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ミュージックオブスパーダ  作者: 桜崎あかり
ランカー激戦編
54/114

第48話:音楽の旗

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 7月7日、スコアトライアルの予選結果が出た。しかし、その結果はプレイヤーの創造出来ないような予想の斜め上と言える結果である。


「まぁ、そうなるか」


 この結果を見て、当然というリアクションをしたのはビスマルクだった。最終日近辺で理論値を2曲叩きだしたのが大きかった。


「しかし、理論値プレイヤーが複数出た事で集計が遅れたというのは――言い得て妙だな」


 事情を知っているとはいえ、理論値プレイヤーが最終日滑り込みで続出したのは非常に大きかった。



「これでは――マッチポンプと一部で言われても当然の結果か」


 一方で、この結果に不満を持たしていたのはDJイナズマである。途中で理論値に到達したスコアもあったのだが、サーバートラブルで記録されなかったのである。


 サーバートラブルはつぶやきサイトのダウンした日とはずれており、関連性は薄い。しかし、超有名アイドル勢がトライアルを妨害する目的で太陽光施設にハッキングを仕掛けた事がニュースでも報道された。


「一連の事件によって集計の中断は分かる。しかし、その間に理論値を出したプレイヤーはスコア無効扱いか?」


 最終的には別の日に理論値を出した事でイナズマも予選通過を果たしているが、後味が悪いのは言うまでもない。



南雲蒼龍なぐもそうりゅうの預かり知らない所で作動したゴッドランカーシステム、それに加えてアカシックレコードの解析結果が拡散された事――他にも、こちらとは関係ない勢力が暴走した結果、あの展開を生み出した」


 メインメンバーでスコアトライアルを奏歌市以外の場所でチェックしていたのは、私用で足立区へ来ていた大和杏やまとあんずだけである。


「人類がアカシックレコードの全貌を解析する事自体が不可能と言うべきか。それこそ、一部勢力が発言した一億創作作家育成計画……だったか」


 大和は一億の日本人全てを一次創作作家にして活躍させ、海外に売り込んで印税的な部分で第2の超有名アイドルコンテンツと同じ事を……と考えている人物の事を思い出そうとしていた。


「人の思考を100%読み取るのは、それこそフィクション世界の超能力者でもない限りは不可能だ。そして、被害妄想や狂言でイベントの進行を妨げた罪は――」


 これ以上、この一件を思い出すのも苦痛の為か、大和は別の話題をつぶやきサイトで探す。


「予測できたとは言え――何故、止められなかった」 


 大和は拳を握りしめ、ARガジェットに振りおろそうとさえした。しかし、ゲームに八つ当たりをするのもお門違いと分かっている。


 その時、大和の目には涙が浮かぶ。自分の非力さが生み出したとも言える、今回の一件を誰も責める事は出来ないだろう。


「アカシックレコードとは言え、100%当たる物ではない。それも――分かっていた、はずなのに」


 世の中には100%当たると言う物はない。例え、必中と言えど回避手段は存在する。それを大和は分かっていた。


 あの事件を回避できる手段はあったはずだが、それを回避できなかったのには複数の条件が重なったとはいえ、運営側の想定ミスも否定できない。


「それを把握した上の、アレは――結末としてはあんまりすぎる」


 大和は大泣きをする寸前で泣きやむ。そんな事をしても、結果が変わる事はないのだから。



【あの時は正直な事を言うと、何が起こったのかは分からなかった】


【超有名アイドルファンの犯罪は、テロ事件と誤認される部類以外は報道されていない。それも被害の大小問わず】


【それでも一部が報道されていたのは、トカゲのしっぽ切りと言われている】


【結局、真相を知っているのは――】


【それよりも、バイク型のガジェットを用いた仮想レースゲームが遂に出るらしい】


【運転免許はいるのか?】


【そこまでは不要と言う話だ。ただし、ARガジェットとして登録を完了している事を含めて前提条件が多いが】


【ここまでくると、今度はロボット型のガジェットが出そうだな】


【パルクールの奴とか、ロボットファイトの様な小型ではなく、20メートルクラスでロボットアニメに出るような――】


 つぶやきサイト上で、今回のスコアトライアルに関しての結果に言及したつぶやきは少ない。


 むしろ、別のARゲームのロケテストが話題となっている。


 ネット住民はミュージックオブスパーダに飽きてしまったのかと言うと、実は違っていた。それこそ、ネット住民では想像できないような予想斜め上の結果だったから。



 この結果を出す事に対し、一番苦しい判断を迫られたのは南雲である。賞金制度に関して直前でキャンセルをした事に対しても、苦渋の決断だったのだが。


「アカシックレコードが、あれほどまでの情報量を持っているとは思わなかった。情報量が有限だと思い込んでいたのがミスなのか」


 今回は事務所でのデスクワークをしていた南雲だが、アカシックレコードに関しては計算外だった。


「十人十色とはよく言った物だが、それを踏まえてアカシックレコードは無制限だと言う事か」


 日本政府でもアカシックレコードの解析は完了しておらず、一部のゲームメーカーでも半分が解析できればよい方。それを60%の状態で使おうとしたのが、南雲だった。


「別の世界で起こった出来事も吸収し、膨れ上がる存在。それがアカシックレコードの正体なのか。まるで、何処かのWeb小説だ」


 何処かの設定を真似ているとしか思えない、と言うアカシックレコードの特性。


 それは、アカシックレコードという物が存在する世界全てをつなぐインターネット上の百科事典だったのだ。


「これでは、他の世界にインターネットや会話系アプリ等が存在すれば、そこから書き込みも自由自在と言う事か」


 おそらく、今回の事件を思いついた犯人はアカシックレコードを悪用してハッキングを仕掛けたのは間違いない。


 別世界の超有名アイドル投資家が犯人だとすれば、犯人を捕まえる事は物理的に不可能である。


「アカシックレコードなしでARゲームを開発する事は不可能だった。それを踏まえれば仕方がない事かもしれないが」


 スコアトライアルの結果は、3曲で理論値を達成した複数プレイヤーが該当し、その全員からプレイ動画の再生回数を踏まえての上位メンバーを予選通過と言う――。


 ネット上の住民でさえも、この結果は想定していた人物もいるかもしれない一方、これを本気で実行するとは考えていなかった。


 つまり、創造の斜め上を行く発想とは――想定していたが誰も実行しないだろう、と考えていた案の実行。


「ARゲームで世界征服という展開も、超有名アイドルが独占するような世界もアカシックレコードではワンパターンとして記されている」


 自分の下した結果、それに関しての反論も存在し、ネット上でプチ炎上をしている事も把握していた。その上での、判断である。


「結局、炎上の様な論争が一切起きないコンテンツと言うのは夢物語か、それとも――」


 南雲の考え、それはアカシックレコードでも不可能と記されていたメッセージでもある。


 悲劇を繰り返す事、それをループ物として片付けるべきなのか、南雲は考え続け、他のランカー達も考えているだろう。


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