涙の温度
音なしの映画を見ながら考えるのは、早くこの場から立ち去りたい、だった。
こんなときあっさりと意識を手放す事ができたらどんなに良かったものか。
改めて事実を突きつけられたようだった。
しかし、立ち去りたいと思うのに、動くことが出来ない。
逃げることさえ許されない。
そうなったらもう、頭のなかはパニックである。
死にたい。死にたい。死にたい。
……消えてなくなりたい。泣きたい。
……早くこの場から立ち去りたい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……
オリバーが顔を覗きこみ、なにかしゃべってる。
なに?お前なんか死んでしまえって?
そりゃそうだ。役立たずなんだ。目障りだろう。
ぼんやりと考えていると、肩を捕まれて揺らしてくる。
……なに?
目が合う。
心配そうな顔をしているが、何も反応をかえす事が出来ない。
いや、違う。かえす気がないのだ。
私なんかが話をしない方がいい。
何でそんな顔をするの?
役立たずの私を心配なんかしないでよ。
とにかく早く、この場から立ち去らなくては。
オリバーが声を掛けてくれたことにより、金縛りが解けたように動くことができる。
早く……
速く……
はやく……
半ば走るようにして自室へ戻ってくる。
後ろからオリバーがなにかを言いながら、追いかけてくるのは知ってる。
だけど、立ち止まる気はさらさらなかった。
扉を閉めて直ぐに部屋のすみに体育座りをする。
手近にあったシーツを引っ張り頭からかぶり、暗くする。
何時までそうしていたのか。
しばらくして、自分が泣いている事に気がついた。
服に落ちる雫にもまったく気づいていなかった。
涙の温度すら感じていなかった。
気づいてしまったら、考える事さえ放棄してただ落ち込んでいることもできなくなった。
なぜ自分は泣いているのだろう。
オリバーが怪我をしたから?
『そう、お前のせいだ。お前が死ねば良かったのに。』
迷惑をかけてしまったから?
『貴女の頑張りが足りなかったからよ、何回も言わせないで。迷惑をかけないでちょうだい。』
あの人の言葉を思い出したから?
『言われたことを守れないなんて、何てダメな子なの?貴女には期待していたのに。』
心配をされたから?
『本当は、心配をされてうれしいとか思ったんじゃないの?かまってちゃんだもんな。』
一つずつあげてみるが、入れ替り立ち替わりクラスメイトやあの人が私を責めてくる。
その言葉に私は、言い返すことが出来ない。
たぶん、その通りだから。
思い当ってしまうと余計に涙が溢れてくる。
でも、もう一人の自分が『お前が泣く資格はない』と叱責する。
その通りだ。私には泣く資格はない。
それでも溢れてくる涙は、まるで氷の粒のように冷たかった。




