二度目の夢 1
車を走らせてどれくらい経つだろう。
辺りはすっかり闇の中だった。
(寒・・・)
本当は海際の街道を走っているはずだが、それすらも今はわからないほどの闇に包まれている。
わかるのは、視界の片隅をぼんやりかすめていくガードレールの煤けた白だけ。
明るいうちは気づかなかったが、このあたり、街灯がないのだ。
時刻は夜の八時になろうとしている。
車のヘッドライトだけではいささか心許ないが、あいにく付近には、明かりの灯る店もさることながら、民家すらない。
無論、そんな場所じゃ人影もあるわけがない。
これだけ人通りがないのは、時間帯のせいなのか、それだけ田舎だからなのかはわからない。
だが、しばらく対向車とすらすれ違わないことは、心細いというよりは、少々気味が悪いものだった。
「ミケ、とっきー。起きてるか?」
気を紛らわせるべく、俺は後部座席に向かって声をかけてみた。
「・・・・」
が、案の定返事はない。
(だよな)
バックミラーごしに、後部座席の様子をちらと闇の中で確認して、俺はため息をついた。
(これだけ寒いのによく寝れんな・・・)
まぁ、これは予想の範疇の話。
昼間あれだけはしゃげば仕方のない気もする。
俺は闇の中で身震いすると、季節度外視で暖房を入れることにした。
(さみぃ)
今もなお、ハンドルを握る手は腕まで鳥肌がたっている。
俺の体感温度がおかしいのだろうか?
(違うっツーの)
真夏なのに、この車の中が寒すぎるのだ。
車中の外気温の表示を確認して俺は納得した。
16度。
寒いわけだ。
「なぁ、かんな、寒くねぇ?」
投げた声は、先程からずっと助手席で外を眺めているロングヘアーの女に向けたものだった。
「・・」
(んだよ、無視かよ)
舌打ちを飲み込んで俺は声を重ねた。
「かんな?」
相変わらず彼女は窓の外を眺めている。ちらりとも振り返らない。
(寝てんのか?)
と・・・・
「きょ、すけ」
彼女が、押し殺したような声で俺を呼んだ。