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魔王の玉座に召喚された無職が大陸に平和をもたらした経緯について

作者: まならす

※物語の歯車大して動きません

 レーヴェンシュタイン王朝第十七代女王シャルロッテは困惑していた。それは、偉大なる先代国王イヴァンの急逝によるものだ。

 女王は弱冠十歳にして即位した。女王は「正統なる血」の中でも極めて優れた魔術の才を示し、次期女王としても期待されていた。しかしながら、先代国王イヴァンの死は早過ぎた事もまた事実。

 女王は外交__主には魔族側との譲歩が主であるが__において、まだ深い知識を持たなかった。また女王は、魔法の才ゆえか、やや傲慢不遜であった。王権は強い。女王は驚くべき方針を打ち出した。


 それが、勇者召喚である。


 女王は国を、国民を想う気持ちはあった。寧ろあり過ぎた。そしてそれを成すための才も兼ね備えていた。

 それ故に、先走った。


 魔族の主、魔王と五代前の国王が結んだ休戦協定の期限が切れかかっている事を憂いていたのだ。

 無論、国王イヴァンが存命ならば、その更新をすべく最善を尽くしただろう。魔族は、強い者が上に立つ。それ故に何をしでかすか分からないからだ。

 しかしどうだ。女王は考えた。私のような若輩が向かったのでは、きっと舐められる。不利な協定を結ばされかねない。それどころか協定破棄すらあり得る。魔王は四百年その地位を守っているという。幾ら女王が優れているとはいえ、今代の魔王は規格外であった。


 そこで彼女が打ち出した方針が勇者召喚であった。急進派からは国王としても秀でていると称賛され、穏健派からは非難を浴びた。国王が穏健派筆頭だった為か、穏健な外交に倣うと思われていた。


 異界からの召喚者は、異界の神が慈悲として驚くべき加護を与えるという文献に、女王は目を付けた。

 その加護が事実ならば、あの強大なる魔王に牙を刺せる。女王は確信した。


 前述の通り、若くして女王は魔術に通暁している。女王ならば高等な召喚呪文も扱えてしまうのだ。

 それでも、異世界からの召喚は女王も触れた事の無い半ば禁術であったが。


 女王は召喚する。我がレーヴェンシュタイン王朝の為に。我が国王の為に。

 複雑奇怪な魔方陣が展開され、光が満ちる。

 発動には成功したらしい。女王は自信の才を信じていた。


 異世界人よ、我らを救い給え、女王は祈った。


***


 魔王はかれこれ四百年、その地位を守っている。即ち四百年魔族最強であり続けている。

 魔王は雌の人型で、当初は差別の的であり、弱そうな外見から王位は頻繁に狙われた。が、どの魔物も瞬時に殲滅。相手になっていなかった。その強さが知れ渡ると、魔族は一斉に掌を返した。


 そういえば、そろそろ人族との協定の期限かと思い出した魔王は、古びた羊皮紙を取り出した。五代前国王は大胆不敵で、尚且つ聡明な人物だった。魔王は回想する。

 魔王の圧倒的な力にも屈する事なく、休戦を要求してきた。現魔王は力がありながらも穏健派であったため、その要求を飲んだ。何より勇敢なる五代前国王を評価した為でもあった。

 同じ型の人族に情が湧いたか、等と揶揄されたが何処吹く風だ。

 そして、先代国王イヴァンも穏健派であると聞いていたから、きっと協定の更新に踏み切るだろうと考えていた。しかし届く、突然の崩御の報せ。次代はまだ十歳になったばかりの女王だと言う。

 女王との交渉は初めてだ。一体どんな小娘なのやら、と魔王は少し期待していた。


 しかし、魔王は不穏な噂を耳にする。女王シャルロッテが勇者召喚により、魔王を打倒しようと言うのだ。

 なるほど、確かに歴代でも比肩する者が無い程の実力と見て、小娘なりに考えたのだろう。彼女は魔術に長けているとも聞いていた。魔王は久し振りに一戦交える必要があるかもな、と側近に伝えた。

