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ミュージックオブスパーダ  作者: 桜崎あかり
ランカー登録編
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第7話:始まりは唐突だった

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 西暦2018年、この時代はARゲームの当たり年と言う訳ではないのだが…ARゲームのヒット作が多い展開になっていた。


 数年前はARゲームの技術が発展しておらず、それ以外のソーシャルゲーム等がヒットしているという時代だったのだが……。


 それらの動向が変化するきっかけを作ったのが、草加市を新たなARゲーム特区として制定した「遊戯都市奏歌」である。


 これ以降は草加市でARゲームの開発環境が整い、複数の作品がロケテストを初め、それらの積み重ねが今日のヒットを生み出した。


 しかし、これを黙って見ているような情勢ではなかった。ネット炎上等が問題視されているこの世界において、こうした話題は即座に超有名アイドルファンに利用される。


 それも推しアイドルを推薦する為の叩き台に利用し、最終的には自分達が「我々が育てた!」と自慢、更には目立つ事で超有名アイドルによるディストピアを加速させていた。


 こうしたやり方はフジョシ勢や夢小説勢が行っている様な行為にも類似しているのだが、これらの行為は【正義の行為】としてネット上では広まり、超有名アイドルが行う場合は有名無罪的な扱いになっているのが現実。


 それでも、こうした動きを黙っている勢力はいない。ネット炎上勢以外にもまとめサイト勢が話題を拡散させる事で、この世界では超有名アイドルコンテンツが日本経済を急成長させた救世主として英雄視されていた。


「その後の展開は、見るまでもないか。この光景も、紅白歌合戦の様に――風物詩として言われるようになった」


 ネットのまとめサイトを見ていたのは、大和杏。彼女は今までにも超有名アイドル騒動に関してはネットで調べてきたのだが、どれも美化されていたり捏造されていたりと真実とは程遠い物。


「しかし、これが風物詩となるのは海外のアーティスト的な意味でも、歓迎されたものではない。自分達よりも売れているのが、一部の投資家ファンがFX投資をするようにグッズを購入しているようなアイドルと言う事実を」


 大和を含め、現状の超有名アイドル商法に関して否定的な意見を持つ者も少なくはない。それを承知の上で利益になると宣伝しているのは、目先の利益だけでリスクを考えていない政治家や投資家と断言する者までいる。


 それに加えて、ワールドカップなどの誘致よりも国内で超有名アイドルのライブを行った方が利益になると……本気で考えている自治体もある位だ。


 こうした動きに関して、過去に超有名アイドル商法を否定する為に戦っていた人物も疲弊し、現在はネット上から名前も言及されなくなった人物もいる。


「過去の英雄を呼び起こすよりも、今の自分達だけで出来る事を考えないと」


 大和は何かを考えるのだが、それらが超有名アイドルの予測できそうな事では逆効果になる。むしろ、それは彼らにネット炎上の口実を与えるだけだ。



 4月も20日が過ぎ、超有名アイドルによるARゲームの宣伝行為等もネット上で拡散され、それらを火消ししようと言う人物は現れない……と誰もが思っていた。


【聞いたか? また現れたらしいぞ】


【バウンティハンターだろ? 既に便乗して名乗っている人物も多いらしい】


【彼の存在こそ、ARゲームを守る為の存在と思わないか?】


【それは運営が無能であるという事の裏返し……】


【運営も既に全体の1割を占めると言われるコミュニティを調査している話だ。あの勢力が超有名アイドルや夢小説勢と分かれば、大規模摘発になるが】


 つぶやきサイト上で話題になっている話、それは一部の中級プレイヤーや超有名アイドルファンを狩る存在だ。ネット上ではバウンティハンターと呼ばれている。


「バウンティハンター……」


 ゲームセンターでタブレット端末を見ていた山口飛龍、彼はバウンティハンターと言う名前に聞き覚えがあった。それもそのはず、彼は過去に合った事があったからだ。


「しかし、ネット上の動画で出回っているバウンティハンターはスーツデザインがあの時の人物と異なるが……」


 アップされている動画は、そのほとんどが目撃した事のある人物とはかけ離れた装備だった。


【確認されているだけでバウンティハンターの数は20人を超える。何処かの20面相じゃないが……】


【おそらく、別のつぶやきで言及されている便乗だろう】


【しかし、この話題は超有名アイドル等にタダ乗りされる可能性もある】


【下手をすれば国際問題に発展するかもしれないような……歴史認識問題に悪用されるかもしれない】


【そこまで深刻化する事はない。別のソーシャルゲームみたいにフジョシ勢力によって蹂躙されている状況とは異なっている】


 他のつぶやきでは深刻な事態ではないと言及されているが、そこまで楽観的に発言できるのはなぜか。


「バウンティハンターの狙いが、もしもネット上で注目を浴びる事だったら――」


 山口はふと思う。今回の騒動がバウンティハンターの狙いなのではないか、と。ネット上に話題が拡散されれば、自分の名前が広まる事になる。



 しかし、こうしたまとめサイトやつぶやきサイトを利用した宣伝戦略は超有名アイドルも使用する常套手段だ。それをバウンティハンターが利用するのだろうか?


