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空貝 ~うつせ貝~  作者: 渡里あずま


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二月二十一日【前】

 バレンタインが終わったら、あとは期末テストと卒業式だ。そして期末テストも卒業式も、二年生だと対応というか気持ちに温度差がある。


(好きな先輩がいるとか、良い点取りたいとかあると盛り上がったりするんだろうけど)


 そうでなければ比較的、のんびりムードだ。

 それは今の授業――日本史の時間にも、表れていて。教科書に隠して文庫本や漫画を読んだり、あるいは他の教科を『自習』していたりいる。


(それでも、築島つきしま先生だからまだマシなんだろうな)


 そう思って、みつるは教科書越しに教壇に立っている教師へと目をやった。

 柔らかそうな髪と眼鏡。スーツのせいもあり(ジャージや白衣の教師もいるので)サラリーマンにも見える。

 これが若い女性の教師や定年間近の教師だと、もっとあからさまになるだろう。具体的に言えば、居眠りとか。

 夏のクーラーはないが、冬は暖房で温かい為(外が雪景色なので、暖房がないと風邪では済まない)教師(年配だったり、女性だったり)によっては、睡魔に逆らう事を初めから放棄するのだ。

 けれど、築島は若いが男性で。

 見た目だけではなく教え方も上手いので、男女問わず生徒から人気がある。


(バレンタインも、生徒からチョコレート貰ったらしいし)


 興味のないみつるの耳にも、そんな話が入ってくるくらいに。


(でも、あだ名がツッキーって……まんま過ぎ。まあ、シマーとかだとむしろ誰って感じだけど)


 ……この時までは、本当に全く築島に対して興味がなかった。

 だから向けた視線を外して黒板に目をやる事も、みつるには簡単に出来たのだ。



「ゴメンね、みつる!」

「ううん、また明日ね」


 両手を合わせての親友の謝罪に、みつるは笑って答えた。

 今日は、亜美とは一緒に帰れない。彼女が、合コンに行くからだ。

 とは言え、中学生だけだとカラオケも入れない場合がある。だから近所の大手スーパー地下にあるイートインスペース(アイスクリームショップとジューススタンドがある)で、同じく彼氏彼女の欲しい面々が集まるそうだ。


(逆に、一緒に合コン行こうって言われる方が困るしね)


 あっさりしたみつるに対して、亜美は尚も申し訳なさそうである。

 そんな彼女を手を振って見送り、さて、とみつるは鞄を持った。すると、背後から聞き覚えのある声に話しかけられる。


「瀬尾は、行かないのか?」

「と……清水君、こそ行かないの?」


 つい昔の呼び方をしそうになり、何とか踏み止まりながら振り返った。

 見上げた視線の先にいるのは、みつる同様帰ろうと鞄を手にしている友喜だった。陸上部な彼は、いつもなら冬でも校内を走っているが――今は、期末テストがあるので部活は休みになっているのだ。


「別に……オレは」

「そっか、バイバイ」

「……あっ……」


 そして友喜にそれだけ言うと、みつるはオーバーを着て教室を後にした。

 亜美が気になるくせに、意地を張る彼を正直、面倒臭いと思うし――背が伸びた上、部活で走り込んでシュッとした友喜は、築島ほどではないが人気がある。幼なじみとは言え、あまり長く話していて誤解されるのは勘弁だ。


(昔、からかわれて逆ギレしたくせに……同性の目は気になるけど、異性に対しては鈍いって言うか疎いんだよね)


 やれやれとため息をつきながら、みつるは廊下を歩いていく。

 テスト勉強は、改めて勉強しなくても赤点にはならないだろう。

 それ故、勉強ではなく何か文庫本でも借りようと思ったが、中学校の近くには区立図書館はあいにく改装工事中で、春になるまで利用出来ない。

 だからと、学校の図書室に向かおうとしたところ――。


「……ん?」


 階段近く、視界の隅に入った物にふと意識が引っ掛かった。

 それから足を止め、みつるは廊下に落ちていた物を手に取る。


「マスコット……?」


 疑問形になったのは、みつるが知っているような有名キャラクターではない――だけでなく。

 フェルトで作られた掌サイズの女の子が、何故か日本の鎧姿だったからだ。

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