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異世界転生は夢の中で  作者: 実乃里
第四章 過去との決着
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黒騎士団再び

 目の前で白河桐花が泣いている。

 理由は知っている。誰かに私物を隠されたからだ。やったのはクラスの悪びれた女子グループで、彼女らにそうさせたのは……私だ。

 涙を流す白河桐花に、当時私はどんな言葉をかけただろうか? 確か、「そんなだからみんなに舐められるのよ」だった気がした。もしかすると違ったかもしれない。もっと酷い言葉だったかもしれない。そもそも言葉をかけただろうか? 二年も前のことで記憶が曖昧だ。

 ただ、隠された私物の中には定期券も入っており、トボトボと歩いて帰る彼女を遠くから笑って眺めていたことははっきりと覚えている。

 ……その他にも、彼女にした酷い行為は多岐に及んでいる。いくら後悔すれど、今となっては消せない過去だ……。

 体に揺れを感じ、私は静かに瞼を開く。


「今起こすところだった。もう少しで着くぞ」


 馬車に座るラデルが、鎧の調整をしながら緊張した声を出す。

 緊張しているのはアトラもノルルも同じだ。二人共口数少なく、杖を抱いている。

 私たちはある村を目指している。ラバマ地方の外れにある農村だ。黒騎士団がこの村を襲ったとの情報を入手したのは昨日のことだ。私たちはすぐに現地に向かった。

 もしかしたら、やつらに繋がるなんらかの手がかりが掴めるかもしれない。現状では僅かな可能性にでも手を伸ばすしかないのだ。

 村へはそれから五分ほどで到着した。建物はほとんど倒壊し、まさに壊滅と言って差し支えない状態だ。現場には衛兵隊の姿があり、彼らは淡々と事後処理に当たっている。


「なんだ、お前らは? ここは立ち入り禁止だ」


 衛兵の一人が私たちに気づき、槍を構えて警告してくる。

 ラデルが事情を説明すると、彼は溜息と共に槍を下げた。


「物好きな冒険者だ……。村を調べたいなら好きにしろ。ただし我々の邪魔だけはするなよ」


 許可をもらったところで、私たちは調査を開始する。

 村は十三世帯ほどの小村で、全ての建物が壊されるか燃やされるかしており、酷いありさまだ。衛兵たちが回収したのだろう、外れには布をかけられた遺体がいくつも並べられ、痛ましさに目頭が熱くなってくる。


「俺は村の南側を調べるから、アトラは北側、ノルルは東側、クロエは西側を頼む」


 ラデルの指示により、私たちは村の中に散らばった。

 注意深く地面を観察し、やつらの痕跡を探す。

 地面にはいくつもの足跡がある。大きいのが大人で、小さいのが子供、そして一際大きなのが黒騎士のものだろう。

 足跡を辿ると、途中に草が倒れている部分があり、辺りには血痕が見られる。森に逃げようとして、ここで追いつかれた人がいたのだろう。

 辺りをチェックするも、手がかりになりそうなものはない。私たちが探しているのは、やつらが残していった所持品だ。

 この世界には『トレース』という魔法があるようで、これを使えば物に宿った人の思念を垣間見ることができるそうだ。上手くいけば黒騎士たちのことがわかるだろう。ただし思念が物に宿るには、持ち主の相当強い思い入れが必要とのこと。ラデルたちは黒騎士たちが使用した矢を回収し、なんどかトレースを試みたそうだけど、結果は全て空振りだったらしい。使い捨ての矢では、思念が宿るに至らないのだ。

