」

「限度が…」

「…まだ元気そう」

「なんで魔力底つかないんだ」

「半日持たない…」

「方針転換を…」

「攻撃は…」

「防御しきれない…」

会話の端々しか聞こえて来ないが、何となく総合すると、結界はそれなりに体力と魔力を消費するのに、私が馬鹿みたいにノンストップで魔法をぶっ放していたので、やってらんねとなったらしい?

マジか。

それなら途中で言ってくれれば…と思ったが、そういえば夢中になっていたし、ずっと炎や風や水の音で人の声なんて聞こえて無かった気がする…。

うわ、これヤバいやつじゃないか?先輩の体力を消耗させて、ノーコン魔法をひたすらぶっ放すとか。そういえば皆さん引いてるようだし。まずい、これから同僚としてやっていかないといけないのに。

私が一人で赤くなったり青くなったりしていると、イグニスさんとカムリが話し合いの輪から抜けてこちらへ向かって来た。

「レイ、君はまず防御系の魔法を覚えよう。攻撃魔法は今の君には危険が大きい。」

イグニスさんが疲れた表情で告げる。チラリと顔を窺うと、顔は疲れているが、呆れや怒りという感情ではないようだ。

「俺が責任を持って教える。」

イグニスさんは、しっかり私の目を見てそう言い切ってくれた。

「本当にすみませんでした…。」

もう、それしか言葉が出てこない。

「レイの当面の課題は……コントロールだね。しばらくは、イグニスさんのもとで防御系の魔法を教えてもらいながら、魔力のコントロールを覚えようよ。」

カムリが優しく言ってくれる。

ノーコン野郎にも優しいカムリ…。優しさが刺さる…。


かくして、私の魔法使いデビューはノーコン野郎デビューとなり、しかも色々派手にやっちまったせいで宮廷魔術師団のほぼ全員にノーコンっぷりが知られる事となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