頑張りが足りなかったから
向かってくる縦ロールの持つナイフをかわそうとした瞬間。
縦ロールが笑った気がした。
なに?
違和感を感じ、気づいたときにはもう遅かった。
足が動かない。
みれば、地面と足が一緒に凍っている。
ちっ。氷魔法か。
このまま対峙するのか、火魔法で氷を燃やすか……
直ぐ決断を下さなければならないこの状況で、私の動きが止まった。
理由は、下を向いている時に目の前に影ができたこと。
その影は、私と縦ロールの間に誰かが入ったこと示していて、そんなことが出来るのはこの状況ではオリバーしか考えられない。
顔をあげれば、予想通り目の前にはオリバーがいて、縦ロールともみ合っていた。
でも。
私が思っていた予想の展開とは違う点があった。
それは。
オリバーの腕に赤い染みができている。
そして、オリバーが動くたび、ポタリと地面に雫が落ちる。
え、怪我を、した?
その事に気がついた瞬間に私の世界から音がなくなった。
目の前で繰り広げられる出来事が音のない映画をみているようだった。
見ているはずなのに内容が入ってこない。
私はオリバーの怪我をした腕を、細かくいえば血から目が離せなかった。
私のせいで。
私を庇ったばっかりに。
こちらの世界に来てから、なぜか庇ってもらうことがたびたびあった。
しかし別に庇って貰っても何とも思っていなかった。なにも感じることはなかった。
しかし。
今回は違う。私のせいでオリバーが怪我をしたのだ。
自分自身が怪我をすることに対して特に何も思っていなかった。
だけど、自分のせいで他人が怪我をすることがこんなにも怖いことだとは思っていなかった。
自分のせいで誰かが死ぬかもしれない。
価値を考えてみれば、絶対自分のが役立たずなのに。
私が生き残ってしまったら、後悔しかない。
『迷惑をかけないで。』
記憶のなかであの人が私に向かって一度だけ言ったその言葉が思い返される。
あの時は、中学にはいって三ヶ月ぐらい。
買ってもらったばっかりの筆箱を壊されたときだ。
学校について、教科書を引き出しにしまい終わり、トイレに行こうと席を立った。
その時に、筆箱を机の上に出しっぱなしにして席を立ってしまった。
そのため、男子たちに蹴り飛ばされて中身をバキバキに折られたのだ。
さすがに事が大きくなり、あの人に説明をしろと迫られたのだ。
そのときに言われた言葉。
『なんで物を大切に出来ないの?今、家が大変なのが見てわからないの?迷惑をかけないで。』
知ってるよ。だから、頑張ってきたのに。
それも認めて貰えないの?私の頑張りはまだ足りないの?
きっとここで私がどれだけ言葉を募ってもきっと、この人には届かない。
だから、私はまた口を閉ざすことにした。
そしてより一層、心配もかけずに、迷惑もかけずに生きていこうとしていたのに。
やっぱり、私なんか死んだ方のがいいのかもしれない。




