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異世界転生は夢の中で  作者: 実乃里
第一章 夢世界は危険地帯
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初依頼の行方は……

「あら素晴らしい。やはり私のセンスは正しかったようです。とてもよく似合っています」


 着替えを終えた私を見るや、リサさんは上機嫌に頬を緩ませる。

 そんなに似合っているだろうか、私は脇にある姿見を確認した。

 鎧は革製のようで、予想より遥かに軽い。色も可愛らしいピンクをしており、ところどころにある装飾も悪くないデザインだ。下は茶色のミニスカートと、膝まである長めのブーツ。

 鏡を眺めているうち、けっこう悪くないかもと思えてきた。

 どうせ夢の中だ。ここにいる間、コスプレを楽しむのもいいかもしれない。


「ありがとうございます。気に入りました」

「よかったわ。はい、これが剣よ」


 手渡された剣はズシリと重く、危うく落としそうになった。

 鞘から抜くと、鋭く光る刃が現れる。刃渡りは五十センチくらいだろうか、けして軽くはないけれど、私の腕力でも振り回せないこともない。

 剣を鞘に戻し、腰に装着して、晴れて剣士黒江の誕生だ。


「ではギルドについて説明を行いますので、しっかり聞いてくださいね」


 そしてリサさんはギルドについて話し始める。かなり長い話しだったものの、彼女の真剣さに押され、私も真面目に聞いた。

 要約するとこうだ。『ギルド』は愛称で、正式名称は『ヴィジランテ・シルト』という団体らしく、王国全土に支部があるそうだ。ちなみにここがラバマ支部。

 団体には冒険者という人たちが登録されており、彼らが中心的役割を果たす。まず困ったことに直面した庶民はギルドに出向き、依頼と支払う報酬を提示する。ギルドはそれらを冒険者たちに提示し、彼らに受注してもらう。そして冒険者が依頼を達成したなら、報酬を支払うというわけだ。いわば庶民と冒険者との仲介屋だ。

 設立されたのは百年前だ。当時は王国で内戦が相次いでいて、兵士は戦争で忙しかった。当然庶民のことは二の次で、例え、ある村が魔物や山賊の被害を受けていたとしても、動く暇などない。庶民は仕方なく傭兵を雇うなどして対処したけれど、そう傭兵が都合よく現れるわけもない。そこに目をつけたのが、当時大規模な馬車屋を営んでいた男だ。彼は各村々にいる部下を利用し、庶民の依頼を傭兵に伝える事業を始めた。傭兵たちも自分で仕事を探すより、彼を頼る方が効率的であると知り、男の元には連日依頼を求め、たくさんの傭兵が訪れるようになった。

 これが年月と共に制度が変わり、現在の形に落ち着いたのだそうだ。国家に頼らない、庶民による自主救済システム。王国全土に張り巡らされた、お助け人ネットワーク。それがギルドであり冒険者なのだ。

 魔物、山賊、傭兵、王国。そんなものをすんなり受け入れ初めている自分に少し引きつつ、私は部屋を出る。


「待ってたぜ、新人。なかなか可愛いじゃんか」

「よく似合ってるわよ。まさに美少女剣士ね」


 ロビーに戻ると、カイとゲルダが待っていた。


「どっ、どうも。おかげさまで」


 褒められて気分が悪いわけもなく、私は照れながら頬を掻く。


「俺とゲルダはこれから昼飯なんだが、よかったら君も一緒にどうだ?」

「あら、いいわね。三人でワイワイするのも楽しそう」


 カイの提案にゲルダも賛成する。

 少し迷ったものの、私も小腹が空いていたので、二人につき合うことにした。

 ギルドの二階には食堂が設営されており、私たちはそのテーブルにつく。

 この世界に写真は存在していないのか、メニュー表には料理の名前だけが羅列されていた。文字は読めるも、こちらの食文化に疎いため、どんな料理なのかはさっぱりだ。

 二人の助言を頼りに無難な焼き魚を頼み、その不思議な味と食感を楽しむ。

 食べたなら当然支払いが待っている。私の荷物の中にあった巾着袋、あれに入っていたコインがこの世界の通貨で、『ラロッド』という単位のようだった。

 現在私の所持金が四十三ラロッド。いまいち金額的にピンとこないも、昼食の焼き魚が四ラロッドだったことと、以前食堂で食べた魚料理が四百円ほどだったことを考慮するに、一ラロッドが百円と考えることにした。つまり日本円で例えると、今私の全財産は四千三百円ということだ。月のお小遣いの半分以下ときたものだ。貧乏にもほどがある。


「そんなときは仕事だ、仕事。ギルドの依頼を熟せば金なんかすぐに貯まるってもんよ」


 カイの出した解決策はシンプルかつ妥当だった。

 この世界でお小遣いが期待できない以上、それしか方法はなさそうだ。


「なら早速依頼を受注しましょ。クロエに取っては初クエストね」


 ゲルダまでそう言うなら、いっちょやってみるかという気になる。

 一階に下り、掲示板の前に立つ。ギルドに持ち込まれた依頼内容は全てここに掲示される。好きなものを選び、受付に持って行くと、そこで詳しい説明がなされるそうだ。ちなみに受注は早い者勝ちだ。


「魔物退治に、護衛任務に、遺跡調査。その他よりどりみどりだ。さあ、どれにする?」


 カイは掲示板をざっと流し見し、私に選択を催促する。


「いや、そう言われても……」


 いったいなにを基準に選べばいいのやら。少なくとも魔物退治だけはやめておこうと思う。


「こっちにも目を通したら」


 ゲルダは掲示板の隣りにあるボードに私を呼ぶ。


「……指名手配?」


 ボードには紙が貼られており、人の名前と似顔絵、そして金額が記載されていた。


「そう、犯罪者の手配書。街の衛兵たちからの依頼よ。罪人だけでなく個別の魔物が対象になることもあるわ」


 盗賊団のボス、世間を騒がせた詐欺師、街に潜伏中のヴァンパイア、オークたちのリーダーなど、確かに多種多様だ。


「懸賞金額は悪行の内容によって設定されるのよ。けして危険人物だから高額というわけじゃないの。実際ヴァンパイアは強力な魔物だけど、被害は微々たるものだから金額は安く、逆に詐欺師は危険性ゼロだけど、多額の金銭的被害をもたらしたため、金額が高く設定されているのよ」


 ゲルダの説明に、私はコクコクと頷く。人間にもっとも被害を与えるのは、結局のところ人間というわけだ。

 貼られている手配書を眺めていると、その中にひと際高額な賞金をかけられた者がいた。


「『黒騎士団』ね。懸賞金百万ラロッド。三年ほど前からこの地域で悪さをしている一団よ。全身に黒い重鎧を着込んだ犯罪者集団で、村を襲ったり、人を誘拐したり、テログループと言った方が適切かしら」


 背筋がゾッとした。そんなやつらとは絶対に出会いたくない。 

 色々迷ったものの、最終的に私は護衛の仕事を受けることにした。受付のリサさんに詳細を聞いたところ、依頼人は宿屋の主人で、薬草採取に行く道中の護衛を頼みたいそうだ。

 警護を頼むということは、なにかしら危険があるのだろうけれど、どうせ夢の中だ。死にはしないだろうし、思い切ってやってみよう。しばしこのヘンテコな夢を楽しむのも悪くない。

 私は依頼を受注し、依頼人がいる宿屋へと向かった。

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