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私、過去に行きます

 真っ青な空から絶え間なく降り注ぐ光線銃のような太陽の光。

 熱を帯び、火照った手のひらで私は彼の手を握った。

 ──すべてを打ち明けよう。そして好きって伝えよう。

 そう心に決め、自分を鼓舞するように胸に手を当てるとギュッと強く服を握りしめた。


「あの私、実は──」

 

 喧騒を奏でるセミの鳴き声と青々とした葉が生い茂る桜の木の下の出来事だった。



 ☆


 ここは遠い未来の地球。

 化学水位の発達により、自然を犠牲にしてあらゆることが可能となった世界。

 

 ──L2D1起動します。

 無機質な機械の声と共に球型の大きな乗り物が起動音をあげる。

 私はこれから過去に向かう。

 なぜ過去に行くかと言うと学校の教育プログラムに含まれているからだ。


 昔の学校に1ヶ月間通ってどんなことを感じたのかレポートにまとめると言うめんどくさい課題である。

 もっとも表向きはこう行った理由だが本当のところは別の理由があるらしい。


 生徒の引率の教師を除いて人生のうちタイムマシーンを使えるのは1人1回までと決められている。

 これはタイムマシーンの悪用を禁止する政府が決めたもので、みんな平等に体験したんだからからもう使わせないよ。という屁理屈的な理由も含まれており、悪知恵の働きにくく、且つ1人で行動もできる高校生の時に体験させるのが通例となっているのだ。

 まあやや引きこもり気味の私にとっては家で過ごすのが一番の至福の時なのに外は無論、過去になど行きたくもない。


「えーっと木南(こなみ)セリナさん。もうすぐ過去に出発するのでシートベルト閉めててね」


「はぁーい」


 やる気なく返事する私に研究所の人は苦笑いを浮かべた。

 今現在の学校でも絶賛ボッチ確定中の身としては過去に行こうが、未来に行こうが友達などできるわけもない。


 私はこれから先訪れるであろう憂鬱な日々のことを考え、深いため息をつくとシートベルトをロックした。

 轟々と唸るようにタイムマシーンが動き出すと引率の南先生がこちらをチラリと見る。


 しかし引率と言っても滞在期間は1日だけでその後すぐに帰ってしまう。

 それなら私も1日だけ、と抗議したが笑いながら頭を叩かれて流された。


 再び私が深いため息をつくと同時にタイムマシーンは加速路に入り、時間移動を開始する。

 科学的なことは私にはわからないが圧力がかからない工夫がなされているらしく、感覚的に特に変化はない。


 私は目を閉じて寝たふりをしていると南先生に体を揺すられ起こされた。

 どうやらついたらしい。


「嫌かもしんないけどセリナさん単位ヤバイんだからちゃんと頑張りなさい」 


「うっ……うっ……」


 タイムマシーンから出るとそこは人気のない廃工場だった。

 鉄臭い扉を開けると初夏の日差しが眩しく、未来の春からやって来た私はグダっとうなだれる。

 そんな私に南先生は一枚の紙を渡すと頭をくしゃくしゃと撫でた。


「ここに注意事項があるからちゃんと読んでおくこと。じゃ宿舎に移動するから着いてきて」


 衣類などが入ったキャリーケースを引きずりながら街に出ると小綺麗なマンションの前で南先生が立ち止まる。

 ここが私が1ヶ月過ごす監獄、もとい宿舎だ。

 3階の一室に入ると1体のメイドロボットが出迎えた。


「このロボットがこれからあなたの面倒を見るからちゃんと生活しておくのよ」


「えーっ面倒ってかただの監視じゃないですか。娯楽もなさそうですし」

 

 私はここに来る前にホログラムユーザーインタフェース『サテライト』を没収された。

 この時代でいうスマホみたいな物で、未来の生活では触らない日はないというほどかけがえの無い物だ。

 こんな状況に文句を垂れる私に南先生は呆れた様子で肩を竦めて、四角の薄いモニターを指さした。


「これテレビって言って情報とかいろいろ映るからこれで我慢しなさい。もっとも授業の一環だということは忘れないように。あと連絡用にスマートフォンフォンも渡しておくわ」


「はーいっ。じゃあ先生、私は明日に備えて寝ますので」 

 

