第51話:バルバトス、再び
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11月1日午前1時12分付:誤植修正。話かからないのか?→分からないのか?
12月12日午後1時1分付:誤植修正。怒る時には怒ってしまいます→起こる時には起こってしまいます
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ここで7月13日まで時間を少し巻き戻す。ライオンに似たようなデザインのバイザーを装着、重装甲のガジェット、更には強化したスピア型ガジェット『バルバトス』――。
『やはり、お前達の方が来たか』
草加市の決勝会場Aに偽装したエリア、そこに姿を見せたのは超有名アイドルファンなのだが――見た目はアイドルファンに見えても、中身の方は違っていた。
彼らは俗に言うフラッシュモブと呼ばれる存在、それに加えて一部の投資家ファンのつぶやきに賛同したモブが集まったと言うべきだろうか。
「最初から会場は違っていたのか!」
「ミュージックオブスパーダの妨害を行い、超有名アイドルの人気アピールをするはずが――」
「まさか、他のエリアにも予選落ちしたランカーが潜んでいると言うのか!?」
周囲のモブは目の前にいるのが上級ランカーの一人であるプルソンだと気付き、逃走の準備を始めている。
しかし、彼女がモブの群れを逃がすはずはなく、振り下ろしたスピアの一振りだけで半数以上のモブが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたモブは気絶、一部の生き残ったモブも抵抗をするのだが、プルソンには自分達が持っているガジェットが全く通じない。
「ARガジェットでなければアーマーには効果がないと聞いたのに――どうして効かない!?」
「何故だ――超有名アイドルに味方しただけで、ここまでの事になるのか?」
「まるで、一方的な無双展開じゃないのか」
周囲のモブも不満を爆発させながらプルソンに抵抗、結局は他のモブと同様に武器は効力を発揮しない。
『お前達の使っているガジェット――それは正規品ではない。模造品や外部ツールを使用したチートでは、正規品に勝てるはずがないのは分からないのか?』
プルソンの言う事は全く分からない。チートの方が最強のはずなのに、Web小説ではチートで無双するような話は数多くある。実際、アカシックレコードにもチートを題材にした作品もあった位だ。
それでもチートが全く効果を発揮しないのはどういう事なのか?
「まさか、貴様もアガートラームを――」
ある男性モブがプルソンの持つARガジェットが強すぎる事に対し、一言つぶやくのだが――それが彼にとっての断末魔となった。
『アガートラームはワンオフガジェットだ。似たような機能のガジェットはあったとしても、あれと同じものは2つとない』
その断末魔に対し、プルソンが返答をするのだが……それを彼が聞いているかどうかは不明だ。この人物も断末魔を上げた後は気絶をしたのだが。
フラッシュモブの大群を撃退したのは、わずか5分弱の出来事である。モブの大群は気絶しているだけであり、大量虐殺の類ではない。
『ARガジェットを用いてテロまがいの行動を起こせば、それは犯罪者と変わらなくなる――』
プルソンはしばらくしてからメットを脱ぎ、周囲の光景を確かめていた。
「結局、どのジャンルでも悲劇は繰り返されるのか。自分が目立ちたいという欲望で動き、その結果がコンテンツ炎上を招くと言うのに」
木曾あやね、それがプルソンの正体でもある。一応の目的は達成されたので、木曾の方は別の会場へと向かう事にした。
再び7月28日に戻す。一連のスコアトライアルで起きたフラッシュモブの大量発生は、後に『ランカー事変』としてアカシックレコードに刻まれ、他の世界へも拡散する事になった。
「あの時と同じ悲劇を繰り返す事は、世論にARゲームの風評被害を広めてしまう事になる」
別のフラッシュモブが発生した草加駅近辺に立ち寄っていた木曾は、そこでアンテナショップの告知を確認していた。
《ARガジェットニューバージョン、入荷》
そこには各種ガジェットの入荷状況が書かれており、自分が目当てとしている作品のARガジェットはニューバージョンに変わっている事を確認し、木曾はショップへと入店した。
アンテナショップ内、お客の数は50人強と言う具合だが、ガジェットの調整や修理等のサービスは30分待ちと言う状況で、本日中に終わるかも分からないという位の混雑具合になっている。
「あの時は、ARゲームが再び暗黒時代になるのでは――と思いましたよ」
木曾と話をしていた男性スタッフも、思わず本音でつぶやく。この話は周囲に聞こえてはいないが、そのスタッフも似たような思いらしい。
自分のバイト先で取り扱っている物が実は大量破壊兵器だった――という風評被害が広まれば、政府もARゲームに関して規制法案を出すに違いないと考えているからだ。
「ARゲームのガイドラインでは大量破壊兵器への転用を禁止している以上、そうした事は絶対起こらないようになっているはずだが」
「ARゲームでも絶対と言うのはありません。想定外のトラブル、事故等は起こる時には起こってしまいます」
「それでも改善した結果、ガジェットのトラブルはリリース初期より減ったと聞く。それも、わずか数年の間で」
「私も、あの時の技術発展に関しては知っています。その時はARゲームの第一次ブームと言っていい状態――」
「今の状況が第二次ブームと言うには、ブレイクした経緯が異常にも見えるが」
木曾とスタッフの話が続く中、荷物搬入カートに載せられたARガジェット『バルバトス』がガジェット置き場まで運ばれた。
形状は以前に受領された時とは異なり、デザインもスピアと言うには謎の形状になっており、複数のブレードで構成されている点だけが継承されており――。
「このガジェットはバージョンアップ対象外と言う事を、以前にも説明しましたが――」
木曾の目的は、バルバトスのバージョンアップされた物を引き取りに来たのである。しかし、このガジェットはバージョンアップ対象外と宣告された物だった。
バージョンアップ対象外なのは、大和杏のアガートラームも該当する。向こうのバージョンアップ不可と経緯は異なるのだが……。
「ここまで調整してくれれば、後は自分で何とか出来る。このガジェット自体が異例すぎる物だからな」
木曾がバルバトスの感触を確認し、想定通りのカスタマイズがされている事を確認した。