『政治家が超有名アイドルと手を組み、世界を征服しようというプロット自体、既に使い古されている。芸能事務所も政治家と組むメリットはないだろう』


 山口は、あの時にバウンティハンターが言った事を思い出した。芸能事務所が政治家と組むようなメリットは、もはや存在しないと同然である。


 そうした情報戦や企業戦略を展開しても、海外で勝てるようなアイドルを育成出来るかと言われると疑問が残る。既に政府主導型のゴリ押し型アイドルコンテンツ戦略は時代遅れなのだ。


『その昔、玩具で世界征服を考えるような科学者が登場するアニメやゲームが多数存在していた時代があった。芸能事務所が超有名アイドル商法で世界進出をしようと言う流れは、これと全く同じと言っていい』


 ある日、偶然にも一連の話題になる前のバウンティハンターに遭遇できた山口に、彼は口を開いた。本来であれば、こうした発言もネット上で編集、捏造されて拡散される可能性があるかもしれない。


 そうしたリスクを承知の上で彼は接触をしてきたと言ってもいいだろう。何故、彼は山口に真実を話そうと考えたのか。それは、彼にしか分からない。


「あの時、あなたはARゲームをプレイする事で全てが分かると言った。あれは嘘なのか?」


『嘘ではない。あの作られた世界は――一連の日本を表現した縮図と言ってもいい』


「作られた世界と言うのは、あのゲームのストーリーか? それとも……」


『音楽ゲームにストーリーと言う物をプレイヤーが望むケースは少ない。あのプレイ光景は、文字通りの意味と言える』


「文字通り? ARガジェットを用いたARゲームはいくつか存在するが、それらのストーリーとも背景とも異なる物を持っていた」


『確かに。君が感じた物は……』


 話をしている内に、バウンティハンターのARアーマーがノイズで消滅しかけるアクシデントが発生する。ノイズの先に見えたのは、女性の顔にも見えたのだが……。


『時間切れだ。今回はここまでにしておこう』


 時間切れの部分は女性の声に聞こえたが、その後は普通に男性の声に戻っていた。どちらが彼の正体なのか、そんな事はどうでもよかった。


 しばらくして、バウンティハンターの姿は『消えて』いた。CGのアバターと会話していた訳ではないが、そう周囲には受け止められても違和感はないだろう。


「何故、あの音楽ゲームに出てくるノーツはモンスターの形状等をしているのか」


 山口にとって疑問が残る部分もある。ミュージックオブスパーダは音楽ゲームのシステムを用いている個所もあるのだが、体感型のハンティングゲームと説明しても差し支えがない。


 音楽ゲーム的なルールを説明しなければ、初見でジャンルをだませる位には別ゲームというミュージックオブスパーダ。


 それは音楽ゲームというジャンルに対して既存の形式を打ち破るべきと言うメッセージを伝えたいのかもしれない……そう山口は考えていた。



 5月のゴールデンウィーク突入前、ミュージックオブスパーダに新星が現れた事がネット上で話題になっていた。


【山口もそうだが、警戒すべき人物が現れた】


【プレイ開始日を調べたら、4月28日だと?】


【音ゲーでも初見プレイで理論値を出すプレイヤーはいると言うが……偶然としては出来過ぎだ】


【一体、あの人物は何者だ!?】


【しかも、女性プレイヤーと言うのも驚きだ。歌姫が戦うと言うアニメは過去にあったが……】


【彼女の名前……別のゲーム由来かもしれないぞ】


 こうしたつぶやきは山口だけではなく、他のプレイヤーの目にも留まっており、そうした人物は特に印象をつぶやく事はなかったと言う。


「大淀、はるか――」


 山口もネームを見て驚いていた。本当に女性プレイヤーなのか……と。中には女性プレイヤー名と見せかけた男性プレイヤーと言う人物もいるからだ。



 草加駅より少し離れたエリア、そこではミュージックオブスパーダが新たに設置されたばかりの商店街エリアでもあった。


「最初は興味がなかったけど――」


 黒髪のセミショート、細身の身体に露出度が抑えられたラバースーツにARアーマーを装着、使用武器は左肩のパイルバンカーと言う杭打ち機……。


「これが、つぶやきでトレンドになっていたミュージックオブスパーダ――」


 大淀おおよどはるか、最初は何の理解もせずにプレイしていたミュージックスパーダの魔力にひかれた女性プレイヤーでもあった。


 ただし、彼女は一部のランカーなどとは違って他のARゲームは未経験である。過去に音楽ゲームで目撃例はあったらしいが、ネット上の情報に信憑性を求めるのは無理な話かもしれない。


「今の音楽業界にない物を……このARゲームは持っているかもしれない」


 次の瞬間、彼女はパイルバンカーでターゲットの装甲兵を撃破し、気が付くと理論値クリアをしていたのである。これには、周囲も歓声を上げるしかなかったという。


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