第66話:再生のカウントダウン(その5)
###
8月5日午後1時20分、谷塚駅近辺のフリースペースで行われたDJイナズマのプレイ光景、それは各種アンテナショップ等でも中継されている。
「あのゲームは――もしかして?」
口を手で押さえ、吹きだしかけていた物を抑えていたのは鉄血のビスマルクである。吹きだしたら、そこで気づかれるのは言うまでもない。
「その、まさかよ」
ビスマルクの隣に現れたのは、信濃リンである。先ほど、山口飛龍とも会ったのだが、その途中で臨時の連絡があった。
「あのARゲームは、過去に起動していた機種――。それは間違いない。だから、会場へ行って確認しようとしたら入場制限がかかってはいられなかった」
どうやら、あれから信濃は会場へ向かったのだが、入場制限が途中でかかった為に入られなかった。午後1時30分頃には制限解除がされるようだが、それからでは終わっているだろう。
「あのゲームは一度触れた事があるけど、あれは音楽に興味を持っただけのプレイヤーが触ってよい物ではない」
ビスマルクは過去にイナズマがプレイしているのと類似した機種に触った事があった。
しかし、その時は自分の肌には合わず、プレイを断念。その後、FPS等に鞍替えし――ランカーになった経緯もある。
音楽ゲームの中でも、スマホでプレイする機種は比較的に初心者でもプレイしやすいように調整されているが、あの当時の音楽ゲームは難易度調整も手探りだったと言う。
家庭用ゲームの方では、難易度の部分でも当時のプレイヤー層を考えて調整されていたのだが、アーケードで稼働した物は難易度の高さがネックとなっていた。
実際、音楽ゲームのアーケード版が誕生したのは1997年頃、ゲームセンターでは格闘ゲームやパズルゲームがメインで、稀にファミリー向けでクレーンゲームが置かれている時代。
シューティングゲームでも高難易度化が加速した結果、一部のマニア向けというジャンルとなって、扱うゲーセンが少なくなった。
それこそ、秋葉原等のオタク向けのロケーションでしか受け入れられない状況になったのは言うまでもない。
「それを踏まえれば、ARガジェットを使用する音ゲーや最近の機種、スマホアプリの物は初心者向けも多い。その括りでミュージックオブスパーダをプレイすれば、しっぺ返しを食らうが」
信濃は、ふと自分がミュージックオブスパーダを始めたきっかけを思い出した。初心者向けと思ってプレイした結果、導入の段階で挫折をしたプレイヤーは数知れない。
それがアンケートの引退理由で『明らかに初見詐欺』や『音ゲーではなく、狩りゲー』という意見が多いのも納得である。
同日午後1時25分、DJイナズマの方は別の段位に挑戦する前、少し昔語りを始めていた。その途中、ある話を唐突に始めたのである。
「音楽ゲームと格闘ゲーム、システム的な扱いで普及速度が大きく変わったジャンルと言われます。イースポーツで扱われる格ゲーに対し、音ゲーがイースポーツで扱われる事は皆無と言ってもいい」
イナズマは突如として音楽ゲームのイースポーツ化に関する話を切り出してきた。これには、中継映像を別のゲーセンで見ていた大和杏も驚きを隠せない。
「音楽ゲームをイースポーツにするにあたり、言及されるのが課題曲についてです。ここに大手芸能事務所が大会運営資金提供の見返りとして、自分達のアイドルグループの楽曲を課題曲へ――という話があったとしたら?」
彼の一言、それは周囲の状況を凍らせるような爆弾発言と言っても過言ではない。超有名アイドルの芸能事務所に関する話題、それはテレビでも政治家と裏取引があったとしても報道しないというレベルで暗黙の了解が存在する。
しかし、それでもイナズマは全く恐れることなく話し続けた。超有名アイドル商法の存在、それはFX投資をアイドル投資と言う漢字で言い変えただけであり、正しいコンテンツ消費と言えはない――レッドゾーンに該当すると。
極めつけとしては、彼はアカシックレコードを引用する形で超有名アイドル商法の闇を説明し、それらが存在し続ける限り、アカシックレコードを悪用する勢力は消えないと言及する。
「コンテンツ同士がライバル関係ではなく、それこそ流血を伴う争いを呼ぶような存在になったとしたら? それにアカシックレコードが使われたら、どうなるか――」
イナズマが指を鳴らすと、周囲に表示されたのは様々なアーティストのミュージックビデオだった。それも、アカシックレコードに存在する架空アイドル、実在アイドル、多種多様の映像が流れる。
その中には自分達が知らないようなアーティストの曲もあれば、知っている局も存在する。それに加え、さりげなく音楽ゲームのオリジナル楽曲も含まれているのだが、それに気付いたギャラリーは少ない。
「コンテンツ同士の対立を煽る存在であるまとめサイト、炎上勢力、悪目立ちしようとするつぶやきユーザー等……そうした勢力の拡散する歪められた情報、それに踊らされた結果が超有名アイドルのディストピアと言うバッドエンドを繰り返すループを――」
イナズマが何かを言及しようとした所で乱入してきたのは、アイドル投資家を思わせる服装をした別勢力だった。
周囲のギャラリーが、それに驚くような様子はない。何故かと言うと、彼らの所持しているARガジェットはフリースペースやフリーフィールドの様な特殊エリアで仕様は出来ないのを知っていたからだ。
「君が戦うべき相手は、ここにはいないはず。素直に従ってくれれば、特に危害は加えずに見逃そうと思うが」
イナズマにとって、目の前にいる人物は招かれざる客とも言える存在。周囲のギャラリーの反応を考えると、それも当然と言うべき人物だったのだ。
その後、イナズマの話を受け入れ、その人物はあっさりと手を引くかのように撤収する。相手側に得があるかどうか、それは向こう側にしか分からないが。
先ほどの人物、それがレジェンドアイドルだと気付いたのは、向こうが素直に引き下がってから数分後の事である。
自分でも逃した魚は大きいと思ったのだが、レジェンドアイドルを倒すという役割は別の人物に譲ることにした。
【レジェンドアイドルの正体、それは――】
このショートメッセージが各所に拡散されたのは、午後2時ごろになってからの話である。