 魔王は王の間で考えを逡巡させる。王の間は広く、最奥に玉座が設置されている。酷く殺風景だが、魔王がそこに座るだけで間に統一感がもたらされていた。

 勇者の実力は如何程だろうか。もし、私を斃せる程の実力ならば、そのまま魔族に侵攻を掛けかねない。それは何としても回避したい。魔王はそう考えた。

 そんな中、突如魔王の膝が光る。王の間は遠隔魔法の侵入を遮断するように出来ていた。それを破れるとしたら、それこそ勇者しかいない。魔王は焦燥という感情を久し振りに思い出した。


 魔王の膝に、ブサイクな男が現れた。


 警戒も何も無い。魔王に膝枕してもらう形で、それはそれはすやすやと眠っていた。

 魔王は警戒する。が、直ぐにその警戒を解く。一切の敵意を感じなかったからだ。

 また、魔王はブサイクからこの世界の匂いがしないことに気付く。


 まさか、このブサイクが勇者だと言うのか。では、交渉を済ませるのは簡単な事ではないか?


 魔王は寝ている男を問答無用で担ぎ上げ、王城へ急いだ。


***


 王女シャルロッテは泡を吹いて卒倒した。

 魔王が人族を担いで猛スピードでこちらに突っ込んできているというのだ。

 国内最高峰の魔法使いが展開した結界は一瞬で砕けたと言う。

 ただでさえ召喚失敗をして意気消沈だったのに、魔王が直々に突っ込んで来た。もうこれで王女の心は完全に折れた。

 配下たちは慌てふためく。全く意味のなさない迎撃体制をそれでも整え、魔王襲来に備えた。


 程なくして、魔王が王城の門を叩いた。迎撃は意味が無かった。街中大パニックである。


「荒い真似をした事をまずは詫びよう。善は急げ、と言う事で急いで来た。女王はいるか」


 配下たちは禍々しいオーラを放つ魔王に怖気付いたが、魔王が担いでいる謎のブサイクで中和されたのか、毅然とした態度で魔王に臨んだ。


「女王陛下は体調を崩されている。魔王が直々に現れるとは、何用か」

「なあに、話せば分かる。その辺で待たせてくれ」


 王女は目を覚ました。魔王が広間で待っているとの報せを受け、思いっきり吐いた。


 それでも王女は王女だ。一国の王として、何事も無かったかのように広間に現れた。魔王に対し、弱そうな面を見せてはいけない。そう思っていた。

 隣にいるブサイク……いや男が恐らく人質か何かだろう。


「私がリーゼンシュタイン王朝現女王、シャルロッテです。魔王直々にどのような用事でしょうか」


 魔王は、噂に聞いていた以上の魔力量を目の当たりにして、これは成長が楽しみだと思った。

 男は別の意味で成長が楽しみだと思った。


「単刀直入に言おう。女王は召喚に成功している」

「なっ……」

「それがこいつだ。間違いない。女王が見れば真だと分かるだろう」


 女王はニヤニヤしてこちらを見ているブサイクを眺めた。女王はブン殴りたくなったが、確かに加護らしきものが見えるのを確認した。


「確かにそのようです。で、このブ……男をどうしようと言うのです」

「この男、私を倒せると思うかね」

「……それは」

「そうだろう? こんなのが成長する構図が見えない」


「ああああああ、あの……」

「お前は黙ってろ」

「ふぁい!」


 男は小便を漏らしかけ、実際ちょっと漏らした。


「それで、だ。私は休戦協定の更新を提案したい。内容は前回と同じで構わん」

「これなら召喚術を使うまでもあるまい?」

「え……?」


 女王は驚いた。何か要求があると思ったからだ。


「……分かりました。願っても無い事です」

「良し」




「そうだ、女王よ。この男、いるか?」

「いえ、特には」


 女王は一瞬で否定した。


「よし、おい男、帰るぞ」

「えっ」

「貴様、無職なんだろ?適当な働き先を紹介してやる。なあに、加護があるから死にはしないさ」

「えっ」


 こうして男は仕事先を見つけ、魔族と人族の平和は守られたのであった。


勢いに任せて筆を動かすのが好き

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