郷に入っては郷に従え
「はぁ。」
小さくついたため息は、誰にも聞かれることなく消えていく。
私は自分の姿を見下ろした。
今日の私の装いは、薄い青色のドレス。チュールが何枚も重ねられてヒラヒラしている。
髪型はいつものハーフアップだが、キラキラした髪飾りがついているのだ。
そして足元は、はいたことのないピンヒールである。
なぜ、私がこんな格好をしているかと言うと、レティシアの「夜会に出て!!」と言う押しに負けたからなのだが。
今日、「この服来てね。」と押し付けられ、見たことのある侍女さんズにあれよあれよと着せ替えられたのだ。
「マジか……」
この格好で人前に出るのも嫌だが、まずヒールをはき慣れていないため、これで移動するなんてありえない。
しかも、これで踊る、だと?
やっていられない。
ちなみにダンス歴が全くない私は、今日に向けて嫌々練習したのだ。マナーレッスンと共に。
ダンス練習では、身長差の関係でウォルターかリアムで練習をするとなったのだが、ウォルターとの練習は、足の踏みあっことなってしまったため、ほぼほぼリアムと練習したのだ。
「ふわー。ダメだ。吐きそう。」
「……大丈夫ですか?」
「ダメです。もう今日は、休んだ方のが良さそうです。」
「貴女は、いつも本当にダメなときは大丈夫と言うじゃないですか。それだけ話せるなら安心しました。」
ちっ。付き合いがあるとそこら辺を見抜かれてしまうな。
「仕方がない。諦めます。」
「諦めるのが早すぎますよ。」
「でも、どう頑張ったっていかなくちゃいけないのですよね?」
「まぁ、そうですね。」
「ならやっぱり仕方がないです。」
さくっと諦める私を見て話をしていた相手、アレンは呆れたような顔をする。
「では、会場に行きましょうか?」
その言葉と共に手をスッと差し出される。
その差し出された手を見て固まる。
もちろん、意味はわかる。エスコートだろ?
でも、今までそういった人生を歩んで来ていないので、恥ずかしいのだ。
どうしました?って顔でアレンが見てくる。
元の世界ではありえないことでも、こちらの世界では常識なら仕方がない。
郷に入っては郷に従え。
恥ずかしさを押さえながら、済ました顔でアレンの手を取るしかなかった。