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異世界転生は夢の中で  作者: 実乃里
第一章 夢世界は危険地帯
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思わぬ助け。そして出会い

 私の怪我のことは教室で話題になっていた。それというのも、北方裕子が私の腕に傷ができる瞬間を目撃していたからだ。


「本当よ、私この目で見たんだから。黒江のやつ気持ちよさそうに寝てるな、って思ってたら、急に腕から血が滲み出てきたのよ」

「シャープペンの先で引っかいたって聞いたわよ?」

「そんなわけない。傷ができるのもはっきり見たし。まるで刃物で切ったみたいにキレイな傷だったわ」

「そういえば昔のホラー映画にそんなのなかったっけ? 爪をはやした殺人鬼に夢の中で襲われるやつ」

「知らないけど、そんなのがあるんだ。とにかく、黒江のやつ呪われたかもね。最近ようすも変だったし……」


 そんな内緒話しを聞いてしまった。

 精神的に限界だった私は、体調不良を理由に、その日学校を早退した。

 家に帰ると疲労はピークに達し、どんよりとした眠気が沸いてきた。

 現在、夢世界の私は窮地に立たされている。かつてないほど眠るのが怖い。とはいえ、永遠に眠らずにすごすのは不可能だ。遅かれ早かれ夢世界には戻ることになる。

 前回は逃げながら転んだところで中断された。再開したらすぐに起き上がり、全速力で走るのだ。抵抗してしまった以上、今度捕まったらなにをされるかわからない。

 やるべき行動をイメージしたのち、覚悟を決めてベッドで目を瞑った。

 白い光の中に落ちて行く感覚のあと、頬に草の感触を覚える。夢世界に戻ってきたようだ。

 体を起こすべく手に力を入れたとき、ビリビリと漏電のような音と共に、背後に迫っていた足音が消える。

 振り向くと、追ってきた男の中の二人が地面に倒れている光景が見えた。


「その子から離れろ。この薄汚い盗賊共め!」


 力強い声が辺りに響き渡り、残りの男たちと私は声の方に視線を送る。

 こちらを見下ろす小丘の上には、三人の人影が確認できた。

 杖を構えたフードの女性と、同じく杖を持った白い服の女性、そして剣の柄に手をかけた鎧姿の男性。

 魔術師。ヒーラー。戦士。冒険者が有するクラスだ。さすがにこれくらいのことは覚えた、


「もう一度言うぞ。その子から離れろ。この薄汚い盗賊共め!」


 三人のリーダーなのだろうか、鎧の男性が声を上げる。男性とは言っても、まだ幼さが残る顔立ちから、私とそう歳は変わらなさそうだ。

 不意に魔術師が持つ杖が光り、男たちの一人が電流に撃たれて倒れる。さっきのビリビリはこれのようだ。


「ほらほら、言うこと聞いといた方がいいわよ。それとも全員同じ目に遭いたいわけ」


 魔術師は杖を構えながら挑発的な警告を発する。

 残った男たちは、「ほざけガキ共が!」と声高らかに三人に向かって行くも、剣士の剣技と、魔術師の魔法の前にあっさり打ちのめされてしまった。


「大丈夫でしょうか」


 ヒーラーが私のところに走ってきた。


「あら大変。じっとしていてください。今治療して差し上げます」


 彼女は私が傷を負っていることに気づくや、杖を掲げ、なにごとか呪文を唱え始めた。

 すると左腕を蝕んでいた痛みが和らいでゆき、やがて完全に消える。血を拭ってみると、傷は完全に塞がっており、傷痕すら残っていなかった。


「これが回復魔法なのね。すごいわ……」

「全ては癒しの女神ノルティスの(ファーマ)が成す奇跡です。私は彼女に祈りを捧げたにすぎません」


 そう言って彼女は自身の杖を胸に抱く。


「そっちは大丈夫か」

「あいつらは木に縛りつけといたから、ラバマについたら衛兵に通報しましょう」


 剣士と魔術師もこちらにきた。


「ありがとうございます。助かりました」


 地面にヘタリ込んだまま、私は三人に深々と頭を下げる。


「例には及ばないさ。当然のことをしたまでだ」


 剣士は照れたように鼻を擦る。


「助けを呼ぶ声が聞こえたからきてみれば。女の子が男集団に襲われている。放っておけと言う方が無理ってものね。……見たところ、あなたも冒険者よね。依頼かなにか?」


 魔術師は子供を相手にするように、しゃがんで目線の高さを私に合わせる。

 私は簡単に経緯を説明した。


「あの人たちは強盗だけでなく、人身売買にも関与していたのですか。許せません。アトラさん。いっそ今あの人らを火炙りにするのはどうですか。汚物は消毒するに限ります」

「ノルルはたまに過激なこと言うよね。ダメよ、殺人はしないのが私たちのポリシーよ。ねえ、そうでしょ、ラデル」

「そのとおり、どんな悪いやつでも、命だけは奪わないのが俺たちのやり方だ」


 そう言って剣士は自分の胸を叩く。

 剣士がラデル、魔術師がアトラ、そしてヒーラーがノルル。覚えた三人の名前を頭の中で復唱する。

 どうも三人はラバマに行く途中らしく、私は彼らに同行して帰ることになった。

 逃げるときに捨てた籠に火炎木の実を拾いなおし、三人と一緒にラバマへと戻る。

 入口の衛兵に事情を告げると、すぐさま盗賊たちを逮捕すべく衛兵たちが走った。どうもあの盗賊たちには懸賞金がかけられていたらしく、ラデルたちは思わぬ収入に機嫌をよくしているようだった。


「俺たちはしばらくこの街を中心に活動する。もしかしたら依頼で一緒になるかもな」

「縁があったらまた会いましょう」

「それではお元気で。ファーマと共にあらんことを……」


 彼らと別れ、私は依頼人とギルドへの終了報告を終えるのだった。


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