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異世界転生は夢の中で  作者: 実乃里
第三章 契約にはご注意を
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伯爵からの依頼

 ラバマに戻り、ギルドに報告をして報酬をもらったあと、私たちは錬金術師の元に向かう。消費したアイテムの補充と、ガントレットの使用感を伝えるためだ。


「消耗したのは、爆破筒と煙幕筒が一つずつと、ヒールスプレーが一吹きか」


 ラデルがメモを見ながら確認する。

 私の手を治したのが『ヒールスプレー』だ。市販されている高級治療薬のヒールポーションを改良し、直接傷口に塗布するように調整したのだ。スプレーにしたのは使い勝手をよくするためで、これも早瀬が考案した。

 早瀬のアイデアでもう一つ作られたのが、『ヒールタブレット』だ。これも元はヒールポーションで、使い方は通常と同じ経口摂取だ。薬液を小麦粉などに染み込ませたのち、それを粒状に固めたものだ。小型のケースに入れておき、使うときは手に取り、口に放り嚥下する。瓶に入った液体を飲むより遥かに使いやすく、携帯性も高い。

 制作は例の錬金術師が行っている。この二つは画期的だったようで、工房の方で商品化を予定しているらしい。アイデアを持ち込んだ者の特権として、今後私たちには格安で提供してもらう約束だ。


「そのガントレットは失敗ね。使用した人間もダメージを受けるようじゃ、武器としてなりたたないわ」


 アトラは心底このガントレットがお気に召さないらしい。


「だが、オーガキングの頭部を一撃で吹き飛ばした実績は見逃せないな。仕込んである火薬の量を調整すれば、立派な隠し武器になると思うぜ」


 さすがは戦士。ラデルはガントレットの威力に魅せられているようだ。

 正式名称『爆破フィスト』。ガントレットに火薬を仕込んだデンジャラスな隠し武器だ。殴ると同時に内蔵されている火薬が炸裂し、相手を粉々に吹き飛ばす奥の手だ。

 今後の使用についても含め、錬金術師に相談するとしよう。


「おや、ずいぶん立派な馬車が止まっていますね」


 ノルルが言うように、工房の前には馬車が止まっていた。各部に装飾が施されたもので、貴族が使っているものだ。

 ここに貴族が客としてくるなんて珍しいなと思いつつ、工房へと入る。


「こんな怪しげな指輪、誰がするものですか!」


 まず目に入ったのは、キレイなドレスを纏った少女だ。栗色の長い髪を後ろで結わえ、その体からは上質な香水の香りを漂わせている。


「アルミナ、いいから言うことを聞くのだ!」


 次は恰幅のよい中年男性だ。こちらも上等な服装をしており、まるで見せつけるかのように、体中に宝石をあしらった装飾品を身に着けている。手の甲に赤いタトゥーを彫ってあるけれど、お世辞にも似合ってはいない。


「イヤったらイヤよ」


 アルミナと呼ばれた少女が男の手を払うと、なにかが床に落ち、コロコロと私の足元に転がってくる。

 拾ってみると、それは指輪だった。くすみきった銅のような鈍色をしており、その辺の屋台でももっとマシなものが売ってそうだ。


「クロエたちじゃないか。オーガ退治はすんだのか?」


 奥から工房の主人が現れた。ちなみに名前は、ニコラというらしい。


「ええ、無事終わったけど……」


 事態は飲み込めないものの、とりあえず指輪を男性に返す。


「すまないね君、拾ってくれてありがとう」


 指輪を受け取ると、男性は愛想のよい笑いを返してくれた。


「あなたにあげるわ、その指輪。私には必要ないもの」

「バカを言うな。これはお前がしなければ意味がないのだ」

「なんだってこんな汚らしい指輪が私に必要なの。ちゃんと説明してよ、お父さま」


 アルミナは男性に食ってかかる。この二人は親子らしい。

 男性はアルミナの手をガシッと掴み、その指に指輪をはめる。


「いいか、もしその指輪を外したらタダではおかんぞ。地下室に繋がれたくはないだろう」


 男性の言葉に、アルミナは渋々引き下がる。


「馬車で待ってるわ。こんな辛気臭いところ、一秒たりともいたくない」


 そう言い残して彼女は工房の外に出て行く。


「すまないね、娘が失礼な態度を取ってしまって」


 男性は申し訳なさそうに私たちに頭を下げる。


「一向に構いません、カーナボン伯爵。アルミナさまはこの工房の雰囲気がお気に召さなかったようですが、まあ、実際辛気臭いところですからね」


 ニコラは男性に腰を低く接する。


「あー、こちらはゲオル・カーナボン伯爵だ」


 ニコラは恭しく男性を私たちに紹介する。


「カーナボンといえば、この辺りの筆頭貴族じゃないですか」


 ノルルが驚きの声を上げ、ラデルとアトラもあとに続く。


「はっはっは、おかげさまでね。……ところで、さっきオーガを退治したとか言っていたが、君たちは冒険者かな?」


 誰かに自慢したかった気持ちも多少あり、私は先ほど終えた依頼の話しをする。


「ほう、あの遺跡に巣食っていたオーガの群れを退治したのか。なかなかの腕だ。……よかったら私に雇われてみないか」


 言われて私はラデルの方を見る。パーティーのリーダーは彼だ。


「いいんじゃないか。今は他の依頼も受けていないし」

「そうですよ。あのカーナボン伯爵からの依頼です。きっと報酬も弾んでくれるはずです」


 ラデルとノルルはその気のようだ。アトラは黙っているも、口を挟まないということは異論がないということだろう。


「なら決まりだ。今日中に屋敷にきてくれ」


 そしてゲオルさんは工房を後にし、馬車で帰って行った。


「いったいなんで貴族がここにいたわけ?」

「単純な商取引だ。伯爵はあるマジックアイテムを手に入れてくれと私に頼んできた。私は独自の伝手でそれを手に入れた。それを渡し、礼金をもらった。それだけだ」


 ゲオルさんがいなくなったので、ニコラは普段の調子に戻る。


「あの指輪って、魔防に関係するアイテムよね」


 黙っていたアトラが口を開く。


「これだから魔術師はキライだ。……そうだ。マジックガード。魔法から身を守る指輪だ。古代の偉大な魔法具も、伯爵令嬢の趣味には合わなかったようだがな」


 ニコラは両手を腰に当て、「やれやれ」と嘆息する。


「あの伯爵が身に着けていた装飾品。全てマジックアイテムだったわ。それもプロテクション系のものばかり……」


 アトラは瞳を細め、あからさまに不信感を漂わせていた。

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