三月二十三日【前】
「……じゃあ、行ってくる」
「うん、待ってるからね!」
HR終了後、小さな紙袋を手にみつるは立ち上がってそう言った。そんな彼女の空いた席に、いつもとは逆に自分の鞄を持った亜美が座って見送ってくれる。
そして、前に足を踏み出して――そこでみつるは、自分同様に席を立っていた友喜に声をかけた。
「し……友喜君! 部活ないなら亜美ちゃんと待ってて……今日、三人で帰ろう!」
「……えっ」
「みつる!?」
そんなみつるに、友喜と亜美がそれぞれ驚きの声を上げる。
「解った」
「ん、じゃあ、後で」
「ちょ……みつる? 友喜!?」
一番最初に動いてくれたのは、友喜だった。そしてみつるに頷き、平然と亜美のところへ歩いていく友喜と、状況についていけず困惑した声を上げる亜美を置いて教室を出ようとした。
「瀬尾の奴、どうしたんだ?」
「……あの子も、突っ走ってるのっ」
「そうか」
「そう!」
ある意味、当然な友喜の質問に亜美が答え、結論だけで意味不明な筈のそれに友喜が頷く声が聞こえる。
あの日のスポーツドリンクについては『見舞い』と言って渡されたとだけ聞いている。
だからよく解らないが、二人の間では通じているようなので――思わず頬が緩むのを感じながら、みつるは教室を後にした。
※
恋も、初めて知ったけれど。合わせて痛感したのは自分の性格を差し引いても、中学生のみつるに出来る事が限られている点だ。
みつるも、みつるの今の世界も、とても小さい。
……けれどそれは、みつるが『そこ』から動かないからで。
目を開けて、手を伸ばし。
前に進もうとしたらその分、世界は広がるのだとみつるは知った。
※
「失礼します」
職員室に入った瞬間、教師達の目が集中する。
だが築島の元へと向かった途端に、その視線は離れた。今日は、彼に会いに来る生徒達が多いからだろう。
(よ、良かった)
校舎外で待ち伏せる事も考えたが、転勤する築島のスケジュールが解らない為、すれ違う可能性が高い。それ故、HRを終えた足でみつるは職員室に来たのである。
「瀬尾さん……」
「築島先生、お世話になりました。今まで、ありがとうございました」
緊張や恥ずかしさのあまり吐きそうだったが、何とか言いたい事は言えた。
それから下げた頭を上げ、用意したプレゼントの入った紙袋を渡して、立ち去ろうとしたら――築島に、呼び止められた。




