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唇に笑みを乗せて

 あれ?


 気がつくとそこは、私の部屋の前だった。元の世界の。


 まぁ、部屋って言うほどのものじゃないんだけど。


 私の部屋は、六畳の畳の部屋におまけのようについた二畳の長細いフローリングの場所。

 仕切りはカーテンである。


 畳の方で雑魚寝なのだ。


 左側には、横幅すっぽりと入った勉強机があり、反対側のカーテン側に箪笥が置かれている。(カーテンを開けて箪笥を開けるようになっている。)

 そして、壁を背に、箪笥と垂直に置かれた長細い本棚が置かれている。


 箪笥と壁の道を少しいくだけで本棚についてしまうのだが、光源が机につけられたスタンドライトしかないため、懐中電灯がいるのだ。


 まるでテトリスをしているかのような配置になっている私の部屋。



 壁の向こうは、お姉ちゃんの部屋。

 広い部屋に大きい本棚。そしてベッド。


 この差ってなんですか?


 別に誰かを部屋に呼ぶ訳じゃないからいいんだけど。


 てか、私、今なにしていたんだっけ?


 振り返れば、真っ暗な部屋が視界にはいる。


 今何時なのかは、わからないが畳の上にひかれた布団に誰も寝てないし、自分の服を見下ろせば制服をきている。


 私は家に帰ってきたら、制服を脱いで、体操服になるか、それに準ずる格好をしているので、まだそれほど夜ではないのかもしれない。


 リビングにいけば誰かいるかな?


 誰かに会いたいわけではないけど、状況がいまいち把握できていないので、移動する。


 リビングは、誰かがいるようで扉の隙間から、中の電気の光がこぼれていた。


 そーっと扉を開けるとソファにはあの人が座っていた。


 気配を感じたのか物音に気づいたのか、顔をあげて私と目が合う。

 その瞬間……


「あぁ、あぁー。」


 顔を両手で覆いながら、肩が震えだす。


「おかぁ」

「なんで帰ってきたの!!!」

「え」

「急にいなくなって、迷惑ばっかりっ。なんで!なんで帰ってきたの!!」


 私はその台詞を聞き……



 思わず笑みがこぼれる。


「あなた!なにを笑っているの!!」

「なぜって……」


 その瞬間、グニャリと世界が歪む。


 治まるとそこはリビングではなく、祭壇のあった洞窟にいて、目の前のあの人は、黒いコートの不審者(黒い魔法つかい)がいた。


「なぜ、お前は笑っている。」


 あの人と同じ台詞を魔法つかいが言う。


「なんで?そんなこと言われたら、悲しむとか落ち込むとかするとでも思った?」

「なぜ絶望しない?母親に『いらない』と言われたのだぞ。普通は悲観するであろうに。」


 そんな時期はもう過ぎた。


 そのなかでも、一つ気になっていた事があった。


 私がいなくなったあちらの世界で、私はどういった扱いになっているのか。


 行方不明か、元々存在していないのか。

 行方不明だったとして、残された人たちは、私のことはどうでもいいと思っているのか、それとも心を痛めてくれているのか。


 もし、心を痛めてくれていたのなら、私は嬉しくて悲しくて同じように心を痛めていただろう。


 でも、どうでもいいと思っていたなら、私は心置きなく向こうの世界を捨てることが出きる。


 そして、私はどうでもいいの方だろうと思っていたのだ。

 もし、「心を痛めている」と言っても、あなたのためって言いながら自分の心配しかしていない予想しかできないし。


 もしこれが、私の夢で、魔法つかいが見せた夢だったとしても。


「私のなかではっきりと区切りをつけることが出来た。」


 唇に笑みを乗せながら。


「だから、期待に沿えなくて、ごめんね?」

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