 理想的なのは剣や槍といった、当人が直に振るう武器、身に着けている鎧の破片でもあれば御の字だ。

ただ、そう都合よくやつらの遺留品に巡り合うわけもない。なんの成果も得られないまま時間だけがすぎ、さすがにげんなりしたものが沸いてくる。

 私の耳が物音を捉えたのはそんなときだった。

 確かに聞こえている。倒壊した家屋の下、ドンドンと硬いものを叩く音がしているのだ。

 積み重なった瓦礫の隙間に潜って確認すると、音は床の下から響いている。地下室があるのだ。

 私が大声で生き残りがいることを周囲に告げると、ラデルたちと、付近にいる衛兵たちが急いで駆けつけてく。

 全員で瓦礫を除去し、地下室の蓋を開くと、中から少女が一人這い出てきた。齢は十四か十五ほどで、不安そうな面持ちで私たちに視線をくべる。


「君一人だけかい?」


 衛兵の隊長が彼女に語りかける。彼女は、「はい」と小さく不安そうに声を発する。


「名前は?」

「ナタリー」

「いい名前だな。……さあナタリー、もう大丈夫だぞ。辛いかもしれないが、昨晩のことを話してくれないか」


 隊長に促され、ナタリーは昨晩起きた黒騎士の襲撃の一部始終を語り始めた。

 要約すると、昨晩村に黒騎士たちが襲撃してきた。家々を破壊し、人々を殺めるなどの暴虐の限りを尽くしたのち、何処かへ消え去った。今までと同じ襲撃パターンだ。


「ありがとう、家族のことは気の毒だった。両親の特徴を教えてくれないか。せめて弔わせてあげよう」

「いえ、私に両親はいません。姉と二人暮らしでした」

「そっ、そうか。ではお姉さんの特徴を……」

「姉の遺体はここにはないはずです。やつらに連れ去られたんですから」


 全員が言葉を失うにじゅうぶんだった。

 ラデルの方を見ると、彼は両眼を閉じ、唇を噛んでいた。同じようにやつらに攫われた妹を思い出しているのだろう。


「王国内でテロリストが活動しているというのに、なぜ王国政府は軍を派遣してこないのでしょう。もしかして、ラバマ地方が辺境だから放置されているのでしょうか」


 珍しくノルルが不満を口にする。


「そんなことはない。実際、王国軍の軍団長が数人、黒騎士団討伐に名乗りを上げているのは事実だ」


 隊長は腕を組み、難しい顔をする。


「問題は黒騎士共の動きが予想できないことだ。やつらの襲撃が不規則すぎて、軍隊単位での迎撃ができないんだ。ガードしようにも、広範囲に小村が乱立しすぎているせいでカバーし切れない」

「せめてやつらの拠点が判明すれば」と、隊長は悔しそうに眉を寄せる。

「黒騎士共は臆病なのさ。やっていることは、ただの弱い者イジメだ。王国と真っ向から勝負する勇気なんかないんだろうな」


 黒騎士たちに歯痒い思いを抱いているのは皆同じのようだ。

 その後、調査を再開するも、目ぼしい手がかりは得られず、私たちはラバマの街に帰ることにした。

 帰る際、ナタリーを馬車に同乗させることになった。各地にある教会では、難民や孤児の受け入れを行っており、村を失った彼女は、一時的にラバマの教会に身を寄せるのだ。

 馬車の中、ナタリーは物憂げな瞳で、手の中にあるブローチを見つめている。立派なブローチだ。表面には幾何学模様のような細工が施され、まるで魔法アイテムを思わせる。

 ……私はアトラに目配せする。彼女もブローチに気づき、不審そうに眼を細める。


「素敵なブローチね。どこで手に入れたの?」

「えっ! えーと、いっ、以前村を訪れた行商人からです」


 私に声をかけられた彼女は、サッとブローチをポケットにしまう。そしてシュンと泣きそうな顔をする。

 どうやらなにか隠していることがありそうだ。


「囮作戦というのはどうでしょう?」


 ノルルが脈略なく声を上げ、私はナタリーから視線を外す。


「ほら、黒騎士団の本拠地を割り出す手段ですよ。やつらが人を誘拐しているのなら、私たちのうち誰かがわざと捕まり、やつらの本拠地の場所を特定するんです。隊長さんも言っていたじゃないですか、場所さえわかれば王国軍による討伐が可能だと」


 思い切った作戦だ。確かに上手く行けばよい結果が得られそうだけど、クリアするべき難題が多々ある。


「面白いアイデアだわ。問題はどうやってあいつらに捕まるかね。適当にどこかの村に滞在し、やつらが襲撃してくるのを待つつもり?」


 私の言いたいことはアトラが代弁してくれた。結局やつらに接触する術がないのだ。


「それをみなさんで考えようと声を上げました」

「やろう。俺はその案に乗る」


 ラデルが賛成したことで、無条件でアトラも賛成する。当然私も賛成だ。やつらは一刻も早くなんとかしなければならない。


「あっ、あのっ! それでしたら私、みなさんを手伝えるかもしれないのですが」

 

 隅で丸くなっていたナタリーが、鬼気迫る顔で手を上げた。

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