「セリナさん……まだお昼なんだけど」


「明日からハードな学校生活が始まるんです。今からエネルギーを貯めておかないと」


「はぁ……。まあ今日は自由だから干渉しませんが明日はちゃんと起きて学校に行ってくださいね。ではまた明日迎えに来ます」


 念を押すように南先生は私の肩を叩くと部屋から出ていった。

 無表情なメイドロボットと二人っきりになるとリビングを抜け寝室へと向かう。

 そのままベッドにダイブすると見慣れない天井を一瞥して瞳を閉じた。

 

 こうゆう時は寝るに限る。

 起きたらもう最終日だったみたいなことはないだろうか。もしくはベタな夢オチでした。とかでも構わない。

 そんなどうしようもないことを考えながら私はいつの間にか眠りについていた。


 

 惰眠を貪った私は目を覚ますと、寝起き特有のダルい体を動かしてカーテンを開けた。

 外はすっかり日が沈み、窓から見える街灯がポツリと儚げに道路を照らしている。

 先生からもらったスマホを確認すると時刻は21時だった。

 どうやら健康的に8時間も寝ていたらしい。

 

 寝室から出るとメイドロボットが作った料理がダイニングテーブルの上に並べられたいた。

 固形の栄養食がメインの未来にとっては色とりどりの食べ物は珍しい。


「これ食べていいの?」


「はい。木南さんのために作った夕食になります」


「ほぉー。これはパスタというやつかな?」


「そうです。この時代にはいろいろな食べ物があります。どれも栄養を取るには非効率的ですが、昔は食べることを楽しむという文化があったんですよ」


「ふーん。この凶器みたいなやつで食べるのか……。おー栄養食には及ばないけど美味しい」


 テレビを横目に晩ごはんを食べ終えると洗濯機や歯ブラシなど未来には無いものをメイドロボットから説明を受け、お風呂に入る。

 原始的な物をたくさん見て物珍しさとは裏腹に私は思った。

 この時代の人は大変だったんだな、あー早く帰りたい、と。

 風呂から上がるとまたすぐベッドの上で横になった。


 先程と同様に目を閉じてみるもなかなか寝付けない。

 流石に8時間も寝てしまってはもう今日は夜ふかし確定だ。


 暇な私は豆電球の薄灯りの中、スマホでネットサーフィンをした。

 こうして夜を明かし、太陽が顔を出した時には強烈な睡魔に襲われた。

 しかし寝ることは許されず、南先生は虚ろな目の私を迎えに来ると制服に着替えさせ学校へと引っ張っていった。


「まったく、変な時間に寝るからそうなるのよ」


「昔の偉い人は寝たい時に寝て、起きたい時に起きるのが人間らしい生き方だと言ってました」


「セリナさんは人間ではなくナマケモノだからそこには当てはまらないわね」


「ふぐっ……。そういえば先生。この茶色と緑の大きなものが植物ってやつですか?」


「そうよ、多分イチョウの木かな? 私もあんまり見たことないから知らないけどね」


 先生は誤魔化すように笑って答えると後ろ頭を掻いた。

 私の暮らす都市には木や植物はない。

 酸素は人工的に作られ、発電量を増やすため、様々な発電機を設置するのに邪魔だということで植物は処分されていった。

 しかし全くないわけではなく、地方にはそれなりにあるらしい。

 だが最近では地方でも都市化が進み、植物は無用の長物になっているとニュースで見たことがある。

 もっとも外に出ない私にとっては無縁の何物でもないわけだが。


 学校に到着すると南先生は母親という設定で私の担任となる教師に引き渡した。

 どうやって転校手続きとかしたのかは知らないが、担任の教師は違和感なく出迎えてくれた。

 

「じゃあセリナさん。ちゃんと頑張るのよ」


「はぁーいっ」


 間延びした返事に苦笑いする南先生は踵を返すとそのまま学校を出ていった。

 着慣れない制服に違和感を感じながら教室へと案内される。


 途中窓から見える真っ青な空がまだ眠たげな私に早く起きろと言っているかのようだった。

 担任の教師はこちらに振り返るとにこやかに微笑んで自己紹介をする。


「担任の山内です。外国から引っ越して来たと聞いてるから、不安もあると思うけど分からないことがあったら聞いてくださいね」


 どうやら私は帰国子女という設定らしい。

 帰国子女どころか私は引きこもり気味なのですがそれはいかがなものでしょうか南先生。

 私は小さく首肯すると再び歩き出した山内先生の後を追った。

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