経過報告、そして白河桐花
現実に戻り、いつものように早瀬に報告する。場所は前と同じ校舎の隅だ。
「そっか、爆破フィストは失敗だったか……。いいアイデアだと思ったんだけどな」
早瀬は爆破フィストの結果を聞き、酷く落ち込んでいた。
「私の手がヤバイことになったんだから。まさに欠陥武器だわ」
「――いや、でもちょっと待って、オーガキングを一撃で倒せた結果は無視できない。発想自体は悪くないんだ。火薬の調整がマッチすれば立派な奥の手になりうるよ。ここで諦めちゃダメだ、黒江さん。発明は失敗を重ねて成功するんだから!」
なぜか早瀬は爆破フィストを押してきた。
「まあ、その辺はニコラに頼んでみるわ。あいつもその気みたいだから」
「彼とは気が合いそうだ。一度会ってみたいよ」
「私の夢の中に勝手に入ってこないでよ。それより次の話しに進みましょう」
「オーケー、次はニコラの工房で会った、カーナボン伯爵についての考察だ。これはアトラが不安を抱いたのもわかる。カーナボン伯爵は、現在なんらかの危険に晒されていると見ていい」
「その根拠は?」
「自身が防御系のアイテムをジャラジャラさせ、娘にも魔防の指輪。おまけに腕が立つ冒険者を雇うときた。これだけ揃えば疑う余地なしだ」
早瀬の見解に私も頷く。
「いったいどんな危険かしら?」
「暗殺者の線が真っ先に思い浮かぶけど、娘に買い与えた指輪が気になる。誰かに魔法で狙われているのか? それとも既になんらかの魔法をかけられているのか……」
早瀬はハッと言葉を止め、私の後ろを見やる。
「ゴメンなさい。邪魔するつもりは……」
振り向くと、そこには白河桐花が立っていた。彼女はバツが悪そうに辺りに視線をチラチラさせる。
「なによ。なにか用?」
オドオドした態度に苛立ち、私の口調はキツくなる。
「今日は朝のホームルームが早く開始するそうだから、二人を呼びにきたの」
担任の気まぐれにも困ったものだ。それはそうとして、
「あなた、私たちがここにいることをなんで知ってるの」
人目につかないようここで話していたのだ。なぜ彼女は私たちのいる場所を知っている。
「以前、偶然二人がここで話しているのを見かけたから。今日もここかな、って……」
つまり彼女はずっと私たちのことを知っていたということだ。どこか出し抜かれた気分だ。
「どこにいようと勝手でしょ。用がすんだなら消えてくれない」
「ゴメンなさい。悪気はなかったの」
そして彼女は謝罪を残し去って行った。
我に返り、気まずい心地で早瀬の方に向きなおる。彼の前でこの対応はまずかった。
「まあ、女子には女子のコミュニティーがあるだろうし、男子の僕がとやかく言う筋じゃないけど。ただ、黒江さんって白河さんに対していつもキツイよね。なにかあったの。確か中学も同じって聞いたけど」
「まあ、色々と……」
私は口籠る。早瀬も気を使ったようで、「ならいいや」と話題を終えてくれた。
「じゃ、続きは放課後にしよう」
「そうね、ホームルーム始まっちゃうしね」
放課後の約束をし、私たちは教室へと戻った。