第49話:もう一つのアップデート
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7月8日午前10時、スコアトライアルの一件が落ち着いた頃にアップデートの告知が発表された。ただし、発表されたのは別のARゲームだった。
【ARガジェットのバージョンアップがあるらしい】
【俗に言うフラッシュのアップデートみたいな物か】
【ARゲームをソフトと例えると、ガジェットはゲーム機本体と言う例えはテンプレだが一番理解しやすい例えだ】
【しかし、今回のガジェットバージョンアップはミュージックオブスパーダとパルクール、一部ジャンルでは非対応らしい】
【スコアトライアル中のミュージックオブスパーダは、下手するとスコア変動に大きく影響する為の処置だろう】
【それでも、一部ジャンルが同調しないのがおかしい】
【対戦格闘は対応、シューティングも対応、アクションも対応なっている。非対応は音ゲーだけだ】
【ミュージックオブスパーダが対応しないのと関係があるかもしれないな。音ゲーの方は】
つぶやきサイト上ではアップデートに関する話が浮上している。しかし、それに同調しないスパーダ運営に対して不満があるのかと言うと、そうではないようだ。
今回のバージョンアップはメモリクラッシュに由来する不具合修正だが、その一方で音楽ゲーム系のARゲームでは今回の修正がスコアチートに悪用される可能性がまとめサイト等で指摘されている。
実際の所は、こうした少数派の意見を取り入れてのアップデート保留と言う訳ではなく、単純にスコアトライアル本選後のアップデートを行う事はアナウンスされていた。
「このアップデートは予定されていた物ではなく、おそらくは別世界からのアクセスを防ぐための手段か」
今回のアップデートに関して、その目的をいち早く理解していたのは意外な事に加賀ミヅキだった。
彼女はミュージックオブスパーダのスコアトライアルには参加したが、2曲の理論値のみで予選が終了し、本選への進出は出来なかったのである。
その理由には超有名アイドル勢を初めとした反ARゲーム勢の連合軍と戦っていたのも理由の一つ。
「しかし、本選へ進んだとしても山口飛龍や大和杏、ビスマルクを初めとしたランカーと戦う事になるか」
加賀の方は別のARゲームもプレイ中で、あくまでもスパーダは気休め程度のプレイである。それを踏まえて、イベントで本気を出さなかったという説もネット上で言及されていたが――。
それに加え、加賀の実力でランカー勢を相手にするのは兼業ゲームが多すぎて無理な話。しかし、それを覆すようなDJイナズマのような人物もいる為、不可能ではないらしい。
「どちらにしても、ガジェットのアップデートはしておく必要があるか」
加賀のガジェットは既に損傷がひどく、ミュージックオブスパーダ用以外はメンテ必須なまでに破損個所が分かりやすい。
このような状態でプレイすれば、命の危険性も指摘されるだろう。生命維持装置や安全装置が正常に動く可能性すら危ういからだ。
仕方がない状況となった加賀の取った行動は、バウンティハンターの休業とガジェットのオーバーホール。その為、奏歌市のアンテナショップへ修理を依頼するのだが……。
ガジェットのオーバーホールは一週間かかるとの事で、その間に使用する予備ガジェットの確保を考える。メインはFPSと言う事もあり、予備ガジェットの確保は加賀にとって死活問題だったのも理由の一つだ。
しかし、加賀が使用していたタイプのガジェットは貸し出し中が大半の為、特撮変身ヒーローを思わせるガジェットギアを新規で購入し、それをFPSで使用する事になる。
オーバーホール中のガジェットに保存されたデータは、既に新規ガジェットへ移植完了しており、重複登録にならないようにデータの変更も行った。
「お前がバウンティハンターだった――と言う事か」
加賀がガジェットをショップへ預け、店を出た所で遭遇した人物、それは予想外にも大和杏である。彼女の目つきは、まるでターゲットを見つけたような物に思えた。