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私、出会ってしまいました

 2年2組と書かれたプレートが掲げられた教室の前で山内先生は立ち止まると、私は廊下で待つように指示された。

 ドア越しに聞こえるガヤガヤとした喧騒は私の心の不安を駆り立てる。

 別に友達を作ろうなどとは思わない。たった1ヶ月でいなくなることは決まっていることだし、それ以上に私には人とフレンドリーに接することができる能力は皆無だ。

 

 山内先生は生徒達を静かにさせるとコホンと一回咳払いをしてこちらに手招きをする。

 私は突き刺さる視線を防御するかのように俯き加減で教室へと入った。

 

「えー今日からこのクラスに転校してくることになった木南セリナさんだ。彼女は外国から来たとのことで、まだ慣れないところも多いと思う。みんな色々教えてあげてくれ」


 そ、そんな紹介されては否が応でも注目が集まってしまう。

 山内先生やめてくれ!

 私の感情とは裏腹に先生は笑顔で手を前に出すと自己紹介を促した。


「こぉ! 木南セリナです。よ、よろしくお願いします……」


 緊張して案の定というべきだろうか、初っ端から声が裏返ってしまった。

 生徒達はクスクスと笑いながらこちらを見ている。

 人の失敗を笑うというのは過去、未来関係なく人類が積み重ねていった歴史なのだろう。

 私は顔を上げることができず、佇んでいると教室に1人の男子が汗だくになりながら入ってきた。

 みんなの注目は一瞬にしてそちらに集まる。


「すいません。ちょっと刈ってたら遅くなっちゃって」

 

 その生徒は肩で呼吸をしながら、自分の席に向かって歩き出す。

 茶色く淀んだ髪色の短髪。目鼻立ちは整っていて眼光は鋭い。

 彼が歩くたびに耳につけられた銀色のピアスが揺れた。

 その姿に私の危機管理センサーは一瞬にして反応を示す。

 これは噂に聞くヤンキーというやつではないだろうか。


 未来の学校でも問題児はいるがここまであからさまな格好で主張するものはいない。

 まあ時代の流れもあるから当然といえば当然かもしれないが。

 きっと先ほどの狩っていたというのも他校の生徒をシメていたに違いない。

 こいつは危険人物だ。絶対に近づかないようにしよう。

 私は一瞬にしてそう心に誓うと山内先生に指示された一番奥の窓際の席に移動する。

 なんといい席に当たることができたのだろう。


 ここならば目立たず、ひっそりと学校生活を送れそうである。

 と感極まっていたが横の席には先ほどのヤンキーがいた。

 天から地に堕ちるとはまさにこのことだ。

 私は着席すると机に伏せ、時が流れるのを待った。



 昼放課になると私に興味を持った女子生徒が話しかけて来た。


「木南さんってどこの国から来たの?」


「え!? えっーと日本じゃなかった、ニカラグア共和国みたいなとこ」


「へー、全然聞いたことな国だね。どんなとこなの?」


「えーっと、未来的なところかな……」


 慣れない愛想笑いを浮かべて意味不明な返事をする私。

 彼女は手を顎に当て小首を傾げると、


「へー便利そうなところなんだね」


「そ、そう便利な国なんだ。あはは。ちょっとトイレ行って来るね」


 私は彼女との会話に無理矢理区切りをつけると教室を出た。

 まったく帰国子女とかいう設定のために無駄な冷え汗を掻いてしまった。

 もちろん私が未来人であるということは知られてはいけない。

 まあ多少バレたところで最終的にはみんなの記憶から私と出会ったことは消えてしまうらしいので、知られたところで何かあるということは特にはない。


 しかし予想よりこれからの学校生活はめんどくさそうだ。

 これから先ここで生き抜いていくには誰も来ることのない安息のマイベストプレイスが必要になる。

 そう思った私は靴を履き、外に出ると校舎裏に向かった。


 照りつける日差しは眩しく、学校の裏山からはもうすぐ蝉の鳴き声も聞こえて来そうだ。

 この時代の夏というのはすごく暑いと聞いている。

 私の来た未来都市では天候、気候を管理するシステムができているので夏といってもそこまで暑くはならない。

 グロッキー気味に日陰を求めて校舎の壁にもたれかかると心地いい風が体を撫で、少し火照った体を冷やしていく。

 

 人も全然来そうにないし、いいところを発見した。

 昼はここで独りで過ごそう。

 そう決断すると何気なく周りを一瞥する。


 すると物置なのだろうか、そこそこ大きい倉庫を発見した。

 あそこならもっと快適に過ごせるかもしれない。

 そう思いながら近づくと引き戸の扉は開けっぱなしになっていた。


 少し悪いかなと感じながらも倉庫に入ると内部の強烈な臭いに気持ち悪くなり、気を失いそうになる。

 ここはまずい、というか死ぬ。

 慌てて外に出ようとすると扉の前に真っ赤なつなぎを着たヤンキーが立っていた。

 彼は私を見つけると駆け足で近寄って来て、気分が悪くなり、倒れそうな私の肩を抱く。

 

