怖い話16【疑心暗鬼ノート】700字以内
(また書かれてる……)
旅の思い出ノートが、宿泊している和室の、窓際の小さなテーブルに置かれている。窓の外には紅葉が広がっている、小さな椅子が二つある居心地の良い広縁だ。
思い出ノートには、宿泊した人が様々に感想を書き残している。そんな平和なノートの一番新しいページに、こう書かれてあった。
『〇〇が死にますように』
それは私のフルネームだった。他の旅館に泊まった時にも、同じ字で同じ事が書かれていた。これで三回目だ。
「何見てるの?」
「あ、ううん。何でもない」
優しく彼が聞いてきた、とても彼には伝えられなかった。彼の字に似ていた事も。
夜になり、彼が私の布団に潜り込んできた。
「もう寝ちゃったかな?」
「……」
私は何だか怖くなり、寝たふりをして様子を探っていた。
彼は私が寝ていると思ったのか、布団から出ていき、窓際の椅子に座って、思い出ノートに何かを書いている。やっぱり彼の字なのかも、そう思うと怖くて動けなくなった。
彼がまた布団に入ってきて、抱きつくように首に腕を回してきた。私は起きてるのがバレたら殺される気がして、必死に震えないように彼が寝るまで待った。
彼の腕は首を絞める事なく、しばらくすると。いびきをかいて大の字に広がっていた。
私は、どうしても思い出ノートが気になったので、彼を起こさないように、静かにノートを見に行った。
一番新しいページに、こう書かれてあった。
『景色が綺麗で素敵な旅館でした、また大好きな彼女と来たいです』
(え……)
その上に書かれてあったはずの、あの言葉が、ボールペンでぐちゃぐちゃに黒く塗りつぶされていた。
「何見てるの?」
後ろから彼の言葉が響いた。