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パラダイス・ロスト  作者: 仁野久洋
星屑の旅団
11/13

♯5

「ああ、ったく。モーリが出しゃばってくる前に仕留めるぞ、ドグマ」


 ライツはテンガロンハットのツバに潜らせるようにして、握り締めたレイアースを額に当てた。ぼう、と光条片が輝きを放ち始める。


「圧縮したレイアースか? そんなに使うつもりなのか?」


 ドグマは不満を露わにした。今、ライツが使おうとしているのは圧縮されたレイアースだ。人の”祈り”に呼応して、形はおろか、性質をも自在に変えるレイアースは、こうしてまとめることも出来た。強力な武装として使おうとすればするほど”量”が必要になるレイアース。そうしなければ、嵩張って仕方がないのだ。


「まぁな。今から作るのは〈爆裂二段散弾〉。これくらいじゃなきゃあ、生成出来ねぇ」


 目を閉じ、ライツが集中を始めた。自分の望む銃弾のイメージをレイアースに流し込む。そのイメージが強いほど、より強力な銃弾が生み出せる。


「なるほど。レイアースは多量に消費するが、〈爆裂系〉と〈散弾系〉を組み合わせたあのブリットならば、レビルとて一撃で倒せるだろう。しかし、それはやめておいた方がいい」

「ああ? なんでだよ?」


 集中を乱されたライツは、右手に持ったドグマを睨む。


「手遅れだからだ」


 ドグマは簡潔に答えた。


「まさか!」


 嫌な予感に撃ち抜かれたライツは、急いで空を見上げた。


「はわぁ! あの子、と、飛び降りたよ!」


 由理花がバレルスターを見上げて絶叫した。


「にゃん、にゃにゃーんっ!」


 勇壮(?)な掛け声と共に、モーリがバレルスターから飛び出した。バレルスターの高さは、地上から優に20メートル以上ある。艶やかな黒髪と両手を広げ、満面の笑みを浮かべて飛び降りた小さなモーリが、由理花にはレビルよりも大きく見えた。


「クキエェェェェェェ!」


 翼の両端までが10メートルにも達するかというほどの大鷲、レビルが、無防備に飛び降りたモーリへと、急降下を開始する。空中での機敏な切り返しは、その巨体を裏切るものだった。レビルは、あっという間にモーリとの距離を詰めた。鋭く長いくちばし、そして牛の角より太そうな両足の爪が、モーリを真っ直ぐに目指している。


「あん、のっ! バカやろぉっ!」


 ライツは急遽、レイアースへの祈りを変更。ガンマン特有の類まれなる集中力により生成された10発以上の銃弾が、じゃらじゃらとその手からこぼれ落ちた。が、銃弾たちは空中でぴたりと静止する。


「任せろ、ライツ」


 ドグマを中心として、光が波紋のように広がった。それはライツと由理花を包み込むところまで広がった。


「な、なに? この、不思議な感じ……?」


 由理花が感じているのは〈ウェイヴ〉だった。〈レイアース〉が発する波動。それが〈ウェイヴ〉だ。

 仄かな光の輪の中、ドグマのシリンダーが、勝手にスイングアウトした。ふわふわと漂っていた銃弾たちが、瞬時に次々とシリンダー内に収まってゆく。


「な、なんで?」


 銃弾が、まるで生きているようだ。水族館の魚たちが、巣穴に素早く潜り込むかのような銃弾の動きに、由理花は目を見開いた。


「レビルー。きしゃま、あたちを食えるとでも思っているろー?」


 モーリが、腰の刀を抜いた。〈斬姫〉との異名を持つからには、さぞや立派な大業物おおわざものいていると、モーリを知らない者は思うだろう。だが、モーリの持つ刀に刀身は無い。柄こそ紫の映える美しい菱巻が目を引くが、それだけだった。しかし、当然それだけでは意味がない。


「あみゃいにょ。あたちとライツが揃ってて、そんなの出来るわけないにょっ!」


 モーリが柄頭に片手を当てた。良く見ればこの柄、やたらと柄頭(柄の後尾部分。通常は金属製)が大きい。なぜなら、美しいブリリアントカットの施された拳大の〈レイアース〉がはまっているからだ。


「現れよ! 〈魔刃まじん〉!」


 そして、モーリはそう叫んだ。


「ちぃっ! まだ早ぇぜ、モーリ!」


 ライツが両手でドグマを構え、片眼をつむって照門リアサイトを覗きこむ。そこから照星フロントサイトと怪鳥レビルとが重なった一瞬。

 ライツは、ドグマの重いトリガーを力の限りに引いていた。ダブルアクションによりハンマーが引き起こされ、銃弾の雷管を叩きつける。同時に、腹に響く発砲音がして、ドグマのマズルが火を噴いた。


「ライツが遅いんだにょ! 行くにょ、〈五月雨さみだれ〉!」


 レビルがモーリの目前でごつごつとしたくちばしを大きく開いた。小さな唇をにやりと歪めたモーリは、刀身の無い刀を振りかぶる。その動作に危機を感知したレビルは、一転身をひるがえして飛び去ろうと翼を扇ぐ。


「キュエエエエエ!」


 そこに、ライツの放った〈拡網弾かくもうだん〉が着弾した。〈拡網弾〉は、レビルの寸前で爆発し、魚網そのままな網を空中に広げた。網に絡みとられたレビルが「しまった!」とばかりに奇声を上げる。


「きしゃまほど大きい者を一撃で切り刻もうと思うと、どうしても刀身も大きくなって、動きも遅くなってしまうにょ。それじゃあ斬撃を当てるのは難しいけにょ、ライツと一緒に戦えるなりゃ!」


 モーリが刀を振り下ろす。


「あたちの使役する〈魔刃〉の中でも最強の〈五月雨〉を、思う存分に振るえるにょー!」

「グキュエェェェェェ!」


 網にかかって身動きの取れなくなったレビルが、モーリの刀の、たったの一振りで細切れのダイスにされた。レビルの肉体が、無数のきれいなキューブにされて、花畑に降り注ごうとしていた。


「うっきゃあー!」


 由理花が頭上から雨のように降って来るグロテスクな物体たちを見上げ、悲鳴を上げた。


「やれやれ。降り注ぐのは、美女からのキスだけにして欲しいもんだぜ」


 ライツがドグマのマズルから立ち昇る白煙をふっと吹き、テンガロンハットのつばをぐいっと引いた。 



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