おにぎり村
おにぎり村にはたくさんのおにぎり人達が住んでいました。
体中を立派な海苔で巻いた裕福なおにぎり人もいれば、
体の一部にしか海苔を貼れないおにぎり人、
海苔などとても高くて買えないという素っ裸のおにぎり人もいました。
しかし、概しておにぎり村の人達は互いに協力しあいながら仲良く暮らしていたのでした。
めでたしめでたし。
しかし、
あるとき、おかかが丘に寝そべり、空を見上げていると、なんともいえない不安な気持ちになってきました。
そして、空の彼方から何か巨大な物体が迫ってきたのです。
迫りくるのを見つめていると、その形は徐々に明瞭になっていきました。
それは金色に輝くおよそ丸い物体でありました。
それには取っ手と口とがついていました。
それはまさしく、やかん、だったのです。
そして中には、熱い湯がはいっていたのです。
やかんから容赦なくおにぎり村に熱湯が注がれました。
おにぎりたちは熱湯に弱い。
たちまちおにぎり村のすべての住人はどろどろに溶けてしまいました。
しかし、今やおにぎり村の人々は一つの粥になったのです。
おにぎり人たちのそれぞれの意識は
今や一つの集合的に統一された意識となりました。
じつのところ、おにぎり村の人達はそれまではそれぞれのおにぎり族という共同体のなかのアイデンティティをもちながらも、自他の区別という概念に苦しんでいました。
しかし今や奇跡は起こり懊悩は去りました。
おにぎりであることから解放され、一の粥となった彼らは、かつていかなる種族も達しえなかった理想的境地へと跳躍したといえるのです。
めでたしめでたし。