「お前、今日来た転校生の。大丈夫か?」


「ぐうぇ……。ご、ごめんなさい。お願いだからカツアゲ、暴行、強姦、その他諸々しないでぐださい」


 嗚咽しながら私は許しを乞うと彼は笑いながら私の足を抱え、お姫様抱っこで倉庫の外に運んでくれた。


「まったく人を見かけで判断しないでもらいたいな。俺は至って普通で真面目な生徒だ。なんでお前こんなところにいたんだ?」


「マイベストプレイスを探しに……。うぇぇ」


「なんだそれ? とりあえず深呼吸しろ。あとこれ口つけてないから飲め」


 彼は私の背中を優しく摩ると真新しいスポーツドリンクを手渡してくれた。

 しばらくして気持ち悪さが落ち着くと彼は優しく微笑みかけ、しゃがみ込む私の横に座った。


「俺は坂巻緑(さかまきみどり)。同じクラスなんだしこれからよろしくな」


「ど、どうも。私は木南セリナです。その色々とありがとう」


「いいって。あの倉庫肥料がたくさん入ってるから臭い強烈なんだよな」


「肥料? なにそれ食べれるの?」


「野菜を育てるための栄養分だ。それくらい知ってるだろ?」


「も、もちろん! バカにしないでいただきたい」


 肥料のことなどまったく知らないが、無駄にプライドの高い私は知ったかぶりをするとプイッとそっぽを向いた。

 そんな私を見て緑はカラカラと笑う。


「お前なんか面白いやつだな」


 確かに私はいろんな人から面白い子やら変わった子と言われる。

 だがこんな見た目ヤンキーに言われるのはなんだか癪に障る。


「じゃ、じゃあ私はこのへんで」


 そう言って立ち上がるとタイミングよくお腹の虫がグゥーと鳴き声をあげた。

 そういえば朝はギリギリで何も食べていなかったし、昼ごはんも持ってきていなかった。


「お腹空いてんのか? じゃあこっち来いよ」


 緑はそう言って、顔を赤らめ恥ずかしがる私の手を握ると校舎裏の奥に連れ出す。

 少し歩くと一面に広がる野菜畑が姿を現した。

 茶色い土と葉っぱの緑、真上に広がる青空が綺麗なコントラストを生み出しており、この光景を見たことはないのになぜだか懐かしい気持ちになった。

 緑は畑から緑色の野菜と赤色の野菜を持ってくると水で洗い私に手渡した。


「これは?」


「ん? キュウリとトマトだ。それ以外の何物でもないぞ」


 私は初めて目にするキュウリとトマトに戸惑いを覚えるも意を決してかぶりついた。

 調味料があるわけでもないのに、素材の旨みが直に伝わってきて残さず全て食べてしまった。


「予想以上に美味しかったです……」


「そんだけ美味しそうに食べてくれると嬉しいぜ」


「これは緑が育ててるの?」


「ああ、俺はこの学校で唯一の園芸部員だからな。ちなみに家は庭師だ。そうだ園芸部一緒に入らないか? ホースで水浴びもできるし、野菜も食べれるぞ」


 野菜を食べれるのは魅力的かもしれない。

 ただ私は1ヶ月しかこの学校に通わないのに入って意味があるのだろうか。──いや、ないだろう。

 

「ごめん私──」


 断ろうとそう言いかけた時、緑はホースで水をかけてきた。

 子供のように無邪気に笑う彼に私は腹をたてると、彼からホースを奪い10倍返しの勢いで水をかける。

 それからお互いビショビショになった時にはなぜだか楽しくなってきて、服のことなど気にもしなくなっていた。

 

「セリナ、も、もう勘弁してくれ」


「嫌だ! くたばるまで許さない」


 そうこうしているうちにすでに昼休みは終わっており、緑からタオルとジャージを借りると更衣室で着替え、急いで教室へと戻った。

 2人して息巻いて教室に入ると英語の担当教諭に遅刻理由を聞かれる。

 

「木南さんに俺が水をかけてしまって遅れてしまいました。なんで俺が全部悪いんで説教あったら俺だけで受けます」


「まったく緑は。人に迷惑をかけるんじゃない。お前後で職員室な」


「へーい」


 私たちはそれぞれの席に着席すると教科書を広げた。

 私は彼を横目に小声で、


「あの、ありがとう」


「まあ俺がやったことだしな。でも楽しかったな」


「──うん」


 小さく頷く私に彼は屈託ない笑顔を返した